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2019年8月19日 07:00
[映画.com ニュース] 「凶悪」「孤狼の血」の白石和彌監督が佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子ら豪華キャストを迎えて製作した新作「ひとよ」の撮影が、今年5月に関東近郊で行われ、その撮影風景が報道陣に公開された。
鶴屋南北戯曲賞、読売文学賞戯曲・シナリオ賞などを受賞した注目の劇作家・桑原裕子氏率いる劇団KAKUTAの代表作「ひとよ」を映画化した本作。稲村家の母、そして三兄妹の運命を大きく狂わせた一夜の事件から15年、崩壊した絆を取り戻そうともがき続ける一家がたどり着く先には何があるのか。それぞれの家族の戸惑いと葛藤を描き出すヒューマンドラマだ。
ある地方都市のタクシー会社を舞台にした作品ということで、今回の撮影場所は実際に営業しているタクシー会社を利用している。最初はなかなかイメージに合ったロケーションが見つからなかったというが、本作の制作担当者が偶然に同所を発見。タクシー会社側も、撮影中はオフィスを移動して営業するなど非常に協力的だったという。「そばに国道が走っている場所。周辺にはチェーン店が次々とオープンしていて、15年前に比べても周辺の景色は絶対に変わっているはず。そんな中で15年ぶりに家族が再会するわけですが、そこだけはどこか時間が止まっているような、そんなまわりとのギャップがある場所にしたかった」と話す白石監督。今回のロケーションはそのイメージにも見事合致。さらに入り口の自動販売機や、冷蔵庫に貼り付けたメモ書きなど、美術スタッフが細かいところまで手を加えた装飾、小道具なども非常に効果的だった。
主人公・雄二を演じる佐藤は、無精ヒゲが浮かぶ、やさぐれた姿。過去の事件にとらわれ、心を閉ざした姿は、これまで彼が演じてきた等身大の青年像や、ヒーロー的な主人公などとはひと味違う。その芝居について佐藤は「その時に出たもので勝負と言いますか、ドキュメンタリー的なアプローチの仕方をしてきたように感じています」と振り返っていたが、白石監督も「健くんもヒゲを生やしての演技は初めてだったと言っていました。いつもよりはキラキラしていないかもしれないですが、それでも格好よく撮れるところは撮ろうと思っていました」と笑ってみせる。
鈴木、松岡、田中といった稲村家を構成するメインキャストは、白石監督の希望通りのキャスティングだったようだ。「皆さん、映画の見せ方もよく分かっているし、本当に楽。僕の見えていないところでもみんなで話し合いながら。そういうことの積み重ねが家族のアンサンブルになっている。それが良かった」と満足げ。そして何より母・こはる役の田中がもたらしたものが大きかったという。「裕子さんが物語の背骨となってくれているので、この話がどういう話なのか。導いてくれる感じがある。それがこの映画の強さだろうなという気がします」と語る白石監督は、「裕子さんが今までやってきたお仕事も含めて、女優としての存在感、大きさといったものが直接この作品に、こはるとして輝いてくれている」と全幅の信頼を寄せている様子だった。
また、事件によって美容師になる夢を諦め、スナックで働きながら生計を立ててきた園子に扮する松岡は、撮影の合間にはキャストやスタッフと談笑している姿も散見されるなど、その明るいキャラクターで現場のムードメーカーに。だが、本番になると一変して園子になりきり、時折アドリブも織り交ぜるなど、「憧れの白石組で、憧れの先輩方とご一緒できた」という喜びをかみ締めているようにも見えた。
「タクシー会社で撮影する最終日」ということで、この日撮影したのは物語のラストを彩る大事なシーンとなった。ここでは詳細を記すことは控えるが、15年ぶりに戻ってきた母・こはるの心情に寄り添った”ある芝居”を田中自らが提案し、それをドラマ「火花」で白石監督とタッグを組んだ鍋島淳裕キャメラマン、照明のかげつよしというコンビが、柔らかい光に包まれたような美しい映像ですくい取っていく。またその後のシーンも、「普段よりも準備に時間がかかってしまったけど、その結果、映画で言うところの夕方のマジックアワーにさしかかり、ラストカットらしい、いいシーンが撮れました」と語るなど、白石監督も満足げな様子を見せる。
「日本で一番悪い奴ら」「牝猫たち」などで白石監督とタッグを組んできた高橋信一プロデューサーは、本作の撮影を通じて「企画を立ち上げてから準備には本当に時間がかかりましたが、その結果、本当に豪華なキャストをお迎えすることが出来た。これは白石さんの最高傑作になるんじゃないか」と期待をこめる。それに対して白石監督は「もちろん今取り組んでいる映画が自分の最高傑作になるべくやっていますが、それでも今回は毎シーン撮影するたびに、発見や感動があるので、いい映画になるんじゃないかな、という手応えは感じています」と力強く語った。
「ひとよ」は11月8日から全国で公開。
(C)2019「ひとよ」製作委員会
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