駆逐艦ベッドフォード作戦
劇場公開日:1965年11月12日
解説
マーク・ラスコビッチの小説を、「野のユリ」のジェームズ・ポーが脚色、「ロリータ」のジェームズ・B・ハリスが監督したアメリカ海軍の駆逐艦を舞台にしたサスペンス・ドラマ。撮影は「博士の異常な愛情」のギル・テイラー、音楽はジェラルド・シャーマンが担当した。出演は「シャイアン」のリチャード・ウィドマーク、「野のユリ」のシドニー・ポワチエ、「スペンサーの山」のジェームズ・マッカーサー、「5月の7日間」のマーティン・バルサムほか。製作は監督もかねるジェームズ・B・ハリス、共同製作がリチャード・ウィドマーク。
1965年製作/アメリカ
原題または英題:The Bedford Incident
配給:コロムビア
劇場公開日:1965年11月12日
あらすじ
駆逐艦ベッドフォード号に2人の男が乗艦した。特派記者マンスフォード(シドニー・ポワチエ)とポッター海軍軍医少尉(マーティン・バルサム)である。艦長フィンランダー海軍大佐(リチャード・ウィドマーク)の冷い容貌には、自説を曲げない強固さと、何ものをも恐れぬ気迫、完全を要求する厳しさが刻まれていた。ベッドフォードの任務は、NATOの防衛の一翼をにない、アメリカの外国防衛ラインへ侵入を試みるソ連潜水艦をキャッチするために、グリーンランド海峡を定期的にパトロールしているのだった。ベッドフォードには第二次大戦で勇名をはせたドイツ潜水艦Uボートの司令官シュレプケが乗っていた。その頃、海上に廃棄されていた塵芥を分析していた化学室から報告があり、ソ連潜水艦が近くにいることがわかった。全員配置が命令され、戦闘準備は完了した。フィンランダーは艦隊司令部に急報し、指示をあおいだ。その時、潜水艦が潜水を開始し潜水は30時間が限度だ。司令部から「最高決定のないままいかなる行動をも禁じる。待て」とテレタイプが入った。30時間がやってきて過ぎていった。フィンランダーは司令部の命令を秘し、潜水艦に直接警告を発した。その時、前方の水面を割って潜望鏡が現われた。フィンランダーは潜望鏡の上を乗り越せと命令した。潜望鏡がベッドフォードの衝角の下で砕けた。神経を完全にやられたシュレプケに、フィンランダーが激しくいい放った。「もし敵が一発射ったら、こちらも一発お見舞する」と。その時、ミサイル発射装置の前に待機していたラルストンは、艦長の最後の言葉だけを耳にし、訓練を受けた通り、自動的にボタンを押した。すさまじい爆発、次の瞬間、魚雷が4本、ベッドフォードに向かって直進してきた。ミサイルが波を打ったと同時にソ連の潜水艦は魚雷を放ったのだ。万事休す。「もう何もできない、あれは核魚雷だ」とフィンランダーは絶望的に言うのだった。
スタッフ・キャスト
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映画レビュー
4.5本作では北極海の出来事だが、東シナ海で明日にも起こるかも知れないことなのだ
1962年キューバ危機で、世界は本当に核戦争一歩手前にまで行った
その恐怖の記憶が2年後に2つの映画を産んだ
キューブリック監督の「博士の異常な愛情」と
シドニー・ルメット監督の「未知への飛行」だ
そして1年遅れて1965年10月には、本作を産んだのだ
本作公開のちょうど3年前の1962年10月
キューバ危機の真っ最中に、キューバ近海でソ連の通常動力潜水艦が米国艦隊に訓練用爆雷で追い詰められて、強制浮上させられた事件が実際にあった
その際、のちに分かったことであるが、このソ連潜水艦は本国との通信が困難となり、米ソが既に交戦状態にあると考え、核魚雷で反撃しようとしていたのだ
