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2023年12月7日 20:00
フランスの鬼才ギャスパー・ノエ監督の最新作「VORTEX ヴォルテックス」が公開される。実験的な映像表現とドラッグ、セックス、暴力など過激な題材を扱い、新作発表ごとに話題を集めるノエ監督が今作で描くのは、人間の普遍的なテーマである老いと死だ。
実母の介護を経験し、4年前にノエ監督自身が脳出血で入院、そしてコロナ禍で身近な人を亡くした経験を経て生み出されたという今作は、人間誰もがいつか経験する“恐怖=死”が静かに近づくさまを、恐怖映画の帝王、ダリオ・アルジェント監督を主演俳優として起用し、「ママと娼婦」(ジャン・ユスターシュ監督)で知られるフランソワーズ・ルブランと演じる老夫婦の生活を通して描き出す。来日したノエ監督に話を聞いた。
私の病気に関しては助かる確率50%、後遺症が残らない可能性35%、以前と同じ生活ができる確率15%、というものでした。ですから、今この状況でいられることに満足しております。タバコもやめました。命が助かったということで、宝くじに当たったような気持ちでいます。この病気の体験を通じて以前より死について、冷静に向き合えるようになったと思いますし、以前のようにナーバスになることもなくなりました。
今も、病気のせいで時々頭痛に悩まされることもあり、モルヒネを使うこともあります。死んで楽になりたい、と思うほどの痛みに襲われたこともありますが、今死んでしまったら自分の映画の権利のことや、山のような雑用を家族に残してしまうので、生きたい、ということより他人に迷惑をかけたくないという気持ちが強いです。病気をする以前から高齢者の物語は撮りたいと思っていて、そして、深刻なテーマを取り上げたかったのです。今作は、ダリオ・アルジェントの存在そのものが醸すユーモアはあっても、映画そのものは非常に真面目です。それこそ、私は成瀬巳喜男や溝口健二に近づきたかったのです。
フランスにはミシェル・ピコリやブリジット・バルドーら、素晴らしい老齢の俳優さんはたくさんいます。でも、ダリオは30年来の私の友人で、ものすごい存在感があったのです。カリスマ性もありますし、彼が話すときのオーバージェスチャーが好きなのです。ぜひ彼に演じてもらいたく、ダリオの娘のアーシア(・アルジェント)の協力も得て、ローマで依頼し、快諾してもらいました。
ダリオは映画監督になる前は、映画評論家であり、フリッツ・ラングによくインタビューしていたようです。フランソワーズ・ルブランは「ママと娼婦」や、70年代の映画を見ていてぜひお願いしたいと思いました。ダリオはそのままでもよかったのですが、彼女の役柄は、認知症を患っている設定なので、プロの俳優としての演技が必要で、しっかりと役作りをしてくださいました。
既存のラジオ番組をつかっています。撮影の最中に、クラシック音楽を流そうか……など考えていたら、たまたまあの番組が始まったのです。フランスで有名な心理学者が死について語っており、この映画にぴったりだったので、ラジオ局に連絡して使わせてもらいました。
フランソワーズ・アルディの楽曲を使った理由は、映画の最初のバルコニーのシーン、これはもともとなかった場面なのですが、フランソワーズ・ルブランが認知症になる前の状況を撮ってほしいとリクエストがあり、撮影しました。そこで、隣の家から聞こえてくるような音楽が良いなと、Youtubeなどで探していたら、この「Mon amie la rose」が映画のテーマと歌詞がマッチしていて涙が出そうなほどだったので、ミュージックビデオのまま使いました。「バラの美しさは人生と同じくらい短い」というような歌詞です。フランソワーズ・アルディの音楽は、フランス人の多くが泣けてしまうようなノスタルジックな曲なのです。
分割画面は過去作でも使いましたが、今回は一緒に生活しながらも心が離れている、孤独な夫婦を表現するのにぴったりだと思い、かなり長く使っています。そして、途中半分暗転することで、ひとりが死んで心に穴が開いたような心情を表わせたような気がします。基本的には2台のカメラで撮っています。1台は私が、もう1つをカメラマンが担当し、演者のひとりが歩きだしたら、1台は追いかけていく、そんな役割分担で撮影しました。室内は問題ないのですが、外のシーンでぶれないように撮影することに苦労しましたね。
「VORTEX ヴォルテックス」は、12月8日からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。
(C)2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH INTERNATIONAL - LES CINEMAS DE LA ZONE - KNM ARTEMIS PRODUCTIONS - SRAB FILMS - LES FILMS VELVET - KALLOUCHE CINÉMA Visa d’exploitation N° 155 193
映画.com編集部員。2011年入社。
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