二酸化炭素の削減などの大きなテーマでは、世間一般に意識を浸透させることが大切だ。ただ、化学は難しい言葉が多く、理解してもらうにはハードルも高い。村木さんも十分、そのことはわかっている。地球温暖化防止のため二酸化炭素を回収できる機械を「ひやっしー」、空からガソリンの代わりになる燃料を作ることを「そらりん計画」と名付けた。
「分かりやすく、なじみやすいネーミングにすることを意識しています。言葉こそが世界を変えるからと思っているからです。ネガティブなイメージのある二酸化炭素にしても、こんなに面白い物質で、可能性の塊で集めれば集めるほど、こんなにワクワクする未来がありますよ、ということをポジティブに伝えたいんです」
室内にこもって研究ばかりしていると思いきや、実はアウトドア派だ。時間があれば、ふらっと一人で伊豆諸島や温泉地などを訪れる。海岸を歩いていると、突如、アイデアがひらめく瞬間があるという。食べることも、生きがいのひとつだ。暇を見つけては、カフェ巡りもしている。「どんなに嫌なことがあっても、よく食べて、よく寝れば、朝にはケロッと忘れられます」。
村木さんの目標は、地球を温暖化から守り、人類第二の故郷として火星を開拓すること。やることのスケールが大きすぎて、はたから見ると、本当に実現できるのか、と疑問を持つ人もいるかもしれない。
「これまでも色んなことを言われてきました。でも、これは趣味でやっていることなんです。人の趣味にケチをつける権利は誰にもないと思っています。二酸化炭素がかわいくてしょうがなくて、熱狂的に13年間研究してきた。趣味で遊んでいたら、地球を冷やしちゃいました、というノリなんです」
研究室にある実験道具を紹介してくれた時には、本当にうれしそうな表情をみせた村木さん。化学界の異端児が世界を変える。
□村木風海(むらき・かずみ)2000年8月18日、山梨県出身。日本の化学者、発明家、冒険家、社会起業家。一般社団法人炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長。10年、小学4年生の時に化学者の道へ。17年、総務省戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)異能vationプロジェクト「破壊的な挑戦部門」に採択され、CRRAを創設して機構長に就任。18年、大村智自然科学賞。19年、研究実績により東京大学推薦入試で理科一類に合格。同年、『世界を変える30歳未満の日本人30人』としてForbes JAPAN 30 UNDER 30 2019 サイエンス部門受賞。21年、内閣府ムーンショットアンバサダーに就任。同年12月、『今年の100人』としてForbes JAPAN 100に選出される。代表的な研究・発明に「ひやっしー」「そらりん計画」「成層圏探査機もくもく計画」がある。