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森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

イギー・ポップ来日公演ライブレポート&ファン歴30年の立場から彼のキャリアの歴史的意義や影響力をたっぷり解説

2025年4月2日、東京ガーデンシアターでイギー・ポップの単独公演があった。

 

2007年に再結成ストゥージズとしてフジロックに出演して以来、実に18年ぶりの来日となったわけだけど、77歳とは思えない強靭なパフォーマンスに完全に圧倒されたのだった。

 

イギー・ポップ、2025年4月に単独来日公演決定 | Daily News | Billboard JAPAN

 

イギー・ポップのデビューは1969年。つまり、キング・クリムゾンとかレッド・ツェッペリンとかブラック・サバスとかと同期の芸歴55年。

つまりパンクロックが誕生するかなり前の時代ですが、その時期にすでにパンク的なことをやっていたということで、「ゴッドファーザー・オブ・パンクロック」とか言われてて、現にセックス・ピストルズやダムドはストゥージズの曲をカバーしている。

 

現代のいわゆる邦ロックは、基本的にすべてオルタナティブ・ロックの影響下にあるんだけど、そのオルタナティブ・ロックはパンクから派生した部分が大きいわけで、そのパンクの元祖であるイギー・ポップという人は、いわば邦ロックのひいおじいちゃん。

直接的にイギー・ポップを聴いてこなかった人にとっても、実は間接的にめちゃくちゃ影響されているのです。

 

アイコンとしてのイギー・ポップ

イギー・ポップを敬愛するアーティストはパンク界にとどまらず数多くいて、またその存在やパフォーマンスはとにかくかっこよくて絵になるので、様々な作品で引用や言及もされてきた。

 

イギー・ポップみたいに踊れるぜ」と歌うレッチリ。「Search and Destroy」をカバーもしてる。

 

ナンバーガールには「Iggy Pop Fan Club」っていう曲があってライブの定番だった。

 

ジョジョの奇妙な冒険』に登場するイギー。「I Wanna Be Your Dog」っていう曲にちなんで犬のキャラクターだし、スタンド「愚者(ザ・フール)」もストゥージズ(「間抜け」の意)にちなんでいると思う。

ザ・フール/イギー【特殊ジョジョ体系理論】

 

岡崎京子『私は兄貴のオモチャなの』の英語タイトルはストゥージズの「I Wanna Be Your Dog」から。

私は兄貴のオモチャなの (Feelコミックス)

 

マリオカート」などのスーパーマリオシリーズに登場するイギーというキャラクターの名前の由来もイギー・ポップ

ワールドオブニンテンドー スーパーマリオ イギー 4インチ アクションフィギュア

 

中国の楊博という画家は、イギー・ポップをテーマにした絵画を発表 - 

イギー・ポップの残像を追いかけて。岩垂なつき評 楊博「no tears」|美術手帖

https://bt.imgix.net/magazine/25074/content/1641871871091_7c8f514efdcedb061eba573a48e13b3c.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0

 

イギー・ポップとの出会い

とはいえ、最大のヒット曲といえば1986年の「Candy」というデュエット曲(N'夙川BOYSぽさもあって割と好き)が全米28位までいったぐらいで一般的な知名度があるわけではないイギー・ポップ

 

多くの人に認知されたきっかけは、1996年のイギリス映画『トレインスポッティング』で「LUST FOR LIFE」と「Nightclubbing」が印象的に使われたことだろう。

 

ユアン・マクレガー出世作でもあるこの作品が大ヒットしたことと、オルタナティブ・ロックがメインストリームに下剋上をカマしていたトレンドもあって、イギー・ポップの再評価が一気に進んだ。

 

そして1998年の第2回フジロック・フェスティバル初日のホワイトステージにヘッドライナーとして出演し、大量のオーディエンスをステージに上げる狂乱状態を作り出して伝説になったのである。

Previous Fuji Rocks '98/IGGY POP

 

 

個人的なイギーとの出会いは、たしか1989年頃にラジオの深夜番組にハマっていろいろ聴いている中で見つけた『誠のサイキック青年団』という番組で、オープニングに「Real Wild Child」が使われていたこと。

 

今思うとこの番組の(というか板井ディレクターの)選曲センスにはすごく影響を受けていて、イギー・ポップをはじめ、ルー・リードデヴィッド・ボウイ、ドアーズ、岡村靖幸電気グルーヴソフトバレエ、プリンス、XTCなどなどを、当時田舎の中学生だった自分に教えてくれたんだった。

 

団塊ジュニア世代の前後の関西のサブカルキッズは、『トレインスポッティング』の何年も前にイギー・ポップに出会っていたんですよ。

 

自分はその後レッチリにハマり、手に入る音源は全部揃えようとしてる中で、1992年に「Suck My Kiss」のシングルに入っている「Search and Destroy」のカバーに出会う。

 

で、この曲が例のサイキック青年団イギー・ポップが昔やってたバンドの曲のカバーなんだと知って、イギー&ザ・ストゥージズ『RAW POWER』にたどり着く。それが中学3年生が悪魔的ロックンロールの虜になった瞬間。

 

 

2025年の来日公演レポート

芸歴55年のイギー・ポップが、ファン歴30年の自分の眼の前に来てくれる。江東区に。

 

それはもう奇跡のような出来事なわけで、最初から最後までうっとりしながらモッシュしたりヘドバンしたり叫んだり歌ったりしてるうちに、18,000円とかいう信じられないチケット代のことも忘れて、ただの中学3年生に戻っていた。

 

ただ中学3年生なりに感じたのは、今回のバンド編成やアレンジの特徴。

 

