
最近の嘱目句あれこれ20 2024年 (高澤良一)
◼️春
勁(つよ)さうなものの芽に触る日曜日
民宿の婆の早起き磯菜摘み
味噌汁の具にする磯菜摘める婆
梅は先づ幹を見てそれから花を見て
磯風に飛び砂防風繁殖地
うぐひすの深雪の後の地鳴きかな
海苔篊の乾ける音の中へぶよ
金盞花ぼってり花に雪が乗り
足に当る馬珂貝獲らむ腰振って
湖の波そぞろに花屑寄せてをり
へたくそなわが字が躍る種袋
日は長く長く暮春のはないちもんめ
間延びして長閑竹竿売のこゑ
イートインから丸見え春の坊主山
◼️夏
荒波の上を飛ぶ鳥鰹時
磯鵯は欲張り鳥の異名持ち
路線図の端っこで降り海水浴
こりゃ何事手筒花火を脇抱え(遠州新居町)
地べたより飛び立つ感じ手筒花火(てづつ)とは
迷ひなく一気につける心太
はつなつの牛に向かってお早うと
東海の雨にびしょ濡れ蛇いちご
亀の子ののこのこ這ひ出す御前崎
蟹漁の網上げ大漁ざらざらと
蛇いちご群るこの辺で道尽きて
この歳まで深夜の蟹漁四十年(さる漁師曰く)
干涸びて市松模様の海蘿かな
のっぺらぼうの畑車窓に麦の秋
口先を突き出し居る魚皮剥とぞ
根腐れの始まってゐる布袋草
萍の雨に打たれて小躍りす
老鶯の真っこと徹る声であり
夾竹桃水はごくごく飲むべかり
手に当る雨やボートを漕ぎ続け
プールより上りし足跡点々と
若冲が描き漏らせしもの五月蠅(さばえ)
金蠅のいきなり発てり汚物より
水飯や梅のさねには天神をるぞ(梅を食うても核(さね)食うな中に天神居てござる)
踊る日の髪洗ふにもしーくわーさ
岩盤浴酸味がよしと菰纏ひ(玉川温泉)
庭の蠅いつしか居間に紛れ込み
萍の漂ふ如く夏至の温泉(ゆ)に
そそそそと蚊帳に寄す風薄みどり
◼️秋
正面に昼月のっぺりいい温泉(ゆ)であった
どかどんと田畦に咲いてまんじゆさげ
鳥威しひねもす金ピカ田んぼの中
願い数多の七夕竹と云へば病院
蜻蛉の影投げかけて蓮(はちす)の上
朝顔の押し広げたる花の淵
窓枠のパテの真白き秋旱
船上のデッキひろびろ秋乾く
お茶の水ムーンライトと云う茶店
三日月の傷を眉間に俳優(わざおぎ)や(月形龍之介)
お茶の水駅前良夜の待合せ
お茶の水駅前良夜のランデブー
十六夜の水母来たるは冥土より
無言にて残念無念の無月かな
雨嫌ひ真夜中の月遁走す
宵闇の迫ればフランク永井の歌
云うてみる嘶くやうにタイフーン
鮭颪羆の谷を通り抜け
芋嵐そっちの方へ意を変へて
桟橋は水に浸かりて雁渡
秋雨は投げやりな雨もう上る
秋霖のつつつと草を土を打ち
愚図愚図して行く気失ふ秋曇
稲妻が切って捨てたる太刀の跡
秋夕焼ひょっこりひょうたん島の沖
下山行絶えず濃霧に遮られ
道探す滅法深き霧の中
芋の露揺らしてやるのももう飽きた
秋川の流木流れ着きしまゝ
秋川の渦巻く処しゃがみ見て
秋川の渦巻く処じっと見て
水澄みに澄む大川でありにけり
瀬音立て大井支流の水の秋
大川は無音に徹し水の秋
これ以上透ける筈なき水の秋
あちこちに草突っ伏して秋出水
畳なはる秋山模糊と遠江
