グスコーブドリの伝記
劇場公開日:2012年7月7日
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解説・あらすじ
宮沢賢治が1932年に発表した童話を、「銀河鉄道の夜」(85)も手がけた杉井ギサブロー監督がアニメーション映画化。1920年代の冷害にみまわれた東北の森を舞台に、厳しい自然と向き合う青年の姿を描き出す。イーハトーブの森で両親と妹と幸せに暮らしていたグスコーブドリは、森を襲った冷害のため家族を失ってしまう。やがて青年に成長したグスコーブドリは火山局に勤めるようになるが、再び大きな冷害が発生。被害を防ぐためには誰かが犠牲になって火山局に残り、人工的に火山を噴火させなければならず、グスコーブドリがその役割を担う決意をする。
2012年製作/108分/G/日本
配給:ワーナー・ブラザース映画
劇場公開日:2012年7月7日
スタッフ・声優・キャスト
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映画レビュー
2.5宮崎駿に対する答えの様な映像美術的な作品。
宮沢賢治原作を土台にした同名短編『グスコーブドリの伝記』を映画『銀河鉄道の夜』の杉田ギサブロー監督が四半世紀振りに挑戦した映画作品。内容は、主人公グスコーブドリと三人の家族が住む地域が飢饉に遭う。飢饉で両親蒸発し残された妹ネリと二人で生活する。突然!ネリが人攫いに遭い一人ぼっちになった主人公グスコーブドリが最愛の妹ネリを探す旅に出る。妹と出逢えるのか?飢饉から脱出する術はあるのか?社会と自分の繋がりは?自分の存在とは何なのか?様々な問題を提起する。
印象的な台詞は『どんな仕事でもいい。ほんたうに役立つ仕事がしたいんです。』ブドリの心底からの叫びが胸を締め付けました。それが最後の言葉『僕は今迄に沢山の人に生かされてきた。その沢山の人の為に役立たられるなら、僕はどうなっても構わない。何でもする!』に繋がる。最後に決心した様に叫ぶ場面は、映像と台詞の違和感を感じながらも印象的でした。
印象的な場面は、宮崎駿監督2001年作品『千と千尋の物語』をリスペクトした様な匂い立つ異世界風景など、映画を通してお互いの作品で対話をしているかの様な作品だった事です。お互いに年齢も良く似た者同士いい関係なのかもしれません。その他にも銀河鉄道の夜をもう一度やってくれている場面やエレベーター🛗の中の家庭教師と兄弟がそのままの姿で天に昇るシーンは他に表現無かったのかと思うほどに直球でした。
印象的な表現では、蚕が一斉に天に昇って舞い上がるシーンの豪華さと背景美術の自然の美しさです。手の込んだ作画とキャラクターの微妙な動きが素晴らしく緻密で、手塚プロもいい仕事するなと感心してしまいます。
全体的に、突拍子もない御伽噺の進行具合なので初めて観る人には面白く無いかもしれません。原作も漫画も突拍子なさは変わりませんが、それが宮沢賢治作品の良さや楽しさだったりします。銀河鉄道の夜から25年。技術進歩が格段に変化したアニメ業界でCG合成や実写合成など新たな表現方法を模索した面白い作品です。
個人的な意見ですが、雨ニモマケズ…の朗読で、原本通りヒドリノトキハ…をヒデリノトキハ…に変化させなかった所から宮沢賢治への作品愛が伝わり楽しく観る事が出来ました。自己犠牲が奇跡を生むというナウシカの映画版の様な結末に、自身復活の無い暗い終わりが全ての様にも見られます。しかし、余りにも綺麗で美しい映像表現だげに勘違いしてしまいます。最初の仄暗い水の底から上がってきて、この世界を領海侵犯しているのは貴方!視聴者ですよとの表現は伝わり辛いのかなと残念に思います。
最後のイーハトーヴを上に引いて行くカメラアングルが天空の城ラピュタの最後の様で色んな意味で面白く観る事の出来る素晴らしい作品です。
5.0そう言う者に私はなりたい
宮沢賢治先生は 1896年8月27日
1933年9月21日の生涯
20世紀以降、東北では飢饉が最低でも三回起きている。一回目の1905年の冷害による飢饉を賢治は記憶に残していると思う。この作品(短編)は1932年の発表だから、この小説に限った事ではなく『雨ニモマケズ』も『永劫の朝(あめゆきとてきてけんじゃ)』も、そして『銀河鉄道の夜』もそう言った冷害による飢饉を意識していると思う。そもそも、彼は科学者で、このアニメは彼の思想そのものと言える。
さて、火山の研究に入る前に赤ひげ(ヒデヨシ)の所で農作物の品種改良等に取り組むが、希望的に描かれている。しかし、実は賢治没後一年目の1934年に二回目の冷害による飢饉が東北を襲っている。この時の被害も大変なことなのだが、全滅ではなく、4割減で収まっている。寧ろ、品種改良等で最小限に留められたのかもしれない。しかし、残念ながら、1930年と言う事は昭和の恐慌が重なって、収まった言える訳が無いのかもしれないが。そして、更にその後、戦争に突入するわけだから、東北の民の暗い現実は三十年間以上続く。また、満蒙開拓団と言う実態も東北の冷害を発端としている。
さて、
アニメは間違いなく東日本大震災に対する復興を意識している。製作年が2012年なので必然だ。
そして、
三回目で、20世紀最後の冷害が1993年に起きている。勿論、品種改良や食生活の変化等で、飢饉には至らなかったが、経済に与える悪影響は日本全国に及んだ。1971年からの減反政策に追い打ちをかけ、食料の自給率は大きく下げた。
さて、
その原因は、なんと、ピナツボ火山の噴火である。このアニメの結論は、火山の噴火による二酸化炭素の温暖化と言う事だった。グスコーブドリが命をかけた事、それが間違っていたのである。
さて、
では、このアニメは何を言いたいのか?
アニメを見て暗い気持ちになった方は、原作を読む事をおすすめする。前向きな気持ちになると思う。やはり、賢治の童話はアンデルセンに通じるものがあると思う。そして、最後にいつも思う事は、
雨ニモマケズの最後の言葉。
『・・・そう言う者に私はなりたい』つまり、今の自分はそう言う人間ではないと言っている。
4.0【杉井ギサブローさんの賢治への想いが生み出したファンタジーアニメ作品。】
公開後も評価が低かった作品だが、私は宮沢健治の暗く、寒い冬を基に描いた数々の作品をアニメーションにすると、今作のような作品になるよなあ、と面白く鑑賞した作品。
多様な緑を配色し、グスコー・ブドリの世界を現した作品の風合、その中で、パープル色をグスコー・ブドリ、ネリ兄妹の顔色にしたセンスは素晴らしいと思った。
又、大仰な音楽を多用せず、静かに物語を進めていく空気感も良かったと思う。
グスコー・ブドリの抑制された低音ヴォイス(小栗旬さん)が受け入れられなかったのかなあ、私は良いと思ったけれど。
<何が今作の評価を低くしたかは、何となく分かる気がする。
それは、”宮沢健治の世界”を愛する人々それぞれの想いを映像で表現するのは難しすぎるからであろうと思った作品。>
<2012年7月9日 劇場にて鑑賞>
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