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サイエンス

チンパンジー同士の戦争に勝利した群れに「ベビーブーム」が訪れたことが報告される


チンパンジーは高い知能を持つ霊長類ですが、非常に攻撃的な一面を持っており、違う群れのオス同士が激しい縄張り争いを繰り広げることも知られています。新たに、そんなチンパンジー間の戦争に勝利した群れで、空前の「ベビーブーム」が訪れたことが報告されました。

Female fertility and infant survivorship increase following lethal intergroup aggression and territorial expansion in wild chimpanzees | PNAS
https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2524502122


A decade-long chimp war ended in a baby boom for the victors, scientists discover | Live Science
https://www.livescience.com/animals/land-mammals/a-decade-long-chimp-war-ended-in-a-baby-boom-for-the-victors-scientists-discover

チンパンジーは古くから集団間の暴力的な衝突、つまり「戦争」を繰り広げることが知られています。イギリスの動物行動学者であるジェーン・グドールは1970年代、タンザニアのゴンベ渓流国立公園でチンパンジーの群れが2つに分裂し、4年間にわたる戦争の結果として片方のグループに属するオスが全頭死亡したことを観察しました。しかし、なぜチンパンジーがこれほど激しい戦争を繰り広げるのかは、よくわかっていなかったとのこと。

チンパンジーの戦争とその結果について詳しく理解するため、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の人類学者であるブライアン・ウッド氏らの研究チームは、30年にわたってウガンダのキバレ国立公園で収集されたデータを調べました。

キバレ国立公園では1998~2008年にかけて、「ンゴゴ」という森に住むチンパンジーの群れが、近隣のチンパンジーの群れと激しい衝突を繰り返しました。10年間にわたる戦争の結果、近隣のチンパンジーの群れに属する少なくとも21頭が殺害されたとのこと。


戦争の結果、2009年にはンゴゴのチンパンジーらが、以前はライバルたちが生息していた範囲にも生息域を広げました。調査によると、ンゴゴのチンパンジーの生息域は6.4平方キロメートル、およそ22%も拡大したそうです。

データからは、ンゴゴのチンパンジーの群れが生んだ子どもの数にも変化が生じていることが示されています。生息域が拡大する前の3年間で群れが生んだ子どもは15頭でしたが、生息域拡大後の3年間は37頭に急増し、出生率は2倍以上になりました。さらに、生息域拡大後に生まれた乳児の死亡率も変わっており、生息域拡大前の41%からわずか8%へと大幅に改善されました。


これらの結果は、ライバルの群れを襲撃して縄張りを拡大することが、チンパンジーの繁殖効率を高める可能性があることを示唆しています。ウッド氏は科学系メディアのLive Scienceに対し、「当時から現場の作業員にとって、チンパンジーがベビーブームを経験していることは明らかでした。データでそれがわかることは予想していましたが、生存率の向上は予想していませんでした」と語っています。

チンパンジーの出生率が向上した理由については、縄張りの拡大によってより多くの食物にアクセス可能となり、その結果として栄養状態と健康状態が改善され、メスの繁殖力が向上した可能性が高いと考えられています。

また、乳児生存率の改善については、「ライバル集団のオスの排除」が原因のひとつとみられます。今回の研究には関わっていないミネソタ大学の生態学者であるマイケル・ウィルソン氏は、「生存率が高いのは理にかなっています。なぜなら、チンパンジーの赤ちゃんの主な死因は、近隣の個体に殺されることだからです」と指摘しました。


今回の研究結果は、特定の状況下にあるチンパンジーにとっては、近隣の個体を殺すことが適応的な行動になることを裏付けています。なお、チンパンジーの戦争では勝った群れが大きな利益を得る一方、負けた群れには中心的な個体が死亡したり、確保できる資源が減ったりするなどの代償が伴うため、チンパンジー全体の個体数は変わらない「ゼロサムゲーム」になる可能性が高いとウッド氏は考えています。

一見すると、チンパンジーの戦争がもたらす結果は人間にも当てはまり、土地や資源を奪い合うために人間も争わざるを得ないのかと思うかもしれません。しかしウィルソン氏は、相手と争うことしか方法がないチンパンジーとは異なり、人間は見知らぬ相手と争うのではなく、交流することで恩恵を受けられる可能性があると主張。「現代世界では、集団間の交流から得られる利益は非常に大きくなっており、戦争のコストも非常に増大したため、一般的に戦争を始めるというのはかなり愚かな考えといえます」と述べました。

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