ケーブルカー乗り継ぎ登る山の秋
粧う山真正面にケーブルカー
刈田道脇をちょろちょろ川の音
穭田のちょぼちょぼ遍き光の中
秋の海礁に祀る弁財天
秋の田の百人一首はこれ取らねば
盆荒れの江之島沖に舞へる鳶
足跡の何處までつづく浜の秋
秋潮が礁を打てる音たぷたぷ
干柿にふすぼる如く盆地の日
皮を剥くことの単純きぬかつぎ
むらさきに溺るゝごとく菊膾
ご自慢の新蕎麦打って流行る店
勉学子の夜食に大きおにぎりを
川沿ひに灯の点く湯町親しめり
パタパタとおすもうさんの秋団扇
難読の一字ありけり秋扇
秋簾傾き放題釣具店
火恋し恋しと寄れる炉端かな
植木屋の代も変りて松手入
はらはらと松葉零せる松手入
よれよれになりても案山子なほ佇てる
苔庭に音の吸はるゝ威銃
コンバイン日がな音して扇状地
空ら響きして脱穀のコンバイン
種採の素顔を秋の日に浮かせ
妻記すメモ書きを読む賢治の忌
糸瓜忌の屋根這ひ廻る糸瓜づる
鬼やんまかっと目開き死んでをり
塩辛とんぼ敏感にして日の翳り
その辺り一遍見たきりかげろふ死す
落蝉に係わりのなく発てる風
耳許にその声淡く残る蝉
よく通るかすかな声で暁蜩
残る時間百も承知でおおしいつく
蟲すだく原っぱ歳々無くなりて
しくしくと痛む奥歯や虫しぐれ
こほろぎの貌思ひ出す音色より
雑音に過ぎなき声や青松虫
鉦叩虚子を忘れてゐて久し(嘗て 虚子の世さして遠からずの波多野爽波句有りたれば)
チョンギースと長鳴き心に沁みるなり(螽蟖)
ガチャガチャと麻雀してゐる轡虫
きちきちと云うて飛ぶ虫ありにけり(飛蝗)
その不様みんなが囃すおんぶバッタ
害虫の顔のありあり実盛虫
又の名の拝み太郎を拝命す(蟷螂)
暗がりに異様な形して隠座頭(茶立虫)
悪童の矯めつ眇めつへっぴり虫
鉢の土空ければとび出す柚坊が(芋虫)
髭長のいとどか風に吹かるゝ図(竈馬)
小癪にも溢蚊わが顔刺しに来ぬ
螻蛄鳴くや荒唐無稽な声発し
こゑ殺し地虫鳴く夜の腹話術
実際は螻蛄の声てふ蚯蚓鳴く
稲雀悪事働くやうにも見え
大食の鵯(ひよ)の図体他を圧す
大食の鵯(ひよ)来て啄む実南天
どう見ても椋鳥は小心持ちの鳥
鵲に纏はる蘊蓄聴きゐたり
鉢巻してブナの木突っ突く鳥ならん(啄木鳥)
渡り鳥撮らんと人の頭数
まだ見えて居るなり里を去ぬ燕
譬ふなら帰燕の軌道ブーメラン
鰡飛んで横濱未来都市の空
鰡飛んで横濱未来都市夜明け
鯊釣や缶からひねもす前にして
捌く前真鰯の眼の充血す
鮭昇る川沿ひを吾も又上る
太刀魚の伸びきりし体船端に
馬肥ゆるおすもうさんも又肥ゆる
猪の賢さを云ふ婆再三
踏ん切れず迷ってばかり穴惑
鳳仙花「あの娘が欲しい」はもう止めよ
白粉花やたらに咲いて安っぽし
鶏頭の本数数へる迄もなく
雁来紅その顛末は無惨なり
コスモスのもたれ合ひつゝ花了る
コスモスや一天抜ける許りなり
蘭展の変てこな蘭人集り
柿紅葉一心不乱に掃く下男
石畳銀杏黄葉に埋もれけり
散るいてふ水舎すっぽり包みけり
黄落の堀割巡る手漕ぎ舟
柳散る千代田の城の奥深く
一葉落つ慧可断臂図を心中に
