EO イーオー
劇場公開日:2023年5月5日
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解説・あらすじ
「アンナと過ごした4日間」「出発」などで知られるポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキが7年ぶりに長編映画のメガホンをとり、一頭のロバの目を通して人間のおかしさと愚かさを描いたドラマ。
愁いを帯びたまなざしと溢れる好奇心を持つ灰色のロバ・EOは、心優しい女性カサンドラと共にサーカスで幸せに暮らしていた。しかしサーカス団を離れることを余儀なくされ、ポーランドからイタリアへと放浪の旅に出る。その道中で遭遇したサッカーチームや若いイタリア人司祭、伯爵未亡人らさまざまな善人や悪人との出会いを通し、EOは人間社会の温かさや不条理さを経験していく。
伯爵未亡人役に「エル ELLE」のイザベル・ユペール。2022年・第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で審査員賞を受賞。第95回アカデミー国際長編映画賞ノミネート。
2022年製作/88分/G/ポーランド・イタリア合作
原題または英題:EO
配給:ファインフィルムズ
劇場公開日:2023年5月5日
スタッフ・キャスト
受賞歴
第95回 アカデミー賞(2023年)
ノミネート
国際長編映画賞 |
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2023年5月5日無垢なロバが主人公 鬼才イエジー・スコリモフスキによる現代の寓話「EO イーオー」予告編
2023年3月7日
映画評論
純粋さ、無垢の力。苛烈なやさしさ ロバが見た世界の美を活写する
スコリモフスキのやさしさは苛烈だ。「シニカルで世知辛い私たちの世界」で弱さとみなされもする「純粋さ」、だが自分の中に残ったそれを育むように努めている、人間と自然、人間と動物の関係性も考え直す必要がある、「消費のための産業的な飼育ではなく、愛を持ってポジテ...
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映画レビュー
3.5イーオーよどこへ行く?
ポーランドの巨匠とはいえ、重厚なものもあれば、常識で推し量れない怪作や奇作も多いスコリモフスキ監督。「EO」もつぶらな瞳をしたロバがサーカスから離れてトボトボとさまよい歩くというなんとも動物ファンタジー的な趣きだが、可愛らしい仕草も数多くあれば、それとは一転して人間が巻き起こす騒動や悪事を見つめたり、ギョッとする暗視スコープ風の映像や、はてにはEO自身がロボ化してしまったかのようなシュールな描写までてんこ盛り。いちいち頭いっぱいに「?」を抱えこんではキリがない。あらかじめスコリモフスキ作品であることを認識した上で、全ての「?」を柔軟に受け入れ、人間の生態をちょっと離れたところから観察するこの”ひととき”を味わいたい。なお、ブレッソンの『バルタザールどこへ行く』からの影響は一目瞭然。その昔、この映画の鑑賞時に涙を流したというだけあり、スコリモフスキにとって本作が念願の企画だったことが窺える。
4.0流離うロバがそのつぶらな瞳に映し出すものとは?
サーカス団が閉鎖されたために居場所をなくしたロバのEOが、馬小屋、農場、木が伐採され続けていく森、サッカー場、病院、伯爵婦人が住む豪邸、ダム、そして、屠殺場と転々としていく。
サーカス団が閉鎖されたのは動物愛護団体の抗議が原因だが、そのために外の世界に蔓延る人間社会のさらなる矛盾とエゴをEOは目の当たりにしていくという設定は、予測の範囲内だが、物言わぬ動物のロードムービーはスリルに満ちていて最後まで目が離せない。動物好きは時々目を背けたくなる場面があるが、勿論、動物たちの安全は担保された上で撮影されているのでご心配なく。
EOが迷い込んだ森ではハンターたちがレーザー照射で動物たちを狙っている。サッカー場に迷い込んだEOがPKを妨害したことから負けチームにボコボコにされる(そのものスバリは映さない)、やがて、屠殺場に連れて行かれる。生々しくも痛々しい場面に次々と遭遇していくEOが、その都度、つぶらな瞳に恐怖と憂いを湛えているように見えるのは、監督のイエジー・スコリモフスキが仕掛けた演出的な秘策なのか、それとも、そもそもロバは感性が豊かなのか、そこに本作の魅力が凝縮されている。
『EO』は『帰れない山』と共に昨年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を分け合った。2作品は偶然同時期に日本で公開され、一方では「ザ・スーパーマリオブラザース ザ・ムービー』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOL3』が拡大公開されヒットしている。両分野はまるで異なるし、客層も違うだろうが、個人的な意見を言わせていただければ、どっちも間違いなく面白く、全く別方向へいい案配に振れている。これだけは伝えたいと思う。
4.0凡百の会話劇より雄弁な、ロバの瞳に映る世界
タイトルにもなっている主人公のロバの名前「イーオー」(ポーランド語の原題はIO)は、ロバの鳴き声に由来する。ちなみに「くまのプーさん」に登場するロバのぬいぐるみのキャラクター「イーヨー」も、英国でのロバの鳴き声の表記"eeyore"にちなんだもの。偶然の一致かもしれないし、イエジー・スコリモフスキ監督がイーヨーを意識したのかも。
もっとも、スコリモフスキ監督が公言しているように、ロバの視点を通じて人間の暴力性や愚かしさを描き出す基本姿勢は、1966年のロベール・ブレッソン脚本・監督作「バルタザールどこへ行く」にインスパイアされた。ブレッソンの映画はドストエフスキーの長編小説「白痴」に着想を得ており、一方で“バルタザール”は新約聖書の東方の三賢人(または三博士)の一人の名前。ロバに「聖なる愚者」が重ねられているなら、「EO イーオー」のストーリーから2018年のイタリア映画「幸福なラザロ」などを想起するのも当然だろうか。
ロバのイーオーはもちろん台詞を発しないし、内面を代弁するナレーションもない。イーオーに話しかける人のモノローグや、イーオーが行く先々で出会う人々の会話はあるが、体感で本編尺の半分以上は台詞に頼らずイーオーの大きくつぶらな瞳から見える世界を綴っている。撮影監督ミハウ・ディメクの詩情豊かな映像は実に雄弁で、繊細なサウンドデザインも相まって、台詞のないシークエンスにも引き込まれ続けて飽きることがない。観客の想像を促す余白とはよく使われる言葉だが、本作の余白も豊穣で多くを考えさせる力に満ちている。
動物愛護派や自然エネルギーに対するシニカルな言及も含まれる。常識や社会通念にとらわれず、純粋な眼差しで世の中と自らの生を見つめなおすことの大切さを説かれているようでもある。
3.0鬼才の考えることはよくわからん
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