ライアンの娘
劇場公開日:1971年4月24日
解説
反英世相高まるアイルランドの寒村を舞台に、不倫の恋に燃える人妻の業を描く。製作はアンソニー・ハヴェロック・アラン、監督は「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」のデイヴィッド・リーンで、他のオリジナル脚本のロバート・ボルトや撮影のフレデリック・A・ヤング、音楽のモーリス・ジャール、編集のノーマン・サベージ等は両作品の時と同じスタッフである。出演は「秘密の儀式」のロバート・ミッチャム、「遥かなる戦場」のトレヴァー・ハワード、「召使」のサラ・マイルズ、「さよならを言わないで」のクリストファー・ジョーンズ、「ふたりだけの窓」のジョン・ミルズ、その他レオ・マッカーン、バリー・フォスターなど。メトロカラー、スーパー・パナビジョン七〇ミリ。
1970年製作/195分/イギリス
原題または英題:Ryan's Daughter
配給:MGM
劇場公開日:1971年4月24日
あらすじ
一九一六年、反英蜂起が失敗して間もないアイルランドでは独立運動の戦士達がドイツから武器を密輸入して再び蜂起せんとしていた。ダブリンから大平洋海岸の寒村キラリーへ帰って来た教師チャールズ(R・ミッチャム)はロージー・ライアン(S・マイルズ)の迎えを受ける。彼はかねがね彼女を愛していた。しかし、年齢や男やもめの身を考え心を押さえていたのだったが、彼女の激しい愛情に迎えられては、日頃のたしなみも忘れて応ぜずにいれなかった。これを見ていた村の変わり者マイケル(J・ミルズ)は人知れずロージーを愛していたので言いようのない寂しさに襲われる。二人はコリンズ神父(T・ハワード)の手で結婚式を挙げ、ロージーの父トム(L・マッカーン)は盛大なパーティーを催した。人々の祝福にもかかわらず、彼等の結婚は初夜からつまずいた。チャールズは新妻の激しい求愛についていけなかったのだ。他の点では申し分ない夫だけにロージーの悲しみは大きく、それを紛らわすかのように忙しく立ち働くのだったが、コリンズ神父に感付かれ、その物足りなさを告白してしまう。そしてチャールズと正面衝突してしまう。そんな彼女の前に第一次大戦で足を負傷した戦士ランドルフ(C・ジョーンズ)がキラリーに近い英軍守備隊の指揮官として赴任してきた。足が悪く惨めな思いをしていたマイケルは喜び、彼と接近する。或る日、ランドルフはロージーの働く居酒屋に入り、突然、戦場後遺症の痙攣に襲われる。ロージーはかいがいしく介抱した。戦争で傷ついた心と満たされぬ心が相寄り彼等は木立の中の陽当りの良い場所で愛し合う。マイケルが見ていた。チャールズは帰って来た妻の衣服の乱れに気付き、問い質すが妻は欺き通した。ロージーの不義は続いた。チャールズは妻の態度の変化に不信を抱くが、不貞の行為など考えてもみなかった。が、来るべき時が来た。生徒を連れて浜に出た時、二人の足跡が岸の洞窟を往復していたのだ。彼は深い苦しみに襲われ、自分はロージーに相応しいかを自問する。同じく洞窟の中でランドルフのボタンを見つけたマイケルは、独特の突飛な方法で、この不倫な関係を吹聴して廻った。ロージーは姦婦として村人の視線を浴びる。一ヶ月後、独立運動の闘士ティム(B・フォスター)は同志と共に武器を積んでキラリー沖に着くが、海は猛烈なしけで、ロージーの父ライアンの力をかりて陸上輸送に切り替える。だが、軍の前にランドルフの一隊が立ちはだかり、失敗してしまう。密告は僅かな金につられたライアンだった。この事件は、ランドルフへの村人の憎悪を燃え立たせた。ここに赴任して来て、落ち着いたかにみえた彼の心のバランスは、崩れ出す。そして、ロージーとの情事をチャールズに見られてしまった。忍耐強いチャールズも流石に我慢ならず、悶々とした心を抱き、二日も家に帰らなかった。小さな村のことで彼の動向は皆の注視を集めた。ロージーも日頃は温厚な彼を思うと気持も察せられ心が痛んだ。村人達はティム等を裏切ったのはロージーに違いないと至極、常識的に判断し、彼女をリンチ裁判にかける。彼女は父の犯行だと判っていたが自ら罪をかぶる覚悟を決めた。着物を剥がれ、頭をそられるロージーを見てチャールズが庇い身代わりとなり、リンチを受ける。が、コリンズ神父が現われて蛮行は中止させられた。あくる日、海岸をうろついていたマイケルは、一人しゃがみこんで海を見つめるランドルフを見付けた。彼は再び、ロージーを知る以前の男--西部戦線の亡霊--に戻っていた。そして自殺して果てた。一方、ロージーから身を引こうと決心しつつもチャールズの、彼女に対する愛は変わらなかったが、破局はとうに来ていた。二人はいまわしい村人達の視線を欺く為、仲の良い夫婦を装って村を去ろうとしていた。が、装いが装いでなくなる日は、さ程、遠からぬことであるに違いない。
