DAU. ナターシャ
劇場公開日:2021年2月27日
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解説・あらすじ
ロシアの奇才イリヤ・フルジャノフスキーとエカテリーナ・エルテリが共同監督を務め、“ソ連全体主義”の社会を前代未聞のスケールで完全再現し、独裁政権による圧政の実態と、その圧倒的な力に翻弄されながらも逞しく生きる人々を描いた作品。オーディション人数約40万人、衣装4万着、1万2000平方メートルのセット、主要キャスト400人、エキストラ1万人、撮影期間40カ月、そして莫大な費用と15年の歳月をかけ、美しくも猥雑なソ連の秘密研究都市を徹底的に再現。キャストたちは当時のままに再建された都市で約2年間にわたって実際に生活した。ソ連某地にある秘密研究所では、科学者たちが軍事目的の研究を続けていた。施設に併設された食堂で働くウェイトレスのナターシャは、研究所に滞在するフランス人科学者リュックと惹かれ合う。しかし彼女は当局にスパイ容疑をかけられ、KGB職員から厳しく追及される。「ファニーゲーム」のユルゲン・ユルゲスが撮影を手がけ、2020年・第70回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞。
2020年製作/139分/R18+/ドイツ・ウクライナ・イギリス・ロシア合作
原題または英題:DAU. Natasha
配給:トランスフォーマー
劇場公開日:2021年2月27日
スタッフ・キャスト
受賞歴
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評価・あらすじ “ソ連全体主義”の社会を完全再現、狂気の実験プロジェクトの1エピソード。人間の恐ろしさを突き付ける139分。
"ソ連全体主義"の独裁政権による圧政の実態と、その圧倒的な力に翻弄されながらも逞しく生きる人々を描くため、オーディション人数約40万人、衣装4万着、1万2000平方メートルのセット、主要キャスト400人、エキストラ1万人、撮影期間40...
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2020年12月17日
映画評論
娯楽性は皆無。ひたすら生々しく恐ろしい、壮大な実験プロジェクトの第一弾
もしもこの世のさまざまな映画を、鑑賞後に会話が弾む映画とそうでない映画に大別するとしたら、ロシアのイリヤ・フルジャノフスキー監督が手がけたこの異様な映画は間違いなく後者に該当する。おそらく観客は映画館を出た後もしばし言葉を失い、いったい自分は何を観たのか...
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映画レビュー
3.5前代未聞のプロジェクトの序章に過ぎない
映画とは何かを改めて考えさせられる作品。“ソ連全体主義”の社会を前代未聞のスケールで完全再現し、オーディションで選ばれたキャストたちは、実際に再現された都市で約2年間にわたって生活したという。
さらに生物化学博士やKGBの元大佐まで出演していて、本物のオーラと迫力によって、これまで見たことがないくらい、異常な緊張感が画面から伝わってくる。もはや演技ではなく、作られたリアルな世界の中にカメラが入り込んだかのような錯覚に陥り、我々には伺い知れない独裁政権による圧迫感、そしてあまりにも衝撃的なバイオレンスとエロティックな描写は、これが映画であるということを忘れるほど。
作られた世界とリアルな世界の境界線を壊し、人間の本質に迫ろうとするこのプロジェクト。本作はまだ序章に過ぎず、続く「DAU. 退行」の上映時間はなんと全9章の6時間9分だという。どのように全貌が明らかになっていくのだろうか。
4.0「本作を観ること=実験への参加」との妄想さえ抱かせる異様な体験
