グリーン・ナイト
劇場公開日:2022年11月25日
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解説・あらすじ
「指輪物語」の著者J・R・R・トールキンが現代英語訳したことで知られる14世紀の叙事詩「サー・ガウェインと緑の騎士」を、「スラムドッグ$ミリオネア」のデブ・パテル主演で映画化したダークファンタジー。「A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー」のデビッド・ロウリーが監督・脚本を手がけ、奇妙な冒険の旅を通して自身の内面と向き合う青年の成長を圧倒的映像美で描く。
アーサー王の甥であるサー・ガウェインは、正式な騎士になれぬまま怠惰な毎日を送っていた。クリスマスの日、円卓の騎士が集う王の宴に異様な風貌をした緑の騎士が現れ、恐ろしい首切りゲームを持ちかける。挑発に乗ったガウェインは緑の騎士の首を斬り落とすが、騎士は転がった首を自身の手で拾い上げ、ガウェインに1年後の再会を言い渡して去っていく。ガウェインはその約束を果たすべく、未知なる世界へと旅に出る。
共演は「リリーのすべて」のアリシア・ビカンダー、「華麗なるギャツビー」のジョエル・エドガートン。
2021年製作/130分/G/アメリカ・カナダ・アイルランド合作
原題または英題:The Green Knight
配給:トランスフォーマー
劇場公開日:2022年11月25日
スタッフ・キャスト
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映画評論
円卓の騎士の伝説を個性派キャストで描く異色の中世ファンタジー
「A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー」を手がけたA24とデビッド・ロウリー監督が再びタッグを組んだ異色の中世ファンタジー。円卓の騎士ガウェインと、謎めいた騎士グリーン・ナイトとの生死をかけたゲームの顛末を、デブ・パテル、ジョエル・エドガ...
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映画レビュー
4.0デビッド・ロウリー監督はすごい
円卓の騎士のガウェインを主人公にした作品としては異色の切り口というか、彼は高潔な騎士のイメージが強いが、本作ではそんな高潔な騎士になる前の未熟な存在からスタートする。クリスマスに緑の騎士との約束(?)を果たすために荒涼とした大地をさまよいつづけるガウェインの苦難の旅路を幻想的な映像で捉えたこの作品は、魂を揺さぶる瞬間の連続だ。デビット・ロウリーの作品は前作もそうだけど、何気なく撮っているように見えてやたら全編ショットが完成されている。どこを切り取っても絵画的に美しいし、少ない動きとセリフでも見事に映像で語ってしまう。なんとくか、言葉の域を超えた経験を体験させてくれる旅路に面出されたような、映画館から出た後には、世界が違って見えてしまう。別世界に人を連れ出してしまう傑作。華々しいアドベンチャーではなく、荘厳な宗教的な旅路。啓示を受けた気分になる。
4.0実家を追い出された体験から生まれたジワる英雄物語。
情けない貴族のボンボン息子が、冒険の旅を経て王になる資格を手に入れる英雄物語……と書いてもウソではないとは思うが、その情けない要素が甚大すぎて驚く。その情けないボンボン息子役にデーヴ・パテルがあまりにもピッタリで、英雄らしさはほとんどなく、ただただグダグダと旅が続いていくのが、妙にクセになるヘンテコファンタジー。お話の上で糸を引いているのがボンボン息子の母親である魔女であり、息子を成長させるために厳しい旅に送り出すという構図は、いつまでも実家でウダウダしてんなと母親に実家を追い出された監督の実体験がもとになっているらしく、それを知るとまたじわじわと可笑しさがこみ上げてくる。有り体に言ってかなり変な映画だし、この可笑しみが万人向けでないことも承知はしているが、ほかで観られない魅力のある幻想譚であることは間違いない。
4.0通過儀礼のごとく深淵で不可解な冒険
この美しさと不気味さを兼ね備えた映像世界は、我々を理解を超えた境地にどっぷり漬け込む。永遠にも等しい時の流れ、湿り気さえ覚える深い森の神秘性は、その空気感や語り口のペースを掴むまで観客にある種の忍耐を課すものとなろうが、そこさえ越えれば後はもう成すがままに緑へ取り込まれるのも早い。
カメラがゆっくり一周パンすると時が経過し、屍は骨となり、土へと返っていく。これに似た円運動をロウリー監督は『A GHOST STORY』でも使用していたが、本作は主人公が一年という期限つきで旅する点、生と死が似た概念で結ばれているようにすら思える点も含めて循環的だ。
そして本作では勇ましいヒロイズムや、歴史に名を刻もうとする功名心が意味を持たない。ガウェインの旅はいわば己の弱さや葛藤を尽く炙り出し、その集積と向き合う通過儀礼。大衆向けではないが、アーティスティックな感性に彩られた極めて精神的な魂の彷徨に魅せられた。
3.5鑑賞時期が違ったらもっと楽しめるかも
6世紀頃のブリテンの伝説的なアーサー王の甥サー・ガウェインを題材にした14世紀の叙事詩を原作として映画化。1925年にはJ・R・R・トールキンが現代英語に訳したこともよく知られるとか。アーサー王が歴史的に実在したかどうか諸説あることに関係があるのか、この「グリーン・ナイト」も古代ブリテンの騎士の冒険譚でありながら、魔術使い、霊的存在、巨人などファンタジー要素が色濃い。
映画化の企画が始動したのが2018年で、2020年春の公開を目指したそうだが、運悪くコロナの世界的流行とぶつかり、今年2月からロシアのウクライナ侵攻による資源不足や物価上昇などの影響、日本ではさらに歴史的な円安と、まさに日常生活が三重苦の状況で、果たしてこの現実離れしたダークファンタジーを楽しめる経済的・精神的余裕のある観客はどれほどいるだろう。もちろん映画に罪はないが、間の悪さは否めない。
英雄の旅の定型をなぞるストーリーを、撮影場所に選ばれたアイルランドの雄大な景色が盛り上げており、ファンタジーRPGなどのゲームの愛好家なら壮大で古風な雰囲気もある世界観に親しめるだろうか。
気になったことがもう一点。主演のデヴ・パテルは良い役者だと思うが、古代ブリテンの王の血縁者であるガウェイン役にインド系英国人のパテルを起用したのは、人種的多様性を目指す方向が見当外れで、行き過ぎたポリコレの実例になってはいないか。イギリスがインドを含む西アジアを植民地化していったのは18世紀末から19世紀にかけてであり、英国社会にインド系が移民として入っていったのもそれ以降のこと。架空の物語を題材にした創作物だからキャスティングも自由でいいという見方もあるかもしれないが、たとえるなら、平安時代の貴族社会を描いた『源氏物語』の実写化の企画で、主人公の光源氏役に金髪碧眼の白人かアフリカ系の黒人の俳優を起用するようなもの。いくら架空の物語だからといっても、時代劇として違和感を抱かせるキャスティングはいただけない。
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