スタッフ・キャスト
受賞歴
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2008年1月25日
フォトギャラリー
映画レビュー
4.0本音と本能、矜持と建前
4.0わからん、何もわからん。さあ行こう・・・
Dリーン監督の名作の一つですが、テーマが壮大な他作品とは違いこの作品はアイルランドのとある田舎の村での不倫騒動という下世話な出来事を題材にしていています。人間の愚かさといった内面によりフォーカスした内容となってますが、迫力のある映像と贅沢な時間の使い方は他作品と同様、その中でのDリーンの卓越した繊細な人間模様と心理の描写は流石としか言いようがありません。格調高くてもこんな映画は今となっては興行収入も見込めずこの先も製作されることはありえないので、映画ファンなら是非見ておくべき貴重な一本だと思います。
私にとって最も印象的で衝撃的なシーンは民衆たちのローズに対する集団リンチ。大衆心理による暴力ほど醜くて恐ろしいものはない。数十年前に最初に観た時は、貧しかったその時代のはるか遠くの国の民度の低い民衆による仕業としてありえるのかな程度に捉えていました。が、今改めて観てみて、昨今のメディアでの不倫等のスキャンダルに群がるネット民たちの誹謗中傷が頭をよぎりました。全く無関係な人たちがよってたかってターゲットに向けて顔の見えないネットを通じて暴言を浴びせ、時には人の命を奪うことも。身近なところでは学校でのSNSを使ったグループでのいじめが日常茶飯事的に行われてます。時代や場所、手段が変わっても人間の本質ややってることなんて何にも変わっちゃいないんですよね。
アイルランドの美しくも哀愁のある風景とともに全体的に陰鬱な雰囲気のまま最後のシーンにつながっていく。そしてこのレビューのタイトルにあるのが映画の最期の最後に神父さんが発するセリフ。これがDリーンの結論なんだと思います。人生、結局そういうことだと思います。「正解なんてないんです。でも生きていく限り、きっと・・・」と個人的に解釈させていただきました。
4.0イライラ三人組
4.5人物描写と観ている者に考えさせる構成が秀逸
今作は名作『戦場にかける橋』のデビット・リーン監督による映画ということもあり、興味を持ち鑑賞。結論から言うと人物描写の奥深さと、台詞ではなく行動によって観ている者にストーリーや心情を考えさせる構成が秀逸だと思える映画だった。
主人公の女ロージーがいる村の住民は、小学生のやりそうないじめをしたり、結婚式後のパーティで羽目を外し過ぎたりとガサツで、民度が低い。ロージーの夫チャールズはまさに大人の男性といった佇まいだが、彼女には刺激が足りない。そんな中で出会った不倫相手のドリアン少佐は、彼女の周囲にいるどの男性とも異なるタイプだ。端整な顔立ちで、気品と色気がある中に優しさも感じさせる。そしてドリアン少佐はPTSDを患っているため、ロージーは側にいてあげなきゃいけないと、彼女の母性本能をくすぐる。そういった登場人物の対比によって、ロージーがドリアン少佐に惹かれる気持ちがよく分かる構成になっている。それを台詞ではなく行動で示しているシーンが多いのが、人間の機微をより感じさせる。
夫のチャールズも、村の顔役的な存在のコリンズ神父も魅力的だ。チャールズはロージーの不倫を知りながらも取り乱さず冷静で達観している。彼女に対して感情的になることも無い。それどころか気にかける優しさを持っていて、精神的に成熟した大人という印象を与える。コリンズ神父は人として常に正しくあろうとしている。厳しさの中に優しさや面倒見の良さがあるという、人間的な温かみのある人物として描かれている。このように人物描写がよくできていて、観ている者に印象を残す。
3時間超えの長編映画で、昔の作品ということもあり少し冗長さは感じさせるものの、内容はそれに見合って秀逸なストーリーだと思う。それを軽快な音楽に乗せて進めていく構成は、デビット・リーン監督らしさを感じさせた。
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3月21日更新
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