マンティコア 怪物
劇場公開日:2024年4月19日
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解説・あらすじ
2014年の劇場デビュー作「マジカル・ガール」で第62回サン・セバスチャン国際映画祭グランプリ&監督賞を受賞したスペインの鬼才カルロス・ベルムトが、ゲームデザイナーの青年が思いもよらない“怪物”を作り出してしまう姿を独創的なストーリーと予測不能の展開で描き、人間の心の闇に踏み込んだアンチモラル・ロマンス。
空想のモンスターを生み出すゲームデザイナーの内気な青年フリアンは、同僚の誕生日パーティで美術史を学ぶ女性ディアナと出会い、聡明でミステリアスな彼女にひかれていく。その一方で、フリアンは隣人の少年を火事から救ったことをきっかけに、謎のパニック発作に悩まされるように。やがてフリアンが抱えるある秘密が、思わぬ怪物を生み出してしまう。
主人公フリアン役に「SEVENTEEN セブンティーン」のナチョ・サンチェス。2022年・第35回東京国際映画祭コンペティション部門出品(映画祭上映時タイトル「マンティコア」)。
2022年製作/116分/PG12/スペイン・エストニア合作
原題または英題:Manticora
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2024年4月19日
スタッフ・キャスト
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フォトギャラリー
映画レビュー
3.5秘めた欲望と現実を隔てる薄い壁
マンティコアとは、人を喰らうとして恐れられる伝説の人面獣だ。そんな剣呑なタイトルの印象に反して、物語の大半は淡々と語られる。序盤で、主人公のフリアンが隣人の少年の3Dモデルを作ってよからぬ妄想をするシーンはあるが、そこでチラ見せされたヤバさが加速度的に明らかになってゆくわけでもない。ビジュアル的にエグいシーンもない。
これは、普通の人間が抱いたアンチモラルな妄想が、現実との間の障壁を破る瞬間を描いた心理スリラーなのだと思う。その壁はフリアンの場合、社会との繋がりだったのではないだろうか。
クリスチャンとの出会いの後、少年っぽさがありどこかクリスチャンに似たディアナに一目惚れするというのも、フリアンの性癖が漏れ出ている感じだが、そういった点を除けば彼は終始真面目で常識的な青年として描かれる。クリスチャンの母とのやり取りも、ディアナとの男女としての付き合い方も、映画としては退屈になるほど普通で、どこにでもいそうな善良な人間だ。クリスチャンに抱く感情は3Dモデルの世界に閉じ込め、理性でひた隠しにし、行動に移すことなどない。本作の尺の半分以上は、フリアンが基本的には観客側(の大半?)と同じ普通の人間であることを示すために費やされているような気さえする。
物語の終盤に、彼の勤務先はPCのログからクリスチャンに似せた3Dモデルを発見し、私的かつ社会的に問題のある用途に社用PCを使ったということで、フリアンからPCを没収する。その3Dモデルを見た恋人のディアナは、フリアンから離れてゆく。そういった周囲の反応はやむを得ないものだが、結果的にそれらの出来事がフリアンに与えた衝撃が、彼の内なる怪物を現実世界に解き放つ引き金になってしまう。
会社の対応結構厳しいな、と思った直後にクリスチャンの家直撃で、観客もドン引きするほどのあっけない理性崩壊。
フリアンがプラド美術館で足を止めて見入るゴヤの絵画「我が子を喰らうサトゥルヌス」は、ゴヤが晩年に一般公開を目的とせず描き、自宅「聾者の家」に飾った「黒い絵」14点のうちのひとつだ。当初サトゥルヌスは勃起した姿で描かれていたが、のちにその部分は黒く塗りつぶされたと言われている。人目を避けて表現された性的ニュアンスを帯びた絵画、そんな作品のオーラに共鳴したフリアンの欲望のタガが外れた。常識やモラルという圧力を持った社会との繋がりがなくなってしまうと、個人の理性など無力なのだろうか。
表向きは完全に普通の人だったフリアンがあっという間に堕ちてゆく最後の30分、特にクリスチャンの家でのシーンは、そこにいたるまでの淡々とした雰囲気とは対照的な緊張感に満ちている。
気を失ったクリスチャンを手にかける直前にマンティコアの姿をした自分の絵が目に入り、鏡を見たかのようにフリアンは我に返る。彼にとって、それは本当の絶望の瞬間だった。
