夜の来訪者
劇場公開日:1955年6月17日

解説
イギリスの劇作家J・B・プリーストリーの同名の戯曲の映画化で、キャロル・リードの助監督をしていたガイ・ハミルトンが監督に当った一九五四年度作品である。脚色はデズモンド・デイヴィス、撮影は「地中海夫人」のテッド・スケイフ、音楽はフランシス・シャグリンである。出演者は「浮気は巴里で」のアラステア・シム、「偽れる結婚」のアーサー・ヤング、オルガ・リンド、アイリーン・ムーア、「春風と百万紙幣」のブライアン・フォーブス、ブライアン・ワース、ジェイン・ウェナムら。
1954年製作/イギリス
原題または英題:An Inspector Calls
配給:東和
劇場公開日:1955年6月17日
あらすじ
田舎町ブルムレイで豊かに暮すバーリング家で、娘シェイラ(アイリーン・ムーア)とジェラルド・クロフト(ブライアン・ワース)の婚約を祝っている夜、プール警部(アラステア・シム)と名乗る老人が訪れ、病院で服毒自殺したエヴァ・スミスに関することを聞きたいと言った。主人アーサーは、彼女の写真を見せられ、彼の工場で二年前におきたストライキの際、有無を言わせず解雇した女工の一人であることを知った。次に写真を見せられた娘シェイラは、ある帽子店で自分が帽子を見立てているとき、一人の女店員がクスリと笑ったのを咎め、主人を呼びつけて大袈裟に騒ぎ立てたため、その女店員がくびにされたことを思い出した。それがエヴァであった。警部の次の質問はジェラルドに向けられた。彼には、ある酒場でいかがわしい女たちに交った純情そうな一人の女の危難を救ったのがきっかけで彼女と関係を結んだ記憶があった。それがエヴァだったのだ。次に質問された母シビルも町の慈善協会幹事として、二週間ほど前、妊娠した女が救いを求めに来たのをすげなく追い返したが、写真を見て彼女がエヴァであることを知った。そのときシビルは、彼女をこんな境遇におとし入れた男に責任を負わすべきだと主張したが、その男が自分の息子エリックだとは知らなかった。警部の前で包みかくしのならぬエリックはすべてを白状した。エヴァに対する一同の罪をあばいて、警部が帰りかけると、いつの間にか席を外していたジェラルドが帰って果て、警部を別室におしこんでから、一同に彼が偽警部であることを素破ぬいた。顔なじみの巡査に聞いて確かめたという。病院に問合せると自殺者はいないという答え。一杯喰わされたと憤慨する一同へ、病院から電話がかかり、女の自殺者が今運ばれて来たと通知があった。ハッとした一同が警部のいる部屋に飛びこんで見ると、そこにはすでに警部の姿はなく、さっきまで彼がかけていた椅子がゆれているだけだった。
スタッフ・キャスト
映画レビュー
4.5邦題より原題には深い味わいがある
【鑑賞のきっかけ】
以前に面白そうなミステリ作品ということで、チェックはしていたものの、未見であったことに気づき、動画配信で鑑賞してみました。
【率直な感想】
<ミステリだけど、探偵役の「推理」がない>
本作品には、有名な戯曲としての原作が存在していて、この原作を元に既に1950年代に映画が制作されているそうです。
有名な原作ゆえ、21世紀になった今、再映画化されたのでしょう。
1912年のある夜、イギリスの富裕層の食事会の最中に、グール警部と名乗る人物が、屋敷を訪れる。
彼は、ある女性が自殺したことを告げる。
やがて、この富裕層の一族のそれぞれが、彼女を死に追い詰めるような状況で関わっていたことが明らかになっていく・・・。
舞台設定や物語展開からして、明らかにミステリ作品と呼べると思えます。
でも、この作品には、「推理」して真相を暴くという「探偵役」が存在しないのです。
グール警部は、「推理」をして、「事実はこうだったのではないですか」とその家族の面々を追い詰めていくという展開ではないです。
彼の頭の中には、すべて事実は頭の中に入っていて、例えば、彼女の写真を見せて、「この女性に見覚えは?」と質問し、告白を迫っていくという展開なのです。
<原題から物語のことを考えてみた>
そこで、本作品の原題を確認してみます。
それは、「An Inspector Calls」。
もともと「inspect」には、検査する、とか、調査する、という意味があります。
このため、直訳調で表現するなら、「調査官がやって来る」となります。
でも、屋敷を訪れた警部は、調査や検査はしていませんよね。
この部分は明かしても問題ないと思われるので、言及すると、彼は、「事前に」調査をしてきているのです。
この調査結果を、次々と告白させるように仕向けていく、そんな物語です。
ミステリの形式を取った作品なので、ラストには、意外な結末が待っています。
この結末について、私は当初、何かモヤモヤしたものを感じていました。
しかし、鑑賞後、原題から物語のことを考えてみた時、気づいたのです。
グール警部は、尋問をして、真相を暴くために訪れたのではない。
別の「目的」があるのだ、ということを。
さて、原題のInspectorには、定冠詞のtheはついておらず、不定冠詞のanとなっています。
つまり、特定の調査官を示しているのではないことになります。
さらに、callsは、過去形ではありません。
もし、作者がこの物語を過去のひとつの出来事として、題名をつけたなら、末尾は、「called」という過去形となるはず。
現在形というのは、現在だけではなく、過去から現在、そして、将来も、という長い時間軸を示します。
このため、「An Inspector Calls」とは、「(この物語のような事態が起きると)以前から、調査官はやって来たし、今だって、これからだって、やって来るのだよ」という意味になると私は解釈しています。
そのように解釈すると、ラストのオチの意味合いも理解できるように思っています。
【全体評価】
ミステリ作品ゆえ、ラストの部分を明かせず、回りくどい書き方になってしまいましたが、原題の意味の理解に努めていくことで、本作品がとても意味深い佳作であると言えると感じるに至りました。
4.5上流階級の愚かな腐敗ぶりたるや。
2015年のリバイバル作品をアマプラで。これほどまでに普遍的な作品が、1955年に公開されたとは。いや、ようやく時代が追いついたというべきか。
上流階級の邸宅での娘の婚約パーティーに起こったハプニング。父、娘、婚約者、母、そして息子までが関わった、とある女性の自殺。警部の存在が各々を告白に導く。その後に来るどんでん返しなど、誰が予測できようか。
4.0一夜の悪夢
2015年の物を見た。
イギリスの上流階級の一家とその娘の婚約者が集まった食事会の場に、グールという警部が現れて一人の女性の自殺を巡る尋問を開始していく。という物語。
グール警部とは何者だったのかについて、私は優しい死神の様な者なのではと思う。
貴族の我儘や面子の為に冷遇された結果自殺に追い込まれた女性の無念に寄り添い、彼らに罪を自白させる事で正しく断罪させようとした優しい死神。
そうでなければ父、母、婚約者はなんだかんだと罪から逃れようとしかねないからなぁ。
終盤、憤慨する母に娘が「やめて、お母さん。わからないの?」っていうシーン好き。
原作は確か戯曲なのだとか。
舞台で観てみたいなとも思った。
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