存在のない子供たち
劇場公開日:2019年7月20日
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解説・あらすじ
長編デビュー作「キャラメル」が高い評価を得たレバノンの女性監督ナディーン・ラバキーが、貧しさゆえに親からまともな愛情も受けることができずに生きる12歳の少年の目線を通し、中東の貧困・移民問題を抉り出した人間ドラマ。中東の貧民窟で暮らす12歳のゼインは、貧しい両親が出生届を提出していないため、IDを持っていない。ある日、ゼインが仲良くしていた妹が、知り合いの年上の男性と強制的に結婚させられてしまい、それに反発したゼインは家を飛び出す。仕事を探そうとしたがIDを持っていないため職に就くことができない彼は、沿岸部のある町でエチオピア移民の女性と知り合い、彼女の赤ん坊を世話しながら一緒に暮らすことになる。しかしその後、再び家に戻ったゼインは、強制結婚させられた妹が亡くなったことを知り……。2018年・第71回カンヌ国際映画祭で審査員賞とエキュメニカル審査員賞を受賞。
2018年製作/125分/PG12/レバノン
原題または英題:Capharnaum
配給:キノフィルムズ
劇場公開日:2019年7月20日
スタッフ・キャスト
受賞歴
第91回 アカデミー賞(2019年)
ノミネート
外国語映画賞 |
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第76回 ゴールデングローブ賞(2019年)
ノミネート
最優秀外国語映画賞 |
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2020年3月31日
映画評論
「存在のない」少年の告発のまなざしは、すべての大人に向けられている
この映画には、二種類の「存在のない子供たち」が登場する。12歳の少年ゼインの場合は、両親が出生届を出さなかったから。赤ん坊のヨナスは、母親のラヒルが不法移民だから。どちらも法的に存在していない。そんな二人が肩を寄せ合って生きる。家出してラヒルに拾われたゼ...
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映画レビュー
5.0少年の強い瞳
主人公の少年の瞳が観客を射抜く。この映画を観ているあなたは、世界の残酷さについて何を知っているのかと終始問いかけてくる。貧困の中で生まれた少年は、絶望的な環境に自分を産んだ罪で両親を告訴する。子は親を選べない、誰も産んでほしいと頼むことはできない。生を受けることは素晴らしいことだと余人は言うかも知れないが、この過酷さを前に同じことを言えるのか。
主人公を演じる少年は、シリア難民だそうだ。10歳のころから家族のために働いていたところを監督にスカウトされ出演することになったそうだが、この少年の全身から発する、本物の過酷さを知るオーラがこの映画を支えている。少年は絶望的な状況でも生きることを諦めない。その瞳にはなんとしても生き抜くんだという強い決意が宿っている。
近年、レバノンから傑作映画がいくつか生まれているが、これはその中の最高峰の一本だ。
4.0ゼインの瞳が貧困層の深い絶望を映す
まるで地獄を見続けて、並みの怒りや悲しみをはるかに超越したかのような、主演の少年ゼイン・アル・ラフィーアの冷めたまなざしに目を奪われ、圧倒される。ナディーン・ラバキー監督が原告側弁護士役を演じた以外は、主要なキャラクターのほぼ全員に、役と同じような境遇の素人を探してきて演じさせたという。いや、カメラの前で存在させたと言うべきか。劇映画でありながら、彼らの訴えや涙は本物なのだ。
レバノン映画と言えば、「判決、ふたつの希望」もまた、裁判が進むにつれ社会の深刻な事情が明らかになっていく構成だった。レバノンの映画人は、国の特殊な事情の中にある人類普遍の問題を、法廷映画のスタイルで世に訴える術を獲得したようだ。そういえばラバキー監督が主演も兼ねた「キャラメル」で恋人役を務めたアデル・カラムは、「判決…」の主演の1人だったし、国の映画界のつながりの中で互いに影響を与え合っているのかもしれない。
5.0カペナウム
あらためてみると演出は冷静だった。裁判所で陳述がなされた後に、その成り行きがフラッシュバックのように描かれる。証言と過程が羅生門のようにセットで進行していく。
さいしょの両親の陳述の時には、既にすべてが済んだあとで、ゼインはじぶんを産んだことを咎めて両親を訴えている。
そこから倒叙でゼインの暮らしが描かれる。
木の銃で戦争ごっこをやりタバコをふかす。家主のアサドの仕事を手伝って家計を助ける。鎮痛剤のトラマドール塩酸塩をつぶして溶かした液を服に染みこませて刑務所の麻薬中毒者に売る。11歳の最愛の妹サハルがアサドに売られたことが不服で家を出る。遊園地でエチオピアからの不法労働者ラヒルに会い、幼い息子ヨナスの子守をするかたちで同居するがラヒルは当局に収監されてしまう。しばしトラマドール溶液を売ってしのいだがバラックを閉め出され、にっちもさっちもいかなくなって移住と引き換えにヨナスを移民ブローカーのアスプロに売る。帰宅してサハルの死を知る。婚姻してすぐペドフィリアのアサドに妊娠させられ大量出血して亡くなっていた。衝動的に包丁を持ち出しアサドを切りつけ刑務所へ送致される。ゼインは刑務所からテレビ番組に電話をかける。