自分がこれまで見てきたイギー・ポップやストゥージズの過去の来日公演は、荒々しさや性急さが強調された無骨なアレンジや演奏だったなという印象なんだけど、今回はそれらとはかなり異なるアプローチだった。

 

まずツインギターとベースとドラムに加え、ジャズ畑のトランペットとトロンボーンが加わっているという編成

かといって、過度にジャズやソウルやファンクに寄せるということでもなく、基本的にはかなり原曲に近いアレンジで、そこに過不足なくホーン隊が収まっている感じ。

 

それでいて悪魔的ロックンロール成分がないかというと全然そんなことはなく、イギー先生がそこにいる限りちょっとやそっとの改変でヤバさが減じることはないわけで、たとえば「T.V.Eye」や「1970」や「Gimme Danger」あたり、リリースから半世紀を超えているにもかかわらずいまだにヒリヒリ感があるのは本当にすごい。

 

今回の特徴としては、そんなおなじみの悪魔的な成分と同時に、R&B感とでもいうべき味わいもあったこと。

パンクっぽい性急さが控えめで腰を落ち着けた演奏だったせいか、楽曲のメロの良さやR&Bっぽさが際立ったみたい。

「Lust For Life」はもちろんのこと、たとえば「Raw Power」や「Death Trip」や「The Passenger」あたり、これらの曲って、マーサ&ザ・ヴァンデラスとかフォー・トップスあたりがモータウンでカバーしてても違和感がないなと。実はそういう味わいもある楽曲だってことに、30年聴き続けてきたのに初めて気づかされた。

 

こういったバンド編成やアレンジの微調整だとか、2023年の最新曲と50年前の曲が並んでも違和感がないこととか、そしてもちろんステージ上でのパフォーマンスも含めて、77歳にして現役感バリバリなのである。

 

おそれいりました。

一生ついていきます。

 

セットリスト(2025年4月2日 東京ガーデンシアター)

1. T.V. Eye 『FUNHOUSE』(1970)
2. Raw Power 『RAW POWER』(1973)
3. I Got a Right (1972年にレコーディングされていたが当時リリースされず)
4. Gimme Danger 『RAW POWER』(1973)
5. The Passenger 『LUST FOR LIFE』(1977)
6. Lust for Life 『LUST FOR LIFE』(1977)
7. Death Trip 『RAW POWER』(1973)
8. Loose 『FUNHOUSE』(1970)
9. I Wanna Be Your Dog 『THE STOOGES』(1969)
10. Search and Destroy 『RAW POWER』(1973)
11. Down on the Street 『FUNHOUSE』(1970)
12. 1970 『FUNHOUSE』(1970)
13. I'm Sick of You (1972年にレコーディングされていたが当時リリースされず)
14. Some Weird Sin 『LUST FOR LIFE』(1977)
15. Frenzy 『EVERY LOSER』(2023)
16. L.A. Blues 『FUNHOUSE』(1970)
17. Nightclubbing 『THE IDIOT』(1977)
18. Modern Day Rip Off 『EVERY LOSER』(2023)
19. I'm Bored 『NEW VALUES』(1979)
20. Real Wild Child (Wild One) 『BLAH BLAH BLAH』(1986)
21. Five Foot One 『NEW VALUES』(1979)

 

今からイギー・ポップを聴くなら

イギーのすごいところは、デビューしてから55年、ずっとコンスタントに音源をリリースしており、たぶんリリース間隔が5年以上空いた時期がないこと。

キャリアの長いミュージシャンはたくさんいるけど、このコンスタントさはちょっと他に類がない。

 

何十年もやってると、だいたい時代とズレてきて低迷したりバンドだったら関係性が悪化して解散したりして10年ぐらいブランクが空いたりするし、それかずっと同じメンバーで続けていたとしても、新譜はリリースせず過去曲ばかりのセトリでツアー中心の活動だったりするじゃないですか。

その点イギーは、盟友デヴィッド・ボウイと組んだり、若手にプロデュースを委ねたり、ストゥージズを再結成したりと、いろんなやり方でクリエイティビティを維持し続けててすごい。

 

ただ作品がめっちゃ多いので、どれから聴いたらいいかわからないってよく言われる。

そして、幸いにもこういうときイギー・ポップ好きの意見はだいたい一致する。

 

この5枚からはじめてください。

 

『FUNHOUSE』(1970)

これが一番21世紀の若者に刺さるかも。世界初のオルタナであると同時に、フリージャズの影もちらつく異形の名盤。

 

『RAW POWER』(1973)

個人的に一番好きなアルバム。悪魔的ロックンロールの爆発力と底なし沼の引力の両面から中毒にさせてくるおそろしい一枚。

 

『LUST FOR LIFE』(1977)

デヴィッド・ボウイがプロデュースしており、とにかくすべての曲がいい。万人におすすめできる。

 

『THE IDIOT』(1977)

これもデヴィッド・ボウイがプロデュース。クラフトワークとかジョイ・ディヴィジョンとかが好きな人にはこれがおすすめ。

 

『THE STOOGES』(1969)

パンクロックの原型であり60年代ガレージロックの名盤でもあり暗黒サイケデリックでもある。

 

今回の来日のセットリストもほとんどこのアルバムからだし、自他ともに認める充実期ってことであろう。

それでいて、近年の『POST POP DEPRESSION』や『EVERY LOSER』も結構いいのがすごい。70歳を超えてから制作したとは思えないフレッシュさ。

 

ミュージシャンとして作詞作曲やバンド活動を止めてしまったバンドマンくずれの一人として、50年以上に渡ってクリエイティブであり続けられるのって、ほんとうにすごいことだと心から感心する。

 

やはり一生ついていくべきだと思いました。

 

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