米大統領トランプは2025年2月19日、ワシントンDCは連邦政府が管理すべきだと発言した。これは、米国の首都の位置づけをめぐる数十年来の、意見の分かれる問題に踏み込んだものである。

トランプは大統領専用機エアフォース・ワンの機上で、取材陣にこう語った。「コロンビア特別区（訳注＝DCの正式名称）は連邦政府が管理すべきだ。強力に統治し、法と秩序をもって運営し、完璧に美しい都市にすべきだ」

このコメントは、DCの地方自治を廃止したいと考える共和党の立場と同じであり、DCを51番目の州にしたいと考える多数の住民や多くの民主党員の意見と対立するものである。

制約ある自治

1973年に連邦議会がDCに地方自治を認めて以来、市民は、地方行政を担当する市長と議会を選ぶことができるようになった。

しかし、その自治には、地方自治法により制約が設けられている。DCの議会が通した法案はすべて、連邦議会の審査を経て初めて法律となる。また、連邦議会はその法案を修正したり無効にしたりする権限を持つ。また連邦議会はDCの予算編成に権限を持ち、DCの裁判所の判事を任命するのも大統領だ。

憲法修正第23条により、DCの住民は1961年に大統領選挙に投票する権利を得た。しかし、人口はバーモント州やワイオミング州よりも多い70万人であるにもかかわらず、実質的には連邦議会に代表権を持っていない。代議員を1人だけ下院に送っており、委員会や法案の審議には参加できるが、議場で法案に投票することはできない。

代表なき納税

DCの住民は、連邦税を払っているのに連邦議会で発言権がないという事実に、長年いら立ってきた。2000年に、DCは車の標準ナンバープレートに、「代表なき課税」という標語を付け加えさえした。そして2016年の住民投票では、86%という圧倒的多数の住民が州への昇格を求めた。

州昇格を目指しDC当局が運営するウェブサイトは次のように訴えている。「みなさん同様、私たちは家族を養い、税金を払い、陪審員の義務を果たし、国のために戦い、力強く思いやりのある社会をつくるために努力しています」

州昇格を求める人たちの中には、これを人種的正義の問題だととらえている人もいる。DC当局のデータによれば、人口のほぼ45%が黒人であり、もし州になれば、「米国で唯一、黒人が多数派となる州」になるという。

州昇格は民主党員の間でも強く支持されている。それは単にDCの有権者が圧倒的に民主党に投票するからという理由だけではない。こうした投票傾向からすると、連邦上院で民主党が2議席増やすのはほぼ間違いないからだ（訳注＝連邦上院は各州から2人ずつ選出される議員で構成される）。

共和党に利益なし

数十年来、DCを州に昇格させる試みが繰り返しなされたが、連邦議会でつぶされてきた。共和党は頑強に反対し、DCに与えられた自治権を弱めたり、取り消そうとさえしたりする法案を議会に提出してきた。共和党は、民主党に後押しされた州昇格を求める動きは、憲法違反の権力奪取だと批判している。

共和党の議員たちはDC当局を、特に犯罪対策において無能・無策であるとしばしば糾弾してきた。DCを効率的に運営する唯一の方法は、連邦政府による統治だと言う声もある。

トランプがこのほど述べた批判も、こうした共和党の議論の繰り返しであり、DCには「犯罪と落書きがあまりにも多い」ため、連邦政府による管理が必要だと主張したのだ。

確かに1990年代には、DCは米国の主要な都市の中でももっとも殺人事件の発生率が高い場所だった。しかし、それ以後大幅に比率は低下した。警察の統計によれば、2024年の暴力犯罪の総数は過去30年で最も少なかった。（抄訳、敬称略）

（Qasim Nauman）©2025 The New York Times

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