アンチモラルな嗜好の有無は別にしても、人の理性の脆さを描く物語として見ると、少し背筋が寒くなる。
あとこれは解釈次第なのだろうが、父をかいがいしく介護したディアナが、一度はきっぱりフリアンを拒絶したあと、彼が半身不随になってから戻ってきたことにもかすかに性癖を感じた。監督いわく「彼女自身も秘密を持っている」とのこと。
キャラクターデザインの勉強のためということなのか、フリアンが「ファンタスティックプラネット」を映画館で鑑賞している場面が出てきて、思いがけず嬉しくなった。
伊藤潤二の名前が出てきたり、北海道の話題やお寿司、招き猫など、ちょいちょい監督の日本オタクぶりが垣間見えるところはチャームポイント。
3.0反倫理的な性的欲望に関わる映画であることと、監督が性暴力で告発されたことについて
日本オタクぶりが強烈なアクセントになっていたカルロス・ベルムト監督の怪作「マジカル・ガール」(2014)を大いに楽しんだ一人として、この新作「マンティコア」(本国スペインでは2022年9月公開)も当然期待していた。
だが日本での封切りを前にして、ベルムト監督は今年1月、同意のない性行為を強制したとして3人の女性から告発された。暴力的な性行為を強要されたとの証言もあるという。これに対し監督は「乱暴だが合意の上での行為だった」と反論した。だが2月、さらに別の3人の女性がやはりベルムト監督から性暴力を受けたと告発。スペイン文化省は同月、芸術分野での暴力やハラスメントに対処するための相談窓口を設置すると表明した。その後の経過が報じられていないので正確なことはわからないものの、逮捕や裁判といったニュースが見当たらないので、告発を受けて捜査や調査が進行中と推測される。
“推定無罪”の考え方にのっとり、性暴力が確定したわけではないので問題ないと考えるか。あるいは、スタッフやキャストの不祥事と作品は切り離して評価すべきというスタンスをとるか。もちろん人によって考え方はいろいろあっていい。とはいえ、これらのことを事前情報として知ったうえで鑑賞するかしないのかを判断する、情報に基づく選択の自由があったほうがよいと個人的には思う。
「マンティコア」が反倫理的な性的欲望に関わる内容である点について、ベルムト監督が起こした不祥事と関連づけて批判する意見もきっとあるだろう。過激な問題作を連発して“鬼才”と呼ばれ、のちに性暴力で失墜したキム・ギドクや園子温を思い出す。
作品自体についてのレビューがほとんどなくて申し訳ない。やはり前述の事情を知ってしまった以上、映画の反倫理的な要素をフラットに評価しづらいというのが正直なところだ。
4.0主人公と観客の危険な距離感。
第35回東京国際映画祭にて、怪作『マジカル・ガール』のカルロス・ベルムト作品が観られると聞けば行かないわけにはいかぬ。ということで、いざ鑑賞してみたら、『マジカル・ガール』ほどトリッキーではないと見せかけて、思わぬところを攻めてくるとんでもない映画だった。
トリッキーではない、と書いたのは、プロットが捻くれてるわけでも、複数のプロットが同時進行するのでもないからで、あくまでもオーソドックスに、内気な主人公の恋物語を描いているように見せかける。
実際、ウェイ系でない人間にはかなり共感度の高いラブストーリーであり、ベルムト監督にこんな映画も撮れるのかと幅の広さに驚いたくらいだ。ところがベルムトは、内気で純朴に見える人間が、裏表があるというわけでもないのにだが、どれだけ最低最悪になれるのかを暴いていく。「物語の主人公ってきっとこんな感じ」という観客の先入観を弄んでいるとも言える。
監督には他人を弄ぶ気などないのかも知れない。一見平穏な日常と底なしの闇が背中合わせである点ではトッド・ソロンズの『ハピネス』も思い出す。われわれは普段映画を観る際、ざっくりと内容を予想しながら自分自身のメンタルを守っている。しかしそんな防御体勢を、この映画は全力で引き剥がしにくるのだ。
主人公が抱えている闇や意地悪なオチを、胸クソ悪いと捉える人がいて当然だと思う。しかし本作では、誇張はされているにせよ、誰もが心の片隅に飼っているであろう「病んだ自分」に向き合う真摯さも感じる。絶対に自分はこんなじゃないと思ってはいても、100%他人事だとは言い切れないことが嫌すぎる。しかし、その嫌さにこそ本作の真価と凄みがあるのだと思う。
4.0気の迷い
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