だだっ広き皇居広場や新松子
底紅に無音の雨や玻璃戸越し
木犀に錆色の雨一日中
廃屋に近き母屋や竹の春
木の実独楽その人の人となり語るかに
藤の実や抜刀気合ひ諸共に
団栗がどっさり捨てあり搦手門
椎の実のここだく大使館門前
実を降らす榧は錆つく木となれり
茱萸えぐしへどもどしてゐる子が沢山
これから下山この雨上がれ山ぶだう
濃紺にひたすら無心の桔梗なり
金気水稲株犯し始めけり
初氷手水鉢より外し来ぬ
狐火に千住の狐書き足して
つららつらら天地無用のつららなり
降り出してゑのころ草にまろぶ雨
朝(あした)まだ何時迄咲くやブルーヘブン
噛みついた虫何だろう潰したろ(大阪風に云ってみたくなった)
大阪や夕霧逝く日暗澹と
良寛忌てんてん手鞠手が外れて
実朝忌今に引き継ぐ万葉ぶり
義士中の義士でありしが義仲忌
義仲・巴・芭蕉と連なる線いつぽん
べい独楽にべい独楽重ぬをガッチャと云ふ(子供用語)
男(お)の子の面目ペチャを自在に繰れること(ペチャはべい独楽の背丈で、かなり低いベーゴマで攻撃力は最強である)
ぱんぱんに強(こは)き水張り海蠃(ばい)の床(とこ)
海蠃打ちが番長面して一稼ぎ
べい独楽のちんちろちゅうは足攫い(ちんちろとはペチャの謂。独楽の尖端をヤスリ等で尖らしたもので、背丈は低く床に食い付き相手のベーゴマを弾き飛ばすもの)
腰重き高王(たかおう)中高(ちゅうだか)取って投げ(高王、中高は背丈の謂)
べい独楽の蘊蓄聞かせ老の春
【註】嘗つてベーゴマ仲間に歯科医の息子が居り、それが歯を削る器械を使いちんちろ(ペチャ)を作り、おお目玉を貰ったことがあった。近所のご縁で今、その息子の子供に歯を診て貰っている。嗚呼。
◼️相撲
早いもの呼び出し次郎ことし定年
豊昇龍こなすテッポウ五百回(霧島戦)
おお玉鷲四十歳のこのすもふ
自己暗示おのれにかけて初日(しょにち)のすもふ
こんにゃくのやうに押し込められても勝つすもふ
のけぞっても重心ぶれ無きすもふとれ
わが贔屓の気負わずにゆけ琴櫻
翔猿戦能登復興の大ノ里(初日黒星)
ことしもや翔猿・宇良は曲者ぞ
(ことざくら)あはてずにとるのが横綱大相撲
豪快な突き押しすもふを玉鷲は
王鵬のぴちぴちすもふあれ見たか
大栄翔の一生懸命は誰にも明らか
昨年一番伸びた力士は王鵬よ(尾車親方談)
希望もたらす若元春てふこの字面
王鵬は今年上位戦の目玉になりさう(尾車談)
翔猿はピストルみたいな力士である(私感)
翔猿は客沸かす相撲今日も又
三連敗の後の霧島九連勝
霧島に食いつかれぬやう高安は(勝者は霧島)
期待せり宇良に潜られたりせぬ相撲(王鵬戦)
強き視線ぶつけて今日も豊昇龍
不覚にも暗褐色の負けすまふ
番付もちう位なり一山本(一茶句に「目出度さもちう位なりおらが春」あれば)
◼️冬
ささくれ立つ銀杏枯木を過(よ)ぎる日輪
日めくりに大寒の文字黒々と
上げ潮に鴨町川を遡る
海岸沿ひ大根櫓の日南線
石蕗が咲き舟立ち寄れる島日和
マーガレット意気消沈の霜夜なり
人生は半分酸っぱし酸茎(すんき)もまた
