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関内関外日記

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【大腸NETの話】朝比奈秋『私の盲端』を読んだ

 

 

「人工肛門」や「オストメイト」で本を探した。もちろん、来月おれがそうなるからだ。一時造設とはいえ、何ヶ月かはそれがつづく。場合によっては永久ということになるかもしれない。それがどういうものなのか、知っておきたい。

 

もちろん、読むであろう本はオストメイトに向けた医学、看護方面の本だと思っていた。たとえば、こんな本だ。

 

 

この本、「ストーマでもこんなに普通の生活がおくれますよ!」という本だと思ってみたら、意外とストーマの合併症、異常状態について写真付きで多く紹介されていて、おれの不安は増した。もちろん、それもありがたい話ではある。

 

話を戻す。そうやって調べていて最初の方に出てきたのが『私の盲端』という小説だった。人工肛門の小説なのか? 

女子大生の涼子は病気のため人工肛門になったことで生活が一変する。その意識と身体の変容を執拗に描き読者の内臓をも刺激する、現役医師による衝撃のデビュー作。

 

と、書いてあるので、そうなのだろう。迷わず読むことにした。

 

冒頭の方で、オストメイト対応トイレのなかでの詳細な描写が出てきた。

 

 涼子は立派な便に頷いてから、パウチの下部を開けて洗浄台へ便の廃棄を始める。入院していた頃の泥のような便とは違って、今では固形の便が続いていた。下痢便よりも太い固形の便のほうが爽快で気持ちよかったが、排便処理の時だけは困った。パウチの下部を開けても便が泥状時のようにスムーズに流れてこないのだ。パウチを外からぐにぐにと揉むうちに大方捨てられるが、どうしても一部は中に残ってしまう。今回も、やはりパウチの中ほどに茶色い便がこびりついている。涼子はシャワーノズルを引き、パウチの中にヘッドをねじこみ、温水を流し込んでいく。シャワーの温水がパウチの中で雨音のようにパツパツと弾けると、それに合わせるように鼻唄が漏れる。

 

おれはこのあいだ、ひとけのないビルのフロアのオストメイト対応トイレにちょっと入ってみた。写真やなにかでなく、実際に見てみたかったのだ。もちろん、まだ病院で説明を受けたわけだから、よくわからない。ただ、「シャワーノズルを引き」というのは、ちょっと触ってみたのでわかる。なるほど、そのように使うのか……。

 

人工肛門になってすぐの、病院での描写もあった。

 

 トイレに入って鍵をかけ、病衣をめくった。底に一センチほど下痢便の溜まったパウチが鏡に映っていて、思わず背を向けた。どうして肛門が自分の目の届かない場所に、尻の谷間に隠されるように存在するのか、そして、なぜ便は固形なのか。その理由が自然とわかって、これはひどい手術だなと呟きが漏れる。

 

たぶんそれは科学的な「理由」ではないのだろうが、そう思えてしまうのだろう。やはり抵抗感はあるものなのだろう……(あ、もちろんこれは当事者が書いたものではなく、フィクションの描写だとはわかっていますが)。

 

普通のトイレでの処理についても書かれていた。

 

 バイト着をめくると、やはりパウチの中には太ましい便が詰まっていた。トイレットペーパーを何重にも折ったものを二つ作って、それを床に敷いた。ゆっくりと便座の前にひざまずいて、床に敷いたトイレットペーパーの上に両膝を着地させた。

 普通のトイレではどうしても便器の前にひざまずいて処理しないといけなくて、そういった時には鳩尾あたりに不快な塊を感じた。他人の尻の下に敷かれ、汚物を受け止めるものにひざまずいて対面しなければいけないのはやはり惨めだった。それを避けるため、普段はたとえ自宅で排便したとしても、わざわざ近くのバリアフリートイレまで出かけて処理していた。

 

……そういうものなのか。なかなか大変そうだ。

 

と、小説の中から人工肛門での処理についての場所ばかり引用した。小説はとうぜんのように面白い。パウチをつけていない人工肛門の男なども出てくる。便意をコントロールできるというのだ。そんな人間いるのだろうか。もちろんフィクションだ。もちろんフィクションだが、著者は医師だ。たしか消化器科だったと思う。書いてあることはたいへんにリアルだ。もちろん、芥川賞を受賞するような書き手の書くことなので「リアルに見える」である可能性もあるだろう。ただ、しかし、まあ、おれはいま、小説の感想を書く気持ちにはなれない。あるいは、自分が人工肛門になってみて、あらためて読み返してどう感じるかというところだろうか。今は、そんなところだ。

 

以上。

 

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