Kindle版もあります。
爆笑問題・太田光氏、推薦!
TBSラジオ「JUNK」統括プロデューサーによるラジオパーソナリティ論。「結局、ラジオはパーソナリティのものなんだよ」。AD時代に放送作家さんに言われたこの一言が忘れられない――ラジオ番組の賛否を全面的に背負うパーソナリティ。その魅力や必要な能力、聴く人を味方につける技術とは。著者とジェーン・スー、山里亮太、おぎやはぎ、バナナマン、ハライチ、アルコ&ピース、向井慧、ヒコロヒー、極楽とんぼ、それぞれの対談を通して、ラジオパーソナリティとは何かを考える。
僕は小学生の頃からラジオが好きで、眠気と戦いながら、中島みゆきさんや笑福亭鶴光さんの『オールナイトニッポン』を聴いていました。もっとも、当時は今のように「深夜の娯楽」が豊富な時代ではなく、インターネットもテレビゲームもNetflixもありませんでしたから、眠れないときは本を読むかラジオを聴くくらいしかできることがなかったのですけど。
当時のラジオの深夜放送って、パーソナリティが面白おかしく日常を話し、あるいは、リスナーの悩みに本音で答えてくれる、ものすごく「パーソナリティを身近に感じられるもの」でした。
現在のように、深夜ラジオでのパーソナリティの発言がネットでみんなに拡散されて炎上する、ということもほとんどなくて、「ラジオの深夜放送は、自由で率直なやりとりができる場所」というイメージもあったのです。
1976年に生まれ、就職浪人中の1999年、23歳でフリーターとして始めたラジオの仕事。以来25年間、主に深夜ラジオの裏方として従事してきた。
数々のパーソナリティのすぐそばで四半世紀もラジオ番組を作っていると、それぞれの個性や強みに日々感心させられる。パーソナリティに共通する能力や技術や意識もぼんやりと見えてくる。それは言わば”伝える力”だ。ラジオパーソナリティは、相手に物事や自分の考えを正しくおもしろく伝えるにはどう話せばいいかを知っている。
この本、長年ラジオ界で制作側として活躍され、現在はTBSラジオの人気番組『JUNK』の統括プロデューサーをつとめている著者・宮嵜守史さんが、現在活躍中の人気ラジオパーソナリティたちとラジオに対する考えかたやリスナーとの向き合いかた、どんなパーソナリティがリスナーに「共感」されるのか、などを語り合っておられます。
僕は長年『オールナイトニッポン』派だったので、正直、『JUNK』はほとんど聴いてこなかったのです。
テレビですらオールドメディアとして「オワコン」と言われることが多くなったしまった時代に「なぜラジオは生き残っているのか?ラジオでは何が求められているのか?」についての貴重で興味深い証言の数々が収められていると思います。
ラジオ番組というのは、本当に「パーソナリティ次第」なんですよね。
テレビドラマやアニメを出演する役者や声優で選ぶ人もいるかもしれませんが、大部分の人は「その番組の内容」に興味が持てるか、で視るかどうかを決めているのではないでしょうか。
しかしながら、ラジオ番組は「誰がパーソナリティか?」で選ばれる確率が、ずっと高いコンテンツです。
基本、パーソナリティ(+アシスタント)が、声と音楽だけでリスナーとやりとりしながら番組をつくっていくわけですし。
永(六輔)さんがそうであるようにラジオの喋り手のことをパーソナリティ(=個性)と呼ぶのは合点がいく。なぜなら、一般的にラジオはどのメディアよりも人(ニン)が出ると言われているから。性格・人柄・人間性とも言い換えられる”ニン”。声だけしか届かないのになぜなのだろう。
「脳の働き」や「心理的な現象として」など、科学的にはいろいろあるのだろう。だけど、25年この仕事をしてうっすらわかったのは、いくら話が上手でも、どんなに知名度がある人気者でも、そこに「話したい。聴いてほしい」という気持ちを乗せないと伝わらない、そして、ラジオの向こう側にいるリスナーの顔が想像できていないと伝わらない……ということ。伝えることができて初めてニンが出るんだろうし、ニンを出さなけりゃ伝わらない。
落語家や漫才師というのも、ラジオパーソナリティと近いのではないか、と僕は思ったのです。
落語は、ずっと前から同じ噺をさまざまな人がやってきたわけで、多くの観客は「知っている噺を、この噺家はどう演じるのか」を楽しみにしています。漫才のM-1グランプリをみていても、ネタの面白さや技術の高さに加えて、コンビの「ニン」、キャラクターの力が高評価につながりやすいと感じるのです。
ただ、この「ニン」も、100%の正解や公式があるわけじゃない。
真面目、不真面目、ポジティブ、ネガティブ、明るい、落ち着いている……いろんな人がいて、それぞれリスナーに愛されています。
活躍されているパーソナリティと著者の対談を読んでいると、現在のラジオというメディアでのパーソナリティとリスナーの「距離感」はすごく「微妙」なものだなあ、と感じるのです。
ジェーン・スーさんの回より。
宮嵜守史:あと、スーさんと同じ考えを持っていたんだと勝手にシンパシーを感じているのは、ラジオで必ずしも本音を言う必要はないとおっしゃっていたことです。素でいることは大事だけど、必ずしも本音は必要じゃない。でも、ラジオを紹介するときに「本音が聴けるメディアです」とよく言われる。僕はそれに違和感があります。