『両親を訴えたい。大人達に聞いてほしい。世話できないなら生むな。僕の思い出はけなされたことやホースやベルトで叩かれたことだけ。いちばん優しい言葉は「出て行けクソガキ」。ひどい暮らしだよ、なんの価値もない。僕は地獄で生きている。丸焼きチキンみたいだ。最低の人生だ。みんなに好かれて尊敬されるような立派な人になりたかった。でも神様の望みは僕らがボロ雑巾でいることなんだ。』
本作は衝撃的内容によって名作になったというより技術と構成によって観る者の心を深くえぐる映画になった。叙情を抑えて叙事につとめた。冷静だった。
ロケの臨場感にこだわっていて街ではけっこうなカメラ目線があつまるのがわかった。ヨナスのベビーカーはスケートボードに鍋をのっけたものだ。それを小さく痩せたゼインが引いて歩く。12歳にして顔に悲しみが刻まれたゼイン。原題Capernaumとはかつては存在しイエスが多数の人々を癒やしたとされる伝道の村だが、今そこはボロ雑巾のように虐げられる町だった。
存在のない子供たちを見た同時期に21世紀の女の子(2018)という日本映画を見た。新進の若手女性監督によるオムニバス映画だった。持ち時間10分に満たないショートだが凡庸かつ未熟でいずれも早送りしたくなるほどつまらなかった。だいたいにおいて21世紀を標榜しておきながら新しい手法を使っているわけでもなかった。腹が立ち、以来しばしばレビューで21世紀の女の子を引き合いにして、こき下ろした。
言いたいのは女であることで品質が寛恕されることを目論んでいることへの下劣さ。能力もないなら何を汲んであげられるのか。
海外には実力と個性をもった女性監督が台頭している。つまり日本の監督はナディーン・ラバキーと資質を比較できるのかという話である。
ガーウィグやビグローやソフィアコッポラやセリーヌシアマやエメラルドフェネルやクロエジャオなどなどと比較できるのか。
女性の社会進出が遅れているのなら性資本をつかったアピールをやめるべきだ。男社会が提供してくれた補助輪に乗ってみずからを女の子と言ってしまう姿勢に腹が立った。
そのようにして、存在のない子供たちを見たときに感じた懸隔・格差がある。とうぜんレバノンの貧民街と日本社会とくらべたときの差を強く感じたが、同時に映画づくりの能力差も痛感した。
ゼインの住む世界はわれわれの日常からは考えられないような過酷な世界だが、転じてじぶんが甘い世界を生きているような気分になったのであり、その気分を未熟な日本映画にぶつけたわけでもあった。
カンヌ映画祭の下馬評ではこの映画もしくはイチャンドン監督の村上春樹原作バーニングが濃厚との予測があがっていたが審査委員長ケイトブランシェットは是枝裕和の万引き家族を選んだ。依存はないが悩ましい選択だったと思う。ただし存在のない子供たちもパルムドール格とされる審査員賞をもらった。
存在のない子供たちの最終的な目的は貧困や内戦やテロや内政の混乱からくる普遍的な理解だと思う。サバイバルを物語の中心に据えることでゼインとヨナスは火垂るの墓の清太と節子のようにも見える。ゼインは困窮に懸命になって対処しようとするがサハルが売られみずからもヨナスを売って諦観の境地へ入ってしまう。最後の最後にゼインが初めて笑顔をみせたとき、彼があどけない子供だったことを知って愕然となった。
imdb8.4、RottenTomatoes90%と93%。
4.5俺たちは虫けらなんだ!! 少年ゼインがひたむきに生きた証を描いた作品
レバノンのスラム街で出生届も出されずに
育った子供たちがいたけれど、
自分の妹や、幼き子供たちを愛して生きてきた
人生の路、強い存在が感じられたストーリー
でした。
学校に通うことも出来ない、小さな体で
過酷な労働を強いられながら、ひたむきに生きる少年ゼインの姿がありました。
ゼインの妹であるサハルがアサードに売られて
しまったときのショック、傷付いた気持ちは
計り知れないものだったと思います。
不法就労、人身売買、証明書の偽造、薬物
人間が生きていくために
精神的に追い詰められていく状況を見て
心の痛む苦しさを思いました。
ゼインが証明書を取りに自分のアパートに
帰ったとき!
真実を知って自分を生んだ両親を恨む気持ちが少年のゼインの表情から窺うことができました。
裁判で争うことになった場面は
ゼインの父親のセリームの台詞が罪を犯さなければ生きていくことが出来なかった状況と
感情を強く感じ取りました。
ゼインが自分の母親に対して言った
『人の心が無いのか?』
という言葉が心に突き刺さりました。
社会の闇を見る人に訴えかけるストーリーでした。
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