酸茎(すんき)漬やんちゃな嫁程すっぱしと
初心不完徹まはれ右の年なり
粉雪を吹いて確かむからから度
芙蓉の実小春日和に洞然と
風邪薬効くの効かぬのどっちなんだい
息白く参ずる座禅は建長寺派
振り飛車に頭悩ます懐手
静岡匂の苗木何とか根付いたか
天候と歩数のみなる日記果つ
賀状書く親戚筋を手始めに
臼杵が通路を塞ぐ年の市
吹きさらしにある日突然門松売る
バルコニーから白波一望年の宿
小作りに門松二本飾り了へ
年の火の紅(くれない)映る火掻棒
年の塵すすすさささと掃納
年の火のどどどと落ちて焚き終(じまひ)
ぶり返す寒気度々避寒宿
びっくりする赤さの鳴戸巻(なると)晦蕎麦
探梅の遠回りして山の野辺
身ぶるひして海より上がる寒泳者
今日もまた水雷艦長冬休
寒釣や露伴の幻談思ひつゝ
夜咄や声をひそめておしら様
竹馬が上手になったと駈けて見せ
竹馬の乗り降り上手とほめてやり
雪丸げずいずいずっころばしの歌が出て
苦労して作り上げたる雪兎
シュプールの野をへめぐりて自然体
フィギュアスケートスピンをもって完了す
ラグビーのスクラムみしと組み上がる
先づ形目鼻付けるはその後だ(福笑)
先づかたち目鼻の配置はその後よ(雪達磨)
燈籠を海辺に並べ敷松葉(伊藤博文邸)
カトレアの口紅むらさきビニールハウス
横濱の坂東橋のお酉さま
帯解は遠き昔のことなれど
山門をすり抜ける風終弘法
冬至湯に何かリセットして退出
大空へ鶴が羽ばたく銭湯絵
焼き過ぎの潤目を噛めばかったるし
くちゃくちゃと歯に粘着す焼潤目
寒鯉は川底をゆく潜水士
干物の氷下魚を焼けば湖の味
捌かんか海鼠の頭(かしら)をひっ掴み
十三湖蜆がとれて出稼ぎ止め
牡蠣割女何とかかんとか云ひながら
寒蜆砂地豊富な枝川に
松葉蟹タグを付けられ出荷待つ
鰰の羽ばたき音頭とる如く
凍蝶が羽バタつかせ石の上せ
冬の蜂巣守る気力未だありぬ
綿虫の着ぶくれ奴風に乗り
冬の蚊の亡霊めきてついと消ゆ
枯蟷螂センサーライトの感度持ち
萎れぬやう新聞濡らしてシクラメン
ポインセチア円形球場見ゆ茶房(羅馬)
水仙や一年二組の渚ちゃん
室咲きのぼってりストック伊戸土産(房総館山伊戸集落)
はや霜月グラディエーターII上映
沖乗りの船が北上石蕗の花(北前船)
音無しの構へと云はん枇杷の花
枇杷の花古武士然たること止めず
息に息対峙ひひらぎ咲ける日の
山茶花の砕かれ心密やかに
花八手小寒き雨に白誇り
冬青の実まばらなるそれが心情
髪たとふなら霜枯の泡立草
木の葉散るいろはにほへと学ぶ子に
朴落葉ばっさばっさと踏みゆけり
いっぽんの杖を頼りに冬木道
寒林の向うに根岸競馬場
鱈ちりの鍋物白煙どっと上げ
カリフラワーに代はり目下はブロッコリー
大根擦り白子の上にこんもりと
人参のゴロゴロカレー平らげぬ
正月用慈姑高くて見送りぬ
寒芹を洗ふ水音ぴしゃぴしゃと
冬苺スカイベリーは頼もしく
冬苺今の流行りは栃おとめ
木守柿見上げて雑談村の衆
冬林檎この先だうなる温暖化
函買ひの蜜柑を妻に大奮発