ジェーン・スー:私も本音自体をあんまり信用していません。その日のテンションとか、今の自分がどういう状況に置かれているかで、本音なんてころころ変わりますから。その瞬間に思っていることであって、状況次第で平気で180度変わっちゃうのが本音だから、ちゃんと説明すれば機能すると思うんですけど、何でもかんでも背景をすっ飛ばして、言いたいことだけ言っていると、積極的に誤解を招くことになるし、誰かを傷つけることになりますよね。
宮嵜:素っ裸になったら、それはそれでリスナーに信用されるんでしょうけど、必ずしもそこに本音が備わっていなくてもいいんだけどなとつねづね思っていて、本音に価値なんてあるのかなとちょっと思っちゃいます。
スー:そうなんですよ。綺麗事の対比としての本音、対極としての本音という捉え方を世の中ではされていますよね。友達の間でしか言えないことが本音だとするならば、それはその後ろの文脈を全部わかってくれているからなんですよね。あと、素を見せるということも、素という通貨で信頼を買うのは品がないと思うんで、そこはやらないようにしています。
宮嵜:確かに意図的にそれをやるのもちょっと違いますね。
スー:だから、「スーさんってこういう人なんですね」という声が集まってきたら、そこから逃げることをずっとやっていますね。それを強化しないように意識しています。
以前、マツコ・デラックスさんが、人間の「本音」について、こんな話をされていたのを思い出しました。
より過激で極端な言葉、誰かを傷つけたり、誰かと争ったりすることをためらわない発言が「本音」だと思い込んでいる人は多いけれど、半世紀以上生きてきた僕は、そういう、本当に思ってもいない、話題づくりのための「ビジネス本音」みたいなものに飽きています。
YouTubeというのは、ラジオに近いところがある、発信者の「ニン」が重要なメディアだと思うのですが、動画でも「炎上商法」にウンザリしている人は多そうです。
「緊急で動画を回しております!」って聞いただけで、僕は「×」ボタン探しちゃうものなあ。
「営業スマイル」でも「ビジネス本音」でもない「素」で2時間しゃべり続けるというのは、かなり難しそうな気もします。
「ニン(人間力)」だけではなくて、パーソナリティの「技術」について語られているところもあります。
小島慶子さんはとにかくメール読みの達人。生放送中に来るまあまあ長文のエピソードを淀みなく、かつ書いたリスナーの意図を汲んだ抑揚で読み進める。下読みなしの所見で、アナウンスメント能力に加え、別のエンジンを積んでる感じ。なのでメールを選んで渡す僕は、安心しきって次から次へと小島さんにメールをぶつけていた。
僕の思うメール読みの達人は、小島さんと爆笑問題・太田さん。太田さんがすごいのは、エピソード系の長文投稿で、登場人物が複数人いてもしっかり聴き分けられること。声色を少し変えて読むのも一因なのだけれど、それよりも太田さんが投稿内容をしっかり咀嚼しているところにあると思う。
表面的に声を変えるんじゃなくて、メールに出てくる登場人物にしっかりシンクロしているから声が変わるんだし、気持ちが伝わる。太田さんに読んでもらえるリスナーは嬉しいだろうな、と「爆笑問題カーボーイ」を聴いているといつも思う。
リスナーからのメールなんて、書いてあることをそのまま読むだけだろう、なんて考えがちなのですが、長年、番組をつくってきた宮嵜さんは、同じメールでも、読むパーソナリティの技量によって、「伝わり方」が違うはずと仰っています。
感情をこめて抑揚たっぷりに読めばいい、とか、パーソナリティの主観がこもっていたほうがいい、というわけでもなくて、過剰な装飾は、かえって「なんだか押しつけがましい感じ」になってしまうこともあり、「読む技術」だけではなく、物事を俯瞰できるバランス感覚も大事なのです。
ラジオ好きにはすごく興味深く、ここで語っている人たちの番組をあらためて聴いてみたくなる本です。
ラジオって、何か他のことをやりながらでも聴けるという強みもあり、動画などの「視る」ことが必要なメディアにはない気楽さも魅力なんですよね。
山里亮太:自信満々になる日なんて、15年間で数えるぐらいしかないですよ。いろいろな人に助けられた15年です。
宮嵜:あと、山ちゃんは正月とか夏休みに休まないよね。
山里:昔から休みたいって気持ちがあんまりないんですよね。『JUNK』の中では新参者だし、かといって何かできてるかといったらできてない。だから唯一、毎週休まずにTBSに来ることが自分のアイデンティティというか。
宮嵜:それも昔から言ってるよね。
山里:ちょうど昨日、うちの奥さんが「喋りたいことがたくさんあるときってラジオっていいよね。いい文化だよね」と言ってたんですよ。それで、「本当は私もラジオをやりたいんだよ」と言うから、「どこでやりたいの?」ときいたら、「今、空きそうな枠があるんだよね。TBSの水曜1時」って(笑)。「いい加減にしろよ」って話したんですけど、うちの家では笑い話だけど、本当にそう思っている若手もいるでしょうから。もし『JUNK』を狙うなら、一番近い敵は僕だっていう。
蒼井優さん面白いなあ!と僕も読んでいてニヤニヤしてしまいました。
なんだかもう、「ごちそうさまです!」って話なんですが。
id:fujiponはてなブログPro40代後半の男。内科医として働いていますが、現在はQOL重視でなるべく機嫌よく過ごすことを心がけて生きています。
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