映画史上並ぶもののない、常軌を逸した規模の実験的プロジェクトから生まれた作品群の第1弾だ。歴史上最も壮大な実験国家であった20世紀のソビエト連邦の社会を再現するため、15年の歳月をかけ、1万2000平米(東京ドームのグラウンド面積より少し狭いくらい)に秘密研究都市のセットを建設。ここで約2年間実際に生活したキャストらもいたそうで、3年以上にわたって撮影された700時間におよぶ映像から13本の長編映画が作られた。もはや単なる映画プロジェクトというより、独裁国家における権力構造や人々の心理状態を特別に作られた環境で再現しようと試みる、政治学や社会心理学などの学際的な研究に映画表現を組み合わせた破格の大実験と言えそうだ。
ただし本作「DAU. ナターシャ」は、研究所に併設された食堂で働く店員ナターシャを主人公に、意外なほど小さなスケールで構成されている。一緒に店で働く若いウェイトレスとのやり取り、訪れたフランス人科学者との情事、そしてKGB職員からの厳しい追及。ナターシャと愛人との情熱的な夜の営みや、彼女が受ける性的暴行を含む拷問を、冷ややかに観察するようなカメラワークでとらえた映像を目にするとき、観客もまた壮大な実験の一部になっているのではないかと錯覚してしまう。今後公開される作品も加えた「DAU」シリーズへの、評価や拒絶も含めたさまざまな反応が、プロジェクトの背後にいる人々によって収集され、研究データとして蓄積されていくのでは…といった妄想だ。
娯楽性に乏しく、万人受けする映画ではない。それでも、史上例のない壮大なプロジェクトから生まれた作品群を目撃する意義は確かにあり、ほかでは得がたい鑑賞体験になるのは間違いない。
5.0「する」と「させられる」で割り切れない不確かな行為
本作は、作品そのものの内容以上に、そのスキャンダラスな製作手法が世界中で議論の的になった。全体主義時代のソ連の実験施設を巨大なセットで再現し、そこに実際に人を住まわせ、当時の生活を長期にわたって体験させる。カメラはそれを切り取り、とてつもなく生々しい人間の痴態と暴力性を映し出す。
主な舞台は食堂と奇妙な実験施設、そして拷問部屋だ。軍事実験施設に併設された食堂で働く女性が2人、そこにやってくる常連の科学者たち。その中に1人外国人の科学者がおり、ナターシャは彼と一夜をともにする。乱痴気騒ぎに近いパーティ、仕事終わりに酒をかっくらってべろべろに酔っぱらうウェイトレス、そして、KGBによる拷問を延々と見せつけるこの作品の目的はなんなのか。ナラティブな線で構成されず、当時の生活の断面を驚異的なリアリズムで見せるこの作品。出演者たちは芝居をしているのか、それとも全体主義を再現したセットの中で環境に洗脳されたのか。観ていて全く判別できない。
そのことを考えること自体が、当時の全体主義かのソ連に生きる人々を考えることにつながる。拷問したKGBはなぜそのような行為に及んだのか、進んだやったのか、環境にそうさせられたのか。科学者と主人公の女性は進んで愛し合ったのか、それとも異様なあの環境下で愛し合うようになってしまったのか。「する」という能動態と「させられる」という受動態では割り切れないような何かが、ここにはある。
なぜ、あのような過酷な撮影を出演者は受け入れたのか。それもまた自発的な意思と環境との間で簡単に割り切れることではないのではないか。本作を見て、そんなことを深く考えていくと、人の自由意志は本当に存在するのか、人間の意思の不確かさに思い至ってしまう。この映画には驚くべき、人間の本質的な不確かさが映されている。
4.0他人の生活を、セックスも含めて覗き見るような不思議な感覚
部屋は複数ありますが、基本的には密室劇で、ワンカメの長回しで撮影されるので、映画というより舞台劇を見ている感じです。登場人物たちの、食事、仕事、口論、セックスなどを、手持ちカメラがジーッと捉え続けます。映像は生々しく、まるで他人の私生活を覗き見ているような、居心地の悪い気分になります。これを芸術と称えるか、悪趣味と切り捨てるかは意見の分かれることでしょう。私は、1950年代のソ連の秘密研究所が舞台という点にハマりました。キャビア、ウォッカ、カーシャ……。旧ソ連時代の習俗がヴィヴィッドに描かれている希有な作品です。冷戦時代のソ連を、21世紀に鑑賞するというなかなか醍醐味あふれる経験が楽しめます。DAU.プロジェクトはかなり壮大らしいので、2作目以降も楽しみです。
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