草の響き
劇場公開日:2021年10月8日
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解説・あらすじ
「そこのみにて光輝く」「きみの鳥はうたえる」などの原作で知られる夭逝の作家・佐藤泰志の同名小説を、「寝ても覚めても」の東出昌大主演で映画化。心のバランスを崩し、妻と一緒に故郷・函館へ戻ってきた工藤和雄。精神科の医師に勧められ、治療のために街を走り始めた彼は、雨の日も真夏の日もひたすら同じ道を走り続ける。その繰り返しの中で、和雄は徐々に心の平穏を取り戻していく。やがて彼は、路上で知り合った若者たちと不思議な交流を持つようになるが……。慣れない土地で不安にさいなまれながらも和雄を理解しようとする妻・純子役に「マイ・ダディ」の奈緒、和雄に寄り添う友人役に「明日の食卓」の大東駿介。「空の瞳とカタツムリ」「なにもこわいことはない」の斎藤久志が監督を務めた。
2021年製作/116分/PG12/日本
配給:コピアポア・フィルム、函館シネマアイリス
劇場公開日:2021年10月8日
スタッフ・キャスト
インタビュー
東出昌大、夭折の作家・佐藤泰志に寄り添い続けた函館での日々
佐藤泰志という作家の名前が"独り歩き"するほどの知名度を獲得するうえで、「海炭市叙景」という1本の映画が果たした役割を無視することが出来ない。2010年に公開された同作が国内外で評判を呼んだことで大きなうねりとなり、絶版になっていた作...
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フォトギャラリー
映画レビュー
4.0東出昌大が走ったコロナ禍の函館 奈緒の献身的な寄り添い方に唸る
初号試写で鑑賞。佐藤泰志原作の映画化は5本目。シネマアイリスの菅原和博代表にとっても節目の作品といえよう。決して派手な作品ではないうえに、観光都市・函館もコロナ禍で大打撃を受けた。製作が困難を極めたのは言うまでもない。
そんな人気の少ない函館の街を、黙々と走る男。心の病を患った和雄が、治療の一環として街を走るなかで、若者たちとの出会い、ささやかな触れ合いが心の平穏を緩やかに取り戻していくさまを東出昌大は根気強く和雄に寄り添いながら演じている。
そして更に、その和雄に文字通り寄り添いながら献身的に支える妻に扮した奈緒の説得力が、今作の特筆すべき点といえる。今年も公開作品が7本と既に売れっ子といえるが、今後さらに作品数が増えていくのではないかと感じさせられる演技だった。
4.0難しい役を
4.5治療困難な精神疾患を題材にした超難解作品
「そこのみにて光輝く」「きみの鳥はうたえる」と同じ作家の作品のようだ。
彼特有の世界観は、起承転結のない純文学そのものだ。
この作品もまた非常に難解だが、見ることのできない人間の心を言動描写として表現している。
同時に「他人の気持ちに触れやしないよね」というヒロトのセリフがこの作品全体を覆っている。つまり、「それは当然だ」ということだろう。わからなくてもいいのだと思う。
作品は群像的だ。
ジュンコが出会った犬猫好きな少女はヒロトの姉のメグミで、彼女は「持たない者」で「持つ者」に夢や憧れを抱いている。
ジュンコは彼女から見て「持つ者」だが、一番大切な夫のカズオを見捨てる決断をした。
ジュンコは3度カズオに問いかける。「私が重荷になってない?」
表面上否定するカズオ。正月に実家に帰ったときに父との会話に切り込んだジュンコ。「カズ君は幸せなの?」首を横に振るカズオ。彼の本心を知った。
そして隔離病棟で「なんでこうなったの、私たち?」 妻の手を握って「ごめん、自分のことばっかりしか考えられなくて」と涙を流したカズオ。女の子の名前を考えようとしない彼に踏ん切りをつけた瞬間だったのだろう。
東京に向かう車の中で函館の街には現れないというキタキツネをとうとう見るが、それは彼女が思う生き方を選択できたご褒美だったのだろう。一番大事だと思っていたものを捨てることで得られる「普通である幸せ」を選択できた喜びの象徴だ。
この作品のテーマは「持つ者」と「持たない者」と「幸せ」とは何かについて視聴者に問うていると思った。
ケンジも「持たない者」で、親友の家族や生まれてくる赤ちゃんのことをうらやましく思っているが、「持つ者」である主人公カズオは、独身で自由なケンジの方が幸せだと思っている。
同時に、頭がよくてスケボーができて一流大学を目指せるアキラを、ヒロトは羨ましく思う。
冒頭登場するアキラのスケボー技術は高いが、坂道をを滑走する彼の行為は非常に危ない。アキラは基本的に他人の生き方に興味などなく、恐怖に挑戦することで自分が生きているという実感を得ていたのかもしれない。
ある日、カズオのジョギングを見て一緒に走り始めたアキラ。ヒロトも慌てて着いて行く。それは、アキラがカズオに共鳴したからだろう。この二人は群像だ。
ヒロトはアキラに高校中退をほのめかすが、アキラはヒロトのことに干渉しないと言う。ヒロトはアキラの無関心さに腹を立て、何か言って欲しかったんだと叫ぶが、アキラはそれを無視する。アキラはその後同級生たちとの会話の中で登場した7メートルの岩から飛び込み死んでしまう。
途中からジョギングに参加しなくなったアキラが気になるカズオ。
ヒロトから彼の死を告げられ、カズオはまた深い心の闇の中に落ちていく。
カズオはおそらくアキラの死に深い共感を感じていたのだろう。同時に感じる自分という人間の喪失。
ジュンコの話した「世界一幸せな洗濯」とは、「世界一幸せな選択」という意味ではないのか?
彼女自身がその選択をした。最後に病院の外へ出て走り出すカズオは、ジュンコの選択を知らないが、その感覚をどこか無意識の領域で受け取り、ようやく自由になった解放感に満ちあふれたのではないだろうか?
人はみな持ってるものをどうしても手放さないようにして生きているが、手放してしまった方が楽になることもあると、この作品は伝えているように感じた。
この考え方こそ新しい時代の新しい考え方としてこの作品は提供しているのだろう。
このような難解な作品は妄想することでしか理解できない。
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