劇場公開日:2020年8月2日
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解説・あらすじ
イタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニが「道」に続いてジュリエッタ・マシーナを主演に据え、ある娼婦の哀歓を描いた名作。不幸な境遇に置かれながらも、仲間に夢を語り明るく前向きに生きる娼婦カビリア。ある夜、有名な映画俳優が彼女を豪邸へ連れ帰るが、彼の元恋人が現れカビリアは追い出されてしまう。数日後、カビリアは見世物小屋で出会った青年オスカーに求婚されるが……。数々の苦難に巻き込まれても明るさを失わない主人公をマシーナが鮮やかに演じ、第10回カンヌ国際映画祭で主演女優賞に輝いた。第30回アカデミー賞では外国語映画賞を受賞。1966年には「スイート・チャリティー」というタイトルでブロードウェイ・ミュージカルとなり、シャーリー・マクレーン主演でハリウッド映画化もされた。1957年製作・公開。フェリーニ生誕100年を記念した「生誕100年フェデリコ・フェリーニ映画祭」(2020年7月31日~8月20日=東京・YEBISU GARDEN CINEMAほか)で4Kデジタルリマスター版が上映。
1957年製作/117分/イタリア・フランス合作
原題または英題:Les nuits de Cabiria
配給:コピアポア・フィルム
劇場公開日:2020年8月2日
その他の公開日:1957年11月9日(日本初公開)
原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。
スタッフ・キャスト
受賞歴
第30回 アカデミー賞(1958年)
受賞
外国語映画賞 |
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2012年11月5日
フォトギャラリー
映画レビュー
3.5隠れた名作
5.0救いを求める女
4.5天使の迎え
ちょうど俺にもカビリアと似たような女友達がいて、会うたびに違う男の話をしてくる。恋愛感情とかは全然ないから!そのへん割り切ってるから!と自己催眠のように強調するのでじゃあ会わなきゃよくね?と言うとちょっと嫌な顔をされる。しかし2〜3週間後には結局LINEをブロックされていたり面と向かって嫌なことを言われたりで失恋。そのときの落ち込みようったら。そのたびにもう恋愛とかやめるわと勢いよく引退宣言してみせるのだが、しばらく経つとねーちょっと聞いてよ…と来る。
お前かなり愚かだな〜と毎回笑っているのだが、一方で俺は彼女のことがけっこう好きというか、ある意味じゃ敬意を抱いている。俺だったら恋愛などという一喜一憂のジェットコースターに立て続けに乗ろうという気がそもそも起こらない。第一に疲れてしまうだろうし、それに何度も何度も乗っているうちに生の感動みたいなものが薄れていくような気がして怖い。だからそこを恐れずに飛び込めるのはすごい、女友達もカビリアも本当にすごい。彼女らにとっては恋愛のあらゆる瞬間が強い電撃のように感じられるんだろう。いつまでも。打ちのめされることにビビってはじめから何もしない俺は本当にダメ。
しかし彼女らのような強く実直な信念で恋愛に臨む者たちに待ち受けるのは、往々にしてリアリズムの汚泥がこびりついた偽物の愛ばかりだ。カビリアはのっけから恋人に土手から川へ突き落とされ、あまつさえ死にかける。人工呼吸でようやく目を覚ました彼女が周囲への感謝より先に逃げ去った男を必死になって探している姿が切ない。
その次は有名な映画俳優。彼は自分の女と喧嘩別れした腹いせにカビリアを誘い出し、かりそめの夢を見せる。いや、最後までやることやってんならいいんだけど、風呂場に一晩放置というのはあんまりにもむごい。それでも文句一つ言わないで豪邸を後にするカビリアの愚直さ。
このあたりからカビリアもだんだん自分の生活に嫌気が差してきて、娼婦仲間と共にマリア様に嘆願しに行ったりもするのだが、叫びも涙もその場限りのもので誰もが週末になればそれまでの微温的生活に戻っていく。カビリアは半ば自己嫌悪のようにマリアなんかが何をしてくれるんだい?と叫び散らす。
貧乏クジばかりの人生だったが、遂に彼女にも転機が訪れる。彼女は見世物小屋で出会った紳士に熱烈な求愛を受け、幾度かのデートを経て結婚を申し入れられる。舞い上がったカビリアは意気揚々と自分の家を売り払い、教会の牧師様に謝辞を並べ立てる。神様はやっぱりいたんだ!と彼女はバスに乗って村を去る。
結婚直前のデートに浮き足立つカビリアとは対照的に、相手の男の雰囲気がどうやらおかしい。明らかに温度差がある。カビリアはそれには気づかず(いや、きっと気づいていたんだろう)散歩に出かけた男についていく。鬱蒼とした森を抜けるとそこには真っ赤な夕焼けと広い広い川が。男、デート、川…カビリアの脳裏を嫌な思い出が掠める。ここへ来た真意を問い詰めるも無言を貫く男にカビリアはすべてを悟り、諦める。大金の入ったカバンを男の前に放り出し、その代わりに自分を殺してくれと懇願する。しかしこの男がそんな責任感のある行動を取れるはずもない。男はカバンを持って逃走し、やがて夜が来る。
舗装路まで戻ってきたカビリアはそこで不思議な人々に囲まれる。皆一様に楽器を持ち、パーティー用の帽子をかぶっている。彼らは失意のカビリアの周りを取り囲み、彼女に福音をもたらすかのように音楽を奏でる。俺にはそれが天使の迎えのように見えた。数多の絶望を生き抜いてきた彼女を肯定できるものは、もう現世の理を超越したあの世の使い、あるいは神のほかに存在しないんじゃないか。そして天使たちに囲まれたカビリアの表情もまた、恐ろしいほどに一点の穢れもない微笑へと変わっていく。それにしたって神様はやっぱり残酷だと思う。こんな風になる前にもっとどうにかしてやれなかったのかと悔恨ばかりが尾を引く。俺の女友達もいつかこんな風に迎えがきてしまうのだろうかと思うと背筋が凍る思いだ。だから俺はバスに乗り込むカビリアを見送ってしまったあの娼婦友達とは違って、頼む戻ってきてくれ!と無様に懇願したいと思う。まあ、でもたぶん行っちゃうんだろうな。それ以外の何もかもがどうでもよく見える恋を知らない俺にはたぶん説得力がない。
この映画をものすごく雑にまとめるなら「バカな女がひたすら可哀想な目に遭う話」に尽きるのだが、しかし決して単純な「悲劇フェチズム」には陥っていない。本作には受け手を映画の中の悲しみに否応なく引きずり込んでしまうような仕掛けがところどころに施されている。たとえば見世物小屋でカビリアが観衆に嘲笑されるシーン。我々はカビリアの視点を通じて観客席の下品な哄笑を目の当たりにする。フェリーニは馬鹿笑いに興じるこいつらは実のところお前ら観客なんだぞと鋭く釘を刺すのだ。そしてあのラストシーン。カビリアは人間ならざる神聖な微笑を明確にカメラへ、つまり我々へ向ける。登場人物の人生を都合よく覗き見する天窓としてのカメラは彼女の聖性によって決定的に見破られる。スクリーンの中のカビリアと目が遭ってしまったあの瞬間の胸のざわめき。己の冷笑的な映画鑑賞スタイルを暗に非難されているようで居心地が悪かった。本当にすごい映画だった。
3.5カビリアだってダメ人間
カビリアは気の毒だった。さすがに、騙される方が悪いなどということはないでしょう。このオスカーという人には、正直私だって騙されそう(でも少しくらいの疑いは最後まで捨てないだろうけれど)。
ても、カビリアって、川に落とされた自分を助けてくれた人々にきちんとした感謝の言葉は返せないし、自分を心配して現実的アドバイスをしてくれる女友達に悪態をつく。彼女は、悪い人間じゃないけれど、心がけが良い人とは言えない。
まぁ、そんなところがこの映画の興味深いところでもあるけれど。登場人物たちは欠点も弱い面も持つわけで。
教会での場面でも、彼女も人々も雰囲気に呑まれ、いつの間にかひれ伏してしまっている。弱く、単純な人間たち。
そんな不完全な人間たちが悲劇を織りなす。
最後にカビリアが見せる笑顔は、何なのだろう?
もしかしたら、騙されたのではなく、言わば愛情を持って人を助けたのだ、というような心境になれたのか?(私には到底なれないと思うけれど)彼女は精神的には前とは別の次元に登りつつあるのか。
とりあえず