正に本作で描かれたそのままのことが、寸前で回避されていたのだ
つまり、「博士の異常な愛情」や「未知への飛行」よりもさらに現実に沿っており、本当に起きたかも知れないことだったのだ
本作は冷戦が続く限りこういうことがまた起こるかも知れない、そのときは回避されない可能性の方があるのだと言う話として作られている
このソ連潜水艦が核魚雷発射をしようとした事実は、2002年に公表されたことなので、本作製作時には知られていなかったはず
だから本作はキューバ危機の恐怖が、起こり得たことかもしれないも想像が作らせたものが、実はそのときの核戦争の危機を正確にシミュレートしていたのだ
映画の内容は、「ケイン号の叛乱」と「眼下の敵」を掛け合わせような筋書き
ソ連潜水艦側のシーンはない
その代わり、NATOからアドバイザーとしてこの駆逐艦ベッドフォードに乗艦している、元Uボート艦長で今はドイツ海軍の代将に潜水艦側の動きを代弁させている
誤射が何故起こるのかのメカニズムの説明の為に、シドニー・ポワチエの演じる黒人記者と、気が弱く艦長に反対意見を強く通せない軍医を配置してあるシナリオが上手い
黒人記者は観客の目で客観的な視線で状況を目撃させるための人物だ
そして、艦長に最終的には屈してしまう軍医の存在が秀逸だ
この事態を防げたのは、この艦の中では彼しかいなかったのだ
彼が艦長に屈するような人物であったから誤射が起こってしまったのだ
キューバ危機の時のソ連潜水艦が、核魚雷を発射しなかったのは、その潜水艦の副長が発射に断固として反対したからであったという
実はその副長は、この1年前は後に映画にもなった原子炉事故を起こしたK-19でも副長をしていた人物であったのだ
それ故に核の恐ろしさを身に染みて知っていたし、艦長も彼の断固とした反対意見により発射を思い止まったという
まるでこの事実を知っていたかのような脚本だ
核戦争を防ぐのはたった一人の勇気だったのだ
本作から半世紀以上過ぎた
冷戦は終結してソ連はもはや無い
しかし米中の新冷戦は始まったばかり
ロシアもまた軍備を拡大している
この物語は大昔のお話ではないのだ
今21世紀の日本の物語と言っても良いのだ
事実、2018年1月に尖閣近くの接続水域で、中国海軍の潜水艦が海上自衛隊に追い詰められて、公海に脱出の末に強制浮上させられた事件があったのだ
本作は絵空事ではない起こり得ることを描いているのだ
ラストシーンは核魚雷の接近音、最早回避も意味もない
そして核爆発が起きる
フイルムが焼け溶けるような映像効果が秀逸で印象に残るだろう
水爆の巨大なキノコ雲がエンドマークとなるのだ
本作では北極海の出来事だが、東シナ海で明日にも起こるかも知れないことなのだ
シドニー・ポワチエにとっては、アカデミー主演男優賞を捕った1963年の「野のユリ」と大ヒット作の1967年の「夜の大捜査線」の前後2年にはさまれた作品
「招かれざる客」は、「夜の大捜査線」の次の作品
軍医が彼のようなものをいう人物であったなら、この誤射は防げたのかもしれないという為に配役されたのだろうが、いまいち狙い通りに伝わらなかった
彼の演技でなくシナリオの問題だ
彼の取材の目的はキューバ危機でソ連潜水艦を強制浮上に追い詰めた手柄のある彼が何故将官に昇進できなかったのか?だった
その答えがこのラストシーンであったのだ
それも今ひとつ伝わりにくい
だが本作はなんといっても艦長役のリチャード・ウィドマークだ
素晴らしい名演技だ!
彼の誤射が起きて全ては自分のせいだと悟ったときの演技は、それまでの傲慢な態度との大きな落差をみせてラストシーンを特に印象的にしてくれた
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