麦の芽や渡瀬川の川向う
悴む手でガチャりと湯屋の下足札
寒鰤の煮付けにご飯お代わりす
狂言の足袋ひたひたと橋掛かり
年の瀬にゴミ出し当番廻り来て
狸の腹象の尻見て浮世風呂(亀遊館)
身をよじり我は風の子寒風裡
◼️新年
矢の如し一月五日の救急車
欽ちゃんがテレビに出て来て成人の日
あらたまの風呂屋の彩光午後三時
ぶらと来て湯ぼてり鏡開きの日
ぐるっとなー大平台のヘアピンカーブ(大学箱根駅伝)
小涌園前の大歓声大拍手
立教大快走山での四人抜
さあやって来た立教大大躍進
青山学院芦ノ湖湖畔で笑ふ為
日体大ここまでが明日シード圏内
安心して卒業出来るよ駒沢大(一年生活躍)
初日了ふ明日の復路が楽しみよ
唄ひ初め聞くよクミコのサン・トワ・マミー
新春東西笑いの殿堂テレビ放映
鈴本の渋い後ろのかべの色(演芸場)
こわいろ芸団扇でパタパタ鶏の鳴く
あれから何年相も変わらぬ猫八芸
江戸屋猫八猫と羊をめえーめいと(猫は短く長く 羊は太く短く)
ケキョケキョホーホケキョ江戸屋の伝統はつはるうぐひす
聴く方も難儀「長短」てふ落語(柳家さん喬)
足許から鳥が発つやうはつ春漫才
三ヶ日絵本にあるよな乙な月
パタパタと扇子で小田原遺恨相撲の段(神田伯山)
神田伯山荒岩vs雷電為右衛門
「これがスタジオにはない盛り上がりだ」とまさぐるようにLive新宿(神田伯山)
好晴れの五日出掛けて亀遊館
地ビール作りしながら伊勢海老食はす店(海鮮丼)
顎外さむばかりの古女にとりかかり
あらたまの絹の光沢持つ繭玉
正面に湯呑と箸置く四方の春
昇る日や海に遍くお元日
側溝より白煙上がる大旦
昨年の二日は何をしていたっけ
散歩先寝床に思ふ二日かな
寝て食って無為に遊んで三ヶ日
三日早や映画心の蠢きぬ
地下鉄の出口を探す五日かな
釣り堀を車窓より見る六日かな
ぎいと鳴く鳥の来てゐる七日かな
城郭の姿正して松の内
大正月ありてのそもそも小正月
松過ぎの鉛筆削り空廻り
松過ぎの開け閉め出来ぬ古門扉
魚(いを)好きの頭(かしら)正月愉しめり
骨正月築地通ひの祖父たりき
くうと鳴き打ち過ぎるもの初御空
淑気満つ堰にたっぷり溜まる水
初茜さすと云ふより貫けり
船笛の太く短く初東雲
つつつつと湖面結氷初日影
初凪の江之島丸ごと海の上
萬物の息吹き返す御降に
民間衛星打ち上げ成功星新た(初夢に)
初霞汽笛ぼうっと東京湾
初松籟嘯くやうに吹くことも
初松籟ずんずと道は林抜け
鏡餅私の贔屓は鏡里(「鏡」絡みで云へば、あのアンコ腹の横綱)
ちゅんちゅんと朝告げ鳥は井戸端に(初雀)
青葱を横たへ俎始かな
真似事の屠蘇とて何処か有難き
長男に先づ注ぐ年の酒の音(屠蘇)
雑煮抓む湯気の中なる面構へ
お雑煮を食うぶお箸の片ちんば
雑煮餅舌もねっとり同類ぞ
数の子や重箱に目を遊ばせて
満遍なく五万米は嚙めと祖母の教え
黒ダイヤモンドめくなりこの黒豆
草石蚕てふおもしろきもの買うてみる
草石蚕てふ形も味も変てこで
寺前の神社に参り年の礼
お隣へ訪問礼者らしき者
年玉に美雨としたためお元日(孫)
