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琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】一次元の挿し木 ☆☆☆


Kindle版もあります。

二百年前の人骨のDNAが
四年前に失踪した妹のものと一致!?

ヒマラヤ山中で発掘された二百年前の人骨。大学院で遺伝学を学ぶ悠がDNA鑑定にかけると、四年前に失踪した妹のものと一致した。不可解な鑑定結果から担当教授の石見崎に相談しようとするも、石見崎は何者かに殺害される。古人骨を発掘した調査員も襲われ、研究室からは古人骨が盗まれた。悠は妹の生死と、古人骨のDNAの真相を突き止めるべく動き出し、予測もつかない大きな企みに巻き込まれていく--。


妹のDNAがヒマラヤ山中で発掘された200年前の人の骨と一致?
そんなことが実際に起こりうるのか?
その理由が、どのように説明されるのか?

「起こりえないことを、読者に『なるほど、こういうことだったのか!』と読者にうまく納得させるのが、優れたミステリなのだと僕は思います。

この『一次元の挿し木』、第23回『このミス』対象の文庫グランプリに選ばれただけあって、導入部は印象的ですし、文章もうまくて、読みやすい小説です。
登場人物(とくに悪役)には村上春樹テイストも感じました。

なんのかんの言っても、文庫で400ページ近くある作品を、ほとんど一気に読んでしまえるくらい、この先どうなるのか、ここまで広げた大風呂敷をどう畳むのか、気になってしまったのも事実です。

ただ、正直なところ、僕はこの小説、ミステリとしては、あまりにも飛び道具に頼りすぎというか、「実際にはできないことを、フィクションだからとできることにしてしまっている」のが気になったのです。

もちろん、ミステリの中には、「特殊能力が使える人物がいたり、特殊なルールが定められている世界設定」の作品はけっこうあるのも知っています。
ただし、そういう作品は、物語の前置きとして、そこは、そういうルールが適用される世界」であることが明示されています。

密室殺人の謎を解く、というミステリを読んでいて、解決編でいきなり「実は壁を通り抜ける魔法が使えました!」みたいなのは、やっぱり興醒めしてしまう。


fujipon.hatenadiary.com
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「文庫」は手に取りやすいこともあって、僕は『このミス』文庫グランプリをほぼ毎年読んでいるんだな、とこのブログの過去ログを確認していて思ったのですが、ミステリというのは「世界設定で大きな嘘をつくかわりに、その設定については読者にきちんと説明し、ディテールはリアルに描く」というのが王道です。

でも、この『一次元の挿し木』は、「こんなことがどうやって起こるんだろう?」とひきつけられる導入部への「謎解き」が、僕にはしっくりきませんでした。
さすがにいきなりそんなことができるなんていうのは「反則」だろうと思うし、そもそも、キーパーソンとなる人物に「現代社会で、そんな状況でずっと生活するなんて無理だろ」と考えずにはいられなかったのです。
悪役も、怖いといえば怖いけれど、「なんか生まれつき悪人だったみたいです~」という印象で、お話をスムースに進行させるための登場人物にしか思えなかったのです。

「遺伝人類学」の知識が出てきて、「最近のミステリ賞レースの王道」である「ライトノベル専門職ミステリ」っぽさはあるのですが、「遺伝人類学」の知見を活かした、というよりは、奇抜な設定を説明するために、都合よく遺伝人類学を利用した、って感じなんだよなあ。

「謎解き」は弱いけど、「物語」としては、読みやすいし、「読ませる」作品なんですよ。
僕はこれを新幹線で2時間くらいかけて読んだのですが、良くも悪くも「『このミス』大賞の『文庫グランプリ』クラスの作品だと感じました。
ハズレじゃないけど、大当たりでもない。
突っ込みどころも含めての、とりあえず一冊読み切ったという満足感は得られます。

それだけでたいしたもの、ではあるんですけどね。でも、本も、謎解きに唸らされるミステリも、たくさんあるから……


fujipon.hatenablog.com
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40代後半の男。内科医として働いていますが、現在はQOL重視でなるべく機嫌よく過ごすことを心がけて生きています。

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