独活
例句を挙げる。
あたゝかや煮あげて独活のやゝ甘く 久保田万太郎
おくれきしひともてきたり独活一束 川島彷徨子 榛の木
かくれ滝鳴る山中に独活を提ぐ 村越化石 山國抄
ぎりもなく独活群れにけり秋の風 石田波郷
くらがりで独活がつぶやく踊らうよ 嶋田麻紀
さくさくと心はげまし独活を噛む 仙田洋子 雲は王冠
さもなくば独活の花見て帰られよ 榎本好宏
さらし置く山独活の根にはしる紅 上野さち子
せはしなき身は痩せにけり作り独活 服部嵐雪
つちふるや抱きてつめたき独活の束 藤原 如水
もてあますー酌独活を噛みにけり 岸風三樓
もやし独活しきりに咲いて日当れる 萩原麦草 麦嵐
もやし独活鉄砲かつぎして戻る 高本時子
やうやうに掘れし芽独活の薫るなり 杉田久女
バス囃す小わっぱどもや独活の花 富安風生
一人居て一人の昼餉独活香る 阿部みどり女 『微風』
人妻の突つかけ下駄や独活の花 清水基吉
冬の独活毛むくじやらなるところあり 辻桃子
吾子癒えて水に放てる独活の張り 中村明子
味噌擂るやかたへの笊の独活分葱 石塚友二 光塵
和へくれぬ泉に浸し置きし独活を 大野林火
咲きこぞる独活の一と谷十和田湖へ 本川晴代
啄木の墓に獅子独活花かざす 金子伊昔紅
啓蟄や折らねば独活の香を立てず 殿村莵絲子 雨 月
地酒あり山独活掘つて奢とす 福田蓼汀
埋れゐし去年の声々独活を掘る 金箱戈止夫
壁の貼繪は天皇一家芽独活煮る 松村蒼石
夕立に独活の葉広き匂かな 其角
大皿の青饅のなか独活の紅 瀧澤伊代次
娶る賑ひ独活も二番芽掘られけり 久米正雄 返り花
子を連れて畑に出るや独活の花 森川光郎
室いでし独活の初荷も多摩郡 柳原佳世子
室の独活切るや犇めく白さ切る 大橋敦子
山峰の声する独活の立木かな 広江八重桜
山淋し萱を抽んで独活の花 島村 元
山独活がいっぽん笊にあるけしき 中原道夫
山独活に木賃の飯の忘られぬ 炭 太祇 太祇句選
山独活に東京者の舌づつみ 高澤良一 燕音
山独活に舌荒されし夜の瀬音 稲垣きくの 牡 丹
山独活に蠅とぶ梅雨の晴間かな 石原舟月 山鵲
山独活のあくのしたたかなりしかな 大野崇文
山独活のいたき誇や甥の僧 会津八一
山独活のひそかなる香の我が晩餐 有馬朗人
山独活のみやげ追つかけ渡されし 緒方時子
山独活の伊達政宗忌霽れにけり 古舘曹人 樹下石上
山独活の土つくまゝに逞しき 坊城としあつ
山独活の枯れ一ゆすり穴まどひ 村越化石 山國抄
山独活の汁に浮かべり父の顔 瀧澤伊代次
山独活の野趣に浸りぬ湯治宿 石田冲秋
山独活の香の乱れたる太平洋 橘川まもる
山独活やひと日を陰の甕の水 桂 信子
山独活を折りしその香も梅雨ふかし 大島民郎
山独活を食ひし清しさ人も来ず 野澤節子 牡 丹
岐れ路のいづれも寺へ独活の花 吉田垢童
思ひきつて独活大木となつて見よ 寺田寅彦
手料理のへたくた独活をつかひけり 尾崎紅葉
擂鉢の独活のあへものめされけり 蕪村
春隣独活ひそむ地のやはらかし 苅谷敬一
昼月や山独活を掌に匂はしめ 石田波郷
曳売のぶつきらぼうに独活を見せ 高澤良一 ねずみのこまくら
朝市の山独活にして緑濃き 倉橋みちゑ
朝食は素顔しゃきしゃき独活を食ぶ 勝尾佐知子
来む世には独活に生れて恋はすまじ 齋藤玄 『玄』
死など思ふ独活さりさりと食む真夜は 櫂未知子 蒙古斑
残雪の丹波よ独活を食めば見ゆ 飴山實 辛酉小雪
毒の水激ち獅子独活花盛り 岡田日郎
水に独活削ぎ落す香の五月かな 西村公鳳
洗ひたる独活寝かしたる目笊かな 石川桂郎 四温
深海にまなこなき魚もやし独活 野末たく二
照り降りの独活のあく抜く大盥 榎本好宏
独活あれば独活摘むやっぱり女かな 高澤良一 寒暑
独活たべて熱き言葉をおもふべし 加藤三七子
独活のいろうすむらさきにまた紅に 田中冬二 俳句拾遺
独活の実の露あるが降る下山かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
独活の実や雲の夕映身に染まず 渡邊水巴 富士
独活の目が天主のごとく光りだす 平井照敏