いつまでも続く年賀状といふやりとり
年賀状ことし限りと云うのも来(く)
常夏のオアフ島より初便り
元日の初電話にして長電話
初刷を買ひに出掛けぬコンビニ迄
初刷の新聞あちこち読み漁り
初刷の新聞二、三紙抱へ来て
諸行事をみんな絵にして初カレンダー
妻書き込む五年日記と云う奴を
日めくりの暦千切るや慎重に
すうすうと昔のまんまの初湯殿
湯加減はこんな処と若湯かな
床へ塵きらきら舞はせ初箒
ていねいに昔の人は初鏡
部屋隅の埃かぶれる初鏡
真中に弁財天や宝船
しとしと雨朝っぱらから寝正月
初針や母は「直し」で生計立て
玄関に散らばるズック新年会
読初めの黄表紙岩波文庫本
初夢に股旅物の錦之介(萬屋錦之介)
初笑顔声帯模写の江戸家猫八
泣初の終(しまひ)はしゃっくりしてけろり
初喧嘩映画の中の錦之介(萬屋)
長編の映画三日の股旅物
姫始古式ゆかしく深雪の夜
初日の出正月様を正面に
旅始雪嶺不二を車中より
初旅や新幹線の窓越しに
乗初の京急川崎後にして
初乗の電車すと出て大師まで
初飛行音の接近東(ひんがし)より
御用始空気のうまい霞ヶ関
飛行機のビラ撒きゆける学校始(昭和の尋常小学校にて)
新年会崩れのダベリ居酒屋にて
雪ちらちら新年会の帰り道
遠来の客のあいさつ初句会
一音の選句の名乗り初句会(濱編集長 岡田鉄さんの「テツ」の一語)
初相場ちんぷんかんの「株」用語
初荷旗ハタハタ靡かせ東海道
初売りの加湿器上ぐる白けむり
初売のライト煌々ヨドバシカメラ
ガサばってめでたき色味の福袋
目力の強さうな奴福達磨
送迎バスひっきりなしの達磨市
買初めのセンサーライトヨドバシにて
気っ風よき小柴の漁師漁始
鍬始カキンと一つ石の音
初山に雄叫び挙ぐる鳥は何
初漁の真鯛を捌く船の上
獅子舞の獅子は消防団員にて
獅子舞の推参二日の午前中(町内巡回)
オブラートに包む四日の粉薬
坊主めくりありゃまぁ等と呟きつ(歌留多)
福笑ひ顔から鼻が遠ざかり
福笑ヘタクソを絵に描いたやう
絵双六三つ進みて大井川
福笑そのままにして子供部屋
流行りの季語投扇興の句は撰らず
福引のがらんごろんとどぶ板通り(横須賀汐留)
弾初の顎を当てがふバイオリン
謡初しもた屋裏の一軒家
スイミングの痩せ、太っちょの泳初め
左卜全惚けて笑ひ取る年初
初っ端から五十鈴出て来て初芝居(山田五十鈴)
三平の初席辺り見渡して(昭和の爆笑王 林家三平のよし子さん)
へちゃむくれ顔の円鏡初高座
いいやうに解釈をして初御籤
鎌倉迄山を歩いて初詣(昔々大三十日金澤文庫から山伝ひに)
初護摩のけむりの向うより円歌
白朮火をくるくる廻す又一人
これみんな破魔矢納めに来し人達
七福神詣えらければ順番制に
臨済宗建長寺派なる円応寺
建長寺傘下の寺の初閻魔
浅草寺鳩も出ばって初観音
何となく行先決まり初大師
亀の子せん土産に亀戸初天神
縛られ地蔵とげぬき地蔵初地蔵
初読経南無からたんのとらやーやー
七草や笑顔揃ひし朝の卓
海の風とんどのほむら一煽り
長沢や雪のちらつくどんど焼(京急 横須賀 長沢海岸)
