彼方のうた
劇場公開日:2024年1月5日
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解説・あらすじ
「春原さんのうた」で国内外から高く評価された杉田協士監督の長編第4作で、デビュー作「ひとつの歌」以来12年ぶりとなるオリジナル作品。
書店員として働く25歳の春は、ベンチに座っていた雪子の顔に浮かぶ悲しみを見過ごせず、道を尋ねるふりをして声をかける。その一方で、春は剛という男性を尾行しながらその様子を確かめる日々を過ごしていた。春は子どもの頃、街で見かけた雪子や剛に声をかけた過去があった。そんな春の行動に気づいていた剛が彼女の職場に現れ、また春自身が再び雪子に声をかけたことで、それぞれの関係が動きはじめる。春は2人と過ごす中で、自分自身が抱える母への思いや悲しみと向き合っていく。
「スウィートビターキャンディ」「あいが、そいで、こい」の小川あんが春役で主演を務め、雪役で中村優子、剛役で眞島秀和が共演。
2023年製作/84分/G/日本
配給:イハフィルムズ
劇場公開日:2024年1月5日
スタッフ・キャスト
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2023年7月27日
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映画レビュー
3.5道で立ち尽くす主人公のショットがすごい
登場人物は、何か重たいものを抱えていそうに見える。けれど、そのことははっきりとは描かれない。普段、道で通り過ぎる人もそれぞれの人生でつらいことを抱えているだろうが、それが何かはわからない、みたいな感じで、観客は映画を観ていても登場人物たちの内面をはっきりと見ることができない。普段通り過ぎて「風景」にすぎないよく知らない人々の、人生を少しだけのぞかせてもらうような、そういう鑑賞体験だった。
冒頭、主人公の春はどうして雪子に声をかけたのか。何か悩んでいるのだろうと察して道を聞くという行動で、寄り添おうとしたのだろうか。そして、不思議な春という主人公も何かを抱えていることが、終盤の道で立ち尽くす彼女のたたずまいから伝わってくる。このショットはすごくいい。道路を挟んだ向かいからカメラで捉えたその距離感が醸し出す、手が届きそうで、届かなさそうなその距離感が。
雪子の自宅で作られるオムライスが美味しそうだし、真島秀和演じる剛の娘と映画作りをする優しい空気感も心地いい。この映画は物語としてどこを目指しているかは不明なまま進むのだが、それが不快に全く感じないのがすごい。観終わったあと、街の景色が違って見えてくる。道行く人々にもそれぞれ人生があって、何かを抱えて生きているんだなという想像力が増すのだ。
4.0杉田協士監督作で反復される“うた”。多摩映画としての一面にもご注目
杉田協士監督の長編映画は「ひとつの歌」「ひかりの歌」「春原さんのうた」そして今作「彼方のうた」と、常に“うた”がタイトルに含まれている。だがそれだけでなく、第1作では歌人・枡野浩一を重要な役で出演させ、2作目では枡野と共催した短歌コンテストで選んだ4首に基づき映画化、3作目は歌人・東直子の短歌を原作とするなど、短歌という抽象度の高い文学表現をいかに映画作りに転用できるかという挑戦を続けてきたようにも見受けられる。広大な世界と膨大な時間からひとときの状況と情景を切り取り、つないで、余白は受け手の感性と想像に委ねるというか。小説や漫画のようなストーリーテリングの手法とは目指す方向が違うので、ストーリーがわかりやすく具体的に語られる映画に慣れているとあるいはとっつきにくく感じるかもしれない。
登場人物らがすべてを把握して行動しているわけではないように、観る側もわからない部分はわからないままで、映画の流れに身をゆだねてこの世界の不確かさを味わうのもひとつの向き合い方だと思う。
なお東京都多摩市出身の杉田監督は、前作に続き今作でも同市関戸にあるカフェ「キノコヤ」をはじめ聖蹟桜ヶ丘駅近辺でロケを行っている。ちなみに3月2日公開の清原惟監督作「すべての夜を思いだす」は同じ市内でも多摩ニュータウンを舞台にしているのだが、撮影の飯岡幸子、音響の黄永昌など杉田組の常連が清原監督作にも参加している点が興味深い。多摩映画の輪が広がっているようでもあり、地元の人間として単純に嬉しい。
- ミニマルな描写ながらも、語られない物語の中にストーリーを感じさせ...
ミニマルな描写ながらも、語られない物語の中にストーリーを感じさせた『春原さんのうた』の杉田協士監督の最新作です。
今回もやはり登場人物の背景は何も語られません。心に何かを抱えた人の出会いにカメラを向けているだけです。
「〇〇だから寂しい」とか「××だから哀しい」の「〇〇」や「××」を描くのではなく、「寂しさ」「哀しさ」そのものを映像に収めようとしている様に感じました。『春原さんのうた』を更にスリムにしたスタイルと言ってよいでしょうか。でも、僕のアンテナ感度のせいか、どこか空回りしている様に感じ、もどかしさが残りました。
でも、オープニングとクロージングの呼応し合う様な長回しショットは大変印象的でした。
(ただ、杉田監督の作品はいつも音声が聞き取り難いのが今回も辛かったです)
2.5繊細な心理描写を言葉にしない美しさと品の良さ
2024年劇場鑑賞23本目 佳作 59点
2024年No.1見返したい作品かもしれない
風の噂に聞いていた、同監督作品の春原さんのうたが傑作らしく、登場鑑賞の機会を逃してしまった身としては、配信もされないであろうことも相まって杉田作品を堪能しようと少々浮き足で劇場に足を運んだのを覚えている
前述した通り、見れば見るほど理解が深まりより楽しめ愛が深まる、そういった作風な為まだ1/3も染み込んでいないと自覚がありながらも2024年も2/3が終わった今レビューを書きながら記憶を巡っている
さぞ杉田協士監督は繊細で奥ゆかしい感性の持ち主で、この人の生の声を聞いてみたい、深く共感するに違いない
あぁ面白いなぁと思えるシーンの数々ですが、あえて上げるなら物語冒頭の通りすがりの人を選定して店に案内してもらう所謂映画としての掴みの部分から興味をそそられた
大概の映画やドラマは最初の15分や1.2話で全体のエピローグというか、説明と惹きつけを行う掴みの部分でのめり込むし、作り手も意識するだろうけど、今作のそれは、悪くマジョリティな言い方をしたら"不思議な始まり"で、良くマイノリティな言い方をしたら一音一音聴き込む様な静かさの中に間と表情で人となりや歩んできた道を言葉以上に映像表現として伝える心理描写の美しさと品性に、洋画とはまた違うし、国外映画賞を取りやすい作風の濱口竜介や黒沢清などに通ずるも、また違った感性で妙に惹きつけられる
またどこかで、選びに選んび紡いだ台詞ひつとひつとを聞き入れ頭を翻弄させたい
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