独活の色万葉女人の恋のごと 田中冬二 冬霞
独活の花とは大きくて淋しくて 榊原 弘子
独活の花無駄と思へば全て無駄 高澤良一 燕音
独活の花白し淙々と水流る 山口青邨
独活の花見てゐる齢さびしみぬ 勝又一透
独活の花雨とりとめもなかりけり 古舘曹人 樹下石上
独活の芽に鋭き五官もてあます 長谷川かな女 雨 月
独活の芽の三寸にして其気あり 寺田寅彦
独活の芽は氷破りてうすれけり 萩原麦草 麦嵐
独活の芽やしかも豆腐の華蔵院 竹冷句鈔 角田竹冷
独活の風味夫婦の仲も古りにけり 北野民夫
独活の香に亭主のすすむ出立かな 李由 三 月 月別句集「韻塞」
独活の香に幾夜かよひて松の風 野澤羽紅女
独活の香の手を嗅せたる妾かな 尾崎紅葉
独活の香の旅にしあれば枕もと 加藤楸邨
独活の香や淀の泊りの船の飯 蘇山人俳句集 羅蘇山人
独活は実に終の栖を棟上げす 石田波郷
独活を掘る碇峠と云ふところ 渋谷 一重
独活を飼う父なりき敵はありき 永田耕衣 悪霊
独活六尺我を納むる棺ありや 大屋達治 絢鸞
独活削ぐや波郷と齢並べけり 上田五千石 琥珀
独活和へて祝ぎの盃いただかむ 石田あき子 見舞籠
独活咲けりむねうちあくる友のなく 荒井正隆
独活噛めば郭公*たらの芽を噛めば 皆吉爽雨
独活小屋の掘つ立てぶりも春めけり 橋本榮治 越在
独活小屋の昼間の闇でありにけり 湯川雅
独活担ぎゆく新月のはらから 柿本多映
独活掘の忽ち泥にまみれたる 金箱戈止夫
独活掘りて母のおもかげ抱き戻る 嶋田 つる女
独活掘りのまたつかまへぬ兎の子 吉武月二郎句集
独活掘りの下り来て時刻をたづねけり 前田普羅 春寒浅間山
独活掘りの箆を鉈にてそぎにけり 菅原庄山子
独活掘るや遠嶺に消えぬ雪の道 中拓夫 愛鷹
独活採にかさと音してきたきつね 山本歩禅
独活摘みて山の娘山の唱に暮れ 河野南畦 『花と流氷』
独活昃りて俄にさむし谷のさま 原 石鼎
独活晒し赤みさすとも夫なき手 殿村莵絲子 花寂び 以後
独活枯るるところ最後の蜂羽音 村越化石 山國抄
独活浸す水夕空につながりて 村越化石
独活畑も川も失せけり神無月 石田波郷
独活置いて厨春寒く仏事かな 龍胆 長谷川かな女
独活置きし白きタイルのうすぐもり 加倉井秋を
独活育つ室の暗さが白さ生む 大橋敦子 匂 玉
独活育つ等しき高さ白さにて 大橋敦子 匂 玉
独活膾うめはさかりを過ぎにけり 龍岡晋
独活膾余酔の人に勧めけり 菅原師竹句集
独活買つて提げ満天に貼りつく星 田川飛旅子 花文字
独活長けて浅間隠しへ人ゆかず 堀口星眠 営巣期
独活闌けて妖々と咲く夏の山 龍胆 長谷川かな女
独活食うぶ奥歯の音の亡き母よ 古沢太穂
独活食へば胃の透きとほるものらしく 日置海太郎
獅子独活に翅音ひびけるものばかり 鈴木しげを
獅子独活のたてがみしろし蝶よぎり 堀口星眠 営巣期
獅子独活の群落白き岳月夜 福田蓼汀
獅子独活の藪から棒に恐山 高澤良一 随笑
獅子独活の雨の山荘閉ぢにけり 鈴木しげを
生涯を独活まで来たる思いかな 永田耕衣(1900-97)
笊の上にのせわたしある長き独活 鈴木花蓑句集
筵はね露まみれなる独活を剪る 高濱年尾 年尾句集
紅はしる独活が人語を発しけり 栗林千津
膳出でぬ芽独活白魚若夫婦 石井露月
花独活に山雲とべり雨の中 吉武月二郎句集
花独活に渓の日照の激しさよ 石川雷児
草原の起伏に独活の花は枯れ 橋本鶏二
荒れし手と笑はれ老の独活作り 西野知変
葉ののびて独活の木になる二月哉 正岡子規
葬や半日暑き独活畠 岸田稚魚
螺子ひとつ独活より光り棄てらるる 田川飛旅子 『邯鄲』
道曲る花野の独活の花笠に 皆吉爽雨 泉声
長女来て母と睦べり松葉独活 橋本鶏二
長閑さや日向の独活に蟻上下 月舟俳句集 原月舟
隆起して神の山なる独活の花 進藤一考
雨がちに独活は木になり燕 乙字俳句集 大須賀乙字
雪間より薄紫の芽独活哉 松尾芭蕉
雲端に攀づる身構へ独活の芽掘る 加藤知世子 花寂び
髭立ててからのさみしさ 独活を喰う 伊丹三樹彦 一存在
鳶の笛独活新しき墓標の丈 古舘曹人 能登の蛙
以上