紛れなきとんどの火の粉でありにけり
我流にて妻の作りし薺粥
福笹を提げ来る足許弾む也
宝恵籠の夜半と呼ばれ尊ばれ
餅花のもちもちするを団子状
俳諧の詠み手押しかけちゃっきらこ
なまはげ詠む面々鉄ちゃん、地元の衆(濱主催松崎鉄之介の仲間裡の愛称は鉄ちゃん。地元は秋田支部)
成人式祝ふ親父の目出度顔
一月場所分厚き拍手打つ力士
大坂や夕霧逝く日暗澹と
良寛忌てんてん手鞠手が外れて
実朝忌今に引き継ぐ万葉ぶり
義士中の義士でありしが義仲忌
義仲・巴・芭蕉と連なる線いっぽん
初声の鴉越えゆくトタン屋根
cock-a-doodle-dooとは外国(とつくに)(初鶏)
初雀参拝の人何のその
初鴉平屋ばかりの我が町内
初鳩や鎌倉宮の大臣山
嫁が君今夜は二日と心得て
楪は常緑高木にして目出度し
裏白の剥がされがちに浜の風
裏白や熊野神社の急かいだん
福寿草笑ひの絶えぬ福禄寿
一生に一度の事よ若菜摘
御鏡の上に橙ちょこなんと
葉牡丹を早めに飾りペットショップ
啄ばまるゝことなど決してなき萬両
葉牡丹の三本仕立て三渓園
千両の枯れ茎かりかり刈り取れり
町内でめんこの修行(けいこ)松の内(懐古 少年時代)
◼️雑
燭点し十二神将籠る堂
座布団を枕替りに居眠れる
我が生き様眼横鼻直もっぱらに
目の前をぶらっと過(よ)ぎるもの銭湯(亀遊館にて)
一っ風呂浴びに銭湯亀遊館
六角精児の呑み鉄本線・日本旅
ディーゼルに乾杯!日南線の旅(志布志)
よく見ると鯉は不細工でも可愛い
ぶらりと寄る油津「旬」といふお店
油津で呑み鉄 養鶏地鶏の店(地鶏刺し)
敷地の水使い焼酎作りとぞ
この水でチョウザメ養殖余録とす
ほほえましき挿絵はリハの通信欄(介護手帳)
新婚ではないが鬼の洗濯板を見に(日南海岸)
こそばゆき高齢入浴優待券(530円のところ230円に割引 但し月に一回)
蔦重の吉原案内ハウツウ本(蔦屋重三郎)
波瀾万丈 蔦重 栄華の夢話し(大河ドラマ)
知恵絞る蔦重江戸のメディア王
【参考】蔦屋重三郎 略称 蔦重
生まれ: 1750年1月7日, 吉原
死去: 1797年5月6日, 江戸
代表作: 『吉原細見』
影響を与えた芸術家: 大田南畝、恋川春町、山東京伝、曲亭馬琴、喜多川歌麿、葛飾北斎、東洲斎写楽など
生誕: 喜多川 柯理; 1750年2月13日; 新吉原
著名な実績: 版元、狂歌師、戯作者
御蔭で私めは学生時代から狂歌、黄表紙、青本、赤本、戯作本、滑稽本を読み漁った。一茶は高校時代から。明治時代では成島柳北に惚れた。江戸では東海道中膝栗毛。絵双紙。
【漢字部首がらみの俳句】
又ーマタ 一の目が出て双六の藤沢宿
厂ーガンダレ ガンダレの雁風呂流木焼べ足して
几ーカゼカンムリ カゼカンムリ凧正月の空高く
オオザト オオザトの郭公結構な声で
口ークチ クチにして囀りの小鳥たち
口ークニガマエ クニガマエ囮使って勝つ戦(いくさ)
宀ーウカンムリ ウカンムリの案山子の翁おかんむり
虫遍の蛾、蛆、蚤が泳げぬ者
以上
(妄言陳謝)