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ホーム >映画ニュース >2023年11月26日 >【「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」評論】地方ディスだけじゃない。ギャグ映画続編の虚実交錯がさらなる高みへ飛翔

【「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」評論】地方ディスだけじゃない。ギャグ映画続編の虚実交錯がさらなる高みへ飛翔

2023年11月26日 14:00

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「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」(公開中)
「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」(公開中)
(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会

パタリロ!」で知られる魔夜峰央のギャグ漫画「翔んで埼玉」3編が少女漫画誌「花とゆめ」別冊に掲載されたのは1982年~83年。80年代はさほど注目されなかったというが、30年以上の時を経て「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」といった過激な埼玉ディスがネットなどで話題を呼び、2015年に宝島社から復刊、2023年10月時点で累計76万部を超した。この異例の“時間差ヒット”の背景にあるのはまず、好況期の昭和終盤に比べ、バブルがはじけた平成以降、都市部と地方の格差がより深刻でリアルな問題として認識されてきたこと。さらに2003年、埼玉県生まれ・佐賀県育ちの芸人はなわが歌う「佐賀県」が紅白出場を果たすなど広くお茶の間に支持され、マイナーな県の自虐ネタが娯楽コンテンツとして認知されたことが大きかったろう。

復刊版の好評を受け実写映画化に動いたのが、すでに「パタリロ!」のアニメ版で協業していた東映とフジテレビジョン。「のだめカンタービレ」「テルマエ・ロマエ」など人気漫画の実写化で実績あるフジテレビ所属の武内英樹が監督、東映の配給という座組みで劇映画「翔んで埼玉」を2019年に公開、興行収入は37億円を超えた。大ヒットの要因を挙げるなら、主人公の一人である美少年・壇ノ浦百美役に二階堂ふみを起用して、原作のBL(ボーイズラブ)要素を緩和させた配慮。原作の“東京vs.埼玉”の対立軸に千葉や神奈川などの近隣県勢力による共謀や寝返りといった展開を追加し、やくざ映画で一時代を築いた東映らしい集団の抗争と決戦で派手に盛り上げた演出。埼玉県人が昔の弱小藩の農民のような困窮ぶりで東京に出るには通行手形が必要など、地域格差を誇張した地方ディスが満載の本筋をラジオ番組で語られる“伝説”と位置づけ、それを現代の埼玉に暮らす家族が車で聴く劇中劇にすることで、虚構と現実が交錯する世界観を観客が受け入れやすくした構成あたりか。これらの成功要因は、当然ながら続編に引き継がれている。

前置きが長くなったが、ようやく「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」について。武内監督が前作に続きメガホンをとった。原作に魔夜峰央がクレジットされているものの、3編で100ページ足らずの漫画の物語要素はすでに前作でほぼ出尽くしており、麻実麗(GACKT)と百美ら主要人物の設定と“都会vs.マイナーな隣県”という構図のほかは、前作でも脚本を書いた徳永友一によるオリジナルストーリーだ。埼玉県人を団結させるため越谷に海を作ろうと計画した麗は、美しい白砂を求めて和歌山へ向かうが、関西でも大阪を中心とする都会勢力から滋賀などの周辺県が差別と迫害を受けていると知り、解放のための戦いに巻き込まれていく。

実写版シリーズの妙味は虚実の交錯を笑いに転化させている点で、決戦場で見合う両陣営が地元出身芸能人の特大顔写真を交互に出すカードバトル風の対決が一例だ。映画の中で俳優らが演じるキャラクターたちが、他の芸能人らの知名度で張り合うというナンセンスな笑い。続編ではさらに、実生活で夫婦の片岡愛之助藤原紀香に大阪府知事と神戸市長の夫婦役を演じさせ、府知事の前で神戸市長と京都市長(川崎麻世)がイチャつく場面があったり、顔写真対決では“女優・藤原紀香”が登場したりと、一層高度になったメタフィクション的なギャグに幻惑される。

男性の百美役に二階堂を配したBL要素緩和策を反復し、滋賀解放戦線を率いる桔梗魁をが演じているが、彼の通称が「滋賀のオスカル」というのも紛らわしいひねりだ。池田理代子の人気漫画「ベルサイユのばら」に登場する架空の人物オスカルは男装の麗人なので、服で男性を装う女性オスカルと、男性役を演じる女優・という微妙なずれが観る側を惑わす。ほかにも、「チャーリーとチョコレート工場」を真似たダンスシーンがあったり、「シュレック」のフィオナ姫に込められた反ルッキズムのメッセージを想起させるサプライズがあったりと、過去の創作から拝借し転用した見せ場で楽しませるし、「大阪の粉もん文化」「飛出とび太」「琵琶湖の水止めたろか」などのローカルネタもしっかりストーリーに組み込んで笑いを誘う。

第2作が再び大ヒットして第3弾が作られるなら、“都会vs.マイナーな隣県”の抗争はさらに西へ飛び火し、九州を舞台にした“福岡vs.佐賀”が最有力候補だろう。2作続けて主題歌を歌い、地方ディスの笑いを定着させた功労者でもあるはなわの出世ネタが「佐賀県」だったことを思えば、それが最も美しい帰結ではなかろうか。

(高森郁哉)

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