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なぜ若者は、それでも「安倍晋三」を支持するのか

「批判する奴は陰キャ」という暗黙の認識

「若年層だけ持ち堪えている」不思議

安倍政権の支持率が急降下している。

朝日新聞が実施した最新の世論調査(2020年5月第2回調査)によれば、支持29%
・不支持52%であり、支持率が不支持率を大きく下回る結果となっている。新型コロナウイルス対策が評価されなかったこと、またパンデミックによる経済的打撃が深刻化していることなどが、支持率を急落させた要因として考えられる。

しかし、年代別で細かく見てみると、じつに興味深いことがわかる。29歳以下の若者層の内閣支持率は高く、僅差ではあるものの依然として支持率が不支持率を上回っているのである。*1

朝日新聞世論調査(https://www.asahi.com/politics/yoron/)より筆者が作図
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ちなみに、新型コロナ禍前の昨年12月に行われた調査でも、「桜を見る会」に関する野党の追及、自民党所属議員の不祥事などにより他のすべての年代で内閣支持率が低下した中、18〜29歳では、むしろ前月の調査より上昇している(47%から49%*2)。

ひときわ目につく若年層の「安倍支持」の背景には、なにがあるのだろうか。

安倍晋三は「かわいいおじさん」

テレビのワイドショーやツイッターなどを観測していると、安倍政権を支持しているのはもはや狭量で盲信的なネット右翼だけ――という認識を抱いてしまいそうになる。しかし、こうしたメディアの主な利用者である中高年層にはまったく理解しがたい光景が、多くの若年ユーザーを抱えるタイプのSNS、例えばTikTokでは広がっている。ツイッターで「安倍晋三」と検索すると、上位に表示されるのは軒並み安倍批判、政権批判のツイートだ。しかしTikTokではそうではない。

現代ビジネスの主要な読者層も40代以上の中高年層と聞いているので、にわかには信じがたいかもしれない。もしスマホにTikTokが入っているなら、試しに「安倍総理」とか「安倍晋三」と検索して確かめていただきたい。

そこには「ゆるふわ系おじさん」としてちやほやされ、親しみをもって「イジられる」内閣総理大臣の姿があるはずだ。

「安倍さんに会ってハイタッチしてくれた!」と喜ぶ動画、自作の「アベノマスクのキャラ弁」を紹介する動画、会見する安倍総理の顔をアプリを使って「かわいく」加工した動画――これらが多いもので20万件以上の「いいね!」を獲得している。寄せられるコメントも、批判的なものは極めて少なく、「親近感が湧いた」「かわいい」「応援してます」というような、肯定的なメッセージが多く目につく。

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どうやら、若年層からの「安倍支持」や「安倍人気」のニュアンスは、他の世代とは相当に異なっているようだ。若者たちの間では、安倍総理は「この国の頼もしいリーダー」「反対勢力を退け、諸外国に毅然と対応する右派政治家」として人気があるわけではない。その容姿や、プライベートで時折見せるような「天然」的なふるまいも相まって、「かわいいおじさん」という文脈において人気を博しているのだ。

「仲間内の安定」が第一

若者は安倍総理個人だけではなく、政党としても自民党を支持する傾向が強い。

彼らの多くは「マイクロ共同体主義」とでもいうべき人生観を持つ。すなわち「自分と自分の仲間内だけがうまくいけばそれでよい」という最適化戦略を取っているのだ。自民党が推進する「自己責任」の規範を内面化しつつ、新自由主義的な社会を生き抜いていかねばならないという文脈で、少なくとも社会的・経済的には「現状維持」を提供してくれそうな政党として、彼らは消極的に自民党を選好している。

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もちろん、安倍政権や自民党が、どちらかといえば富裕層に有利で貧困層にはめっぽう厳しい政治をしていることや、将来世代(つまり自分たち)に経済政策や社会保障の失策によって生じたツケを回そうとしていることも、若者たちは承知している。

しかし、だからといって若者たちが野党を支持するようなことはない。「かりに自分たちがデモなどで政治的に抗議しても、自民党はそうした政策をやめないだろうし、どうせ野党は勝てないだろう。そんなことに自分たちの時間や労力といった貴重なリソースを割くくらいなら、せめて自分や家族や仲間くらいは、この冷酷な社会を生き抜けるように、足場を固めることを優先して行動する」と考えているのだ。

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自民党の自己責任論的なポリシーと「自分と自分の仲間内だけで活路を見出していく」というマイクロ共同体主義的な時代精神の利害が図らずも一致している。その意味では、しばしば若者たちにとって自民党は「リベラル」な政党と映り、こうした社会規範や時代の方向性に批判的な態度を取る野党側の方が、むしろ「保守」として見えてしまうことすらある*3

「批判」する奴は「陰キャ」

そしてもう一点重大なのは、若者たちにとって「批判」の捉え方が、一般的な理解とはまったく違うということだ。

先ほど、若者の目には安倍総理が「かわいいおじさん」として映っていることを指摘した。そんな「かわいい存在」である安倍総理に対して、「あべしね」などと罵声を浴びせるような文化人・知識人*4が支持する(むしろ自民党よりも若者に優しいかもしれない)野党に、若者たちがなびかないのも無理はない。

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自民党や安倍政権に批判的な中高年層(とりわけインテリとされる高学歴な人びと)にとって、「批判すること」とは、よりよい方策や建設的な結論を導出するために必要不可欠な営みだろう(もっともネット上では、「批判」と称してほとんど悪口や人格攻撃に終始している人も珍しくはないが)。批判という行為自体はあくまで価値中立的であり、だれでもその権利を持っているというのが、社会一般の常識にかなった「批判」についての理解である。

一方、若者たちはそうは考えない。「批判ばっかりする奴はウザい」などと考えている。

これは政治に限った話ではない。そもそも、「なにかを懸命に頑張って取り組んでいる人」に対して、やたらに批判的な言動をとる人は、「足を引っ張る人」「文句ばかり言う人」「和を乱す人」――つまり、いわゆる「陰キャ」なのである。

「偉い人」なのに「かわいくて」「親しみやすい」安倍総理を、しばしば口汚く攻撃する野党や知識人・文化人たちは、彼らにはみな「陰キャ」で「かわいくない」ものとして映っている。

「批判なき政治」が意味すること

そのことを象徴する出来事が、いまから3年前にあった。元タレントで現在は自民党参議院議員の今井絵理子氏が、ツイッターに「今日から都議会議員選挙が始まります!『批判なき選挙、批判なき政治』を目指して、子どもたちに堂々と胸を張って見せられるような選挙応援をします」*5と書き、メディアやSNSで非難の嵐が巻き起こったのだ。

今日から都議会議員選挙が始まります!「批判なき選挙、批判なき政治」を目指して、子どもたちに堂々と胸を張って見せられるような選挙応援をします^^#都議会議員選挙#本日スタートです#投票日は7月2日#今日は国分寺市#たかすhttps://t.co/NGeLkG8yRopic.twitter.com/copBOXtzQc

— 今井絵理子 (@Eriko_imai)June 23, 2017

その当時に散見された「国民の『批判』にきちんと応えるのが政治だろう!」「批判をするな=独裁を認めろという意味か!?」といった知識人の反応こそ、彼らの目が届かない世界で「批判」という行為がどのようにとらえられているのか、まったく理解できていないことを端的に示していた。

今井議員が発した「批判のない政治」というのは、この発言に憤りを覚えた人びとが考えたような「(安倍)独裁政治を擁護する」ニュアンスの言葉ではない。「やることなすことにいちいち批判したり文句言ったりしてくるような陰キャが湧いてこないスタイルでやっていくんでよろしく!」といった意味合いの言明だったのだ。

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若者たちにとって、「批判」とは建設的で価値中立的な営みではない。攻撃性や陰湿さといった、ネガティブなニュアンスをともなうワードなのである。

若者たちの視点からは、安倍総理は他人の批判をせず、粛々と政策を実行する側であり(政権与党のトップなのだから当然そうなるのだが)、野党はそれにゴチャゴチャと外野から「批判」をぶつける人びととして観測される。若者にとってどちらが「自分たちに親しい側の人間」に見えるかは、想像に難くない(例外的に都市部の高学歴層の若者では、立憲民主党などのリベラル政党を支持する割合が多いといわれる。それでも総じて、18〜29歳の立憲民主党支持率は他の年代と比べて低い*6)。

「社会の風紀委員」への反感

「かわいいおじさん」こと安倍晋三が若者たちから人気を博しているのを「若者が右傾化している! ネトウヨ化している!」などと分析している人びとは、まったくわかっていない。そのような「批判」にこそ若者はウンザリしているのだ。

社会を懸命に前に進めようとしている人は、若者たちからすれば「どちらかといえば仲間」である。ゆえに、それを横から「批判」ばかりしている人びとは「どちらかといえば敵」であり、「陰キャ」であり、あるいは「新しい取り組みを邪魔しようとする保守」に見えてしまうのである。

ここで重要なのは、政策や言動をよく見れば実際は自民党が保守であって、野党がリベラルなのだ、勉強すればそれがわかるはずだ、という政治思想の筋論ではない。あくまで、口うるさく「批判」をしているのは、若者たちの目からはだれであるように見えるか――ということである。

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例えば、いまや若者文化のメインストリームにまでなっているマンガやアニメやゲームの表現に「社会の風紀委員」よろしく文句を言うのは、もはや立憲民主党や日本共産党といった左派政党側とその支持者たちのお家芸になってしまった*7 *8

日本赤十字社 が「宇崎ちゃんは遊びたい」×献血コラボキャンペーンということでこういうポスターを貼ってるようですが、本当に無神経だと思います。なんであえてこういうイラストなのか、もう麻痺してるんでしょうけど公共空間で環境型セクハラしてるようなものですよhttps://t.co/KV5g0W8JpKhttps://t.co/43EpSlzHOp

— 弁護士 太田啓子 (@katepanda2)October 14, 2019

確かに、作品のファン、知っている人にはウケるかもしれませんが、作品を全く知らない人には意味不明ですね。コンビニコラボなどの物販と違って、ファンも大量献血はできませんから、献血側にメリットは余りない気がします。献血の啓発という効果でみれば疑問ですね。https://t.co/3acyJUt9LU

— 向川まさひで (@muka_jcptakada)October 16, 2019

アニメやマンガやゲームを愛好する若者にとって、「この絵柄はけしからん」「性的搾取である」「発売を中止しろ」などと、もっともらしい理屈で「批判」をよこしてくる人びとは「保守」なのである。たとえそれがフェミニズムや多様性、あるいはポリティカル・コレクトネスなどの「リベラル」的な価値観に基づいていようが、若者たちにとってみれば「自分たちの親しむ文化にケチをつける連中」である以上は、「敵」であり「陰キャ」であり、そして「保守」として映るのだ。

若者たちは、愛すべき「かわいいおじさん」に対して、ときにその死を願うほどの憎悪を漲(みなぎ)らせている人びとの罵詈雑言にいよいようんざりしており、甚だしい嫌悪感を持っている。

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安倍政権に批判的な人びと、野党を支持する人びとが、安倍晋三を「極悪人」として叩き続けるかぎり、「若者はなぜ安倍晋三を支持するのか」という謎は解けないままだろう。

*1 朝日新聞世論調査データ「2020年5月定例RDD調査」(https://digital.asahi.com/politics/yoron/download/202005_2.pdf.html
*2 同「2019年11月定例RDD調査」(https://digital.asahi.com/politics/yoron/download/201911.pdf.html)、「2019年12月定例RDD調査」(https://digital.asahi.com/politics/yoron/download/201912.pdf.html
*3 橘玲「自民や維新は「リベラル」、立憲民主や共産党は「保守」?」Yahoo! ニュース、2019年8月13日(https://news.yahoo.co.jp/byline/tachibanaakira/20190813-00137725/
*4「「ソフィーの世界」翻訳者が「あ べ し ね」ツイートで炎上 反省口にした後も「くたばっちまえ アーベ」」J-CASTニュース、2014年4月18日(https://www.j-cast.com/2014/04/18202606.html?p=all
*5 今井絵理子(@Eriko_imai)2017年6月23日(https://twitter.com/Eriko_imai/status/878072125252182017
*6 朝日新聞世論調査データ(https://digital.asahi.com/politics/yoron/report/
*7 弁護士 太田啓子(@katepanda2)2019年10月14日(https://twitter.com/katepanda2/status/1183729350207623169
*8 向川まさひで(@muka_jcptakada)2019年10月16日(https://twitter.com/muka_jcptakada/status/1184264350447439872

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