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2017年7月19日 18:00
[映画.com ニュース] 第65回ベルリン国際映画祭で最優秀監督賞(銀熊賞)を受賞し、ポーランドのアカデミー賞といわれるイーグル賞で作品賞・監督賞ほか主要4部門に輝いた「君はひとりじゃない」のマウゴシュカ・シュモフスカ監督が、映画.comのインタビューに応じた。
母の突然の死により、心に溝ができてしまった父ヤヌシュ(ヤヌシュ・ガヨス)と娘のオルガ(ユスティナ・スワラ)。母を亡くした悲しみから拒食症になったオルガと人の死に無感情になった検察官のヤヌシュは、セラピストのアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)と交流するうち、気持ちに変化が生じていく。
心身ともに傷ついた親子が、風変わりなセラピストと出会うことで心のありようが変わっていくさまを描いているが、シュモフスカ監督自身もある“出会い”から、作品の輪郭が定まっていったという。「最初は拒食症をテーマにした物語にしようと思い、“BODY”という1ワードのタイトルに決めたの。しかしそれではあまりにも幅の無い、多くの人に語りかける映画にはならないと思い、オルガというキャラクターがいて、彼女と父親の関係を描くストーリーにしたのよ。そんなときに、アンナのような女性に会った。彼女は非常にスピリチュアルで、ヘンテコなことを言う人だったの。彼女がとても印象的だったから、その彼女に基づいたキャラクターを創造したわ」。
シュモフスカ監督の話しぶりからは、“降りてくる”のを待つ創作スタイルがうかがえる。映画祭や本国での公開時、観客から絶賛を浴びたラストシーンについても「最初から決めこんでいたわけではないの。元々はまったく違う展開を考えていたんだけど、そのラストだと弱いかなと思って、ちょっとずつ変えていった。撮影中にも変えたりしたわね」と明かす。「あのラストシーンは1日がかりの撮影だった。ユスティナはプロの女優ではないから、セリフを言うのが難しいと感じていたの。だから、見つめ合うシーンを入れることにしたのよ。ちなみに私が大好きなミヒャエル・ハネケ監督の作品だったら、このラストシーンでアドリブを入れる余裕なんてないだろうと思うけど、私の作品はいろんな偶然が入ってきたりして有機的に作っていくわね。私は実利主義なところがあるんだけど、同時に感情に先導されるところもあったりするの」とシーンごとに“理性”と“本能”を選択し、取捨選択を行っていったそうだ。
本作は、死と生が地続きになったような独特の空気が全編に流れており、冒頭から生と死のメタファーが画面の様々な部分に挿入されている。見る者によってホラー、コメディ、人間ドラマと多様な見え方をする作品だが、シュモフスカ監督は製作・脚本・撮影を手がけたミハウ・エングレルトの存在が大きかったという。「彼は珍しく脚本も書く撮影監督なの。本作でも脚本を担当していて、この映画の世界観をどういう風に描くかは彼と一緒に構築したわ。1年がかりで話し合いを重ねて脚本を構築していったから、今となると、なぜあのような世界観になったのかは言い表すのが難しい。ミハウとは長年の付き合いだから、撮影方法に関しても口であれこれいう感じではないの。でも細かい話をするときは、彼がたくさんの映画を参考にしていろんな絵画や写真を見せてくれながら、このシーンの照明はこうしたらどうだろうという話をしたわ」。
加えて「私は映画を何本も見るタイプではないんだけど、過去の作品は参考にしたわ。クシシュトフ・キエシロフスキー監督の『デカローグ』などには影響を受けた。それ以外にも、ポーランドの共産党時代に作られた“旧式の映画の作り方”を参考にしているの。本作も、キェシロフスキー監督を参考にしつつ、それに皮肉を加えるよう意識したの」と本作に影響を与えた作品について明かした。
改めて、本作に込めたメッセージを聞くと「言葉でまとめられるようなものではないかな。あえて言葉にするなら、この映画は“すぐ隣にいる人の存在を忘れてはいけない”ということだと思う。我々は往々にして近くにいる人を見ていない、そして心を通わせていない。どこかあらぬ方向を見ていたり、あがいていたり、そういうことにとらわれがちよね。しかし、1つひとつの瞬間を大事にして周りにいる人を忘れてはいけない、と思うことが大切なんだと思う」と締めくくった。
「君はひとりじゃない」は、7月22日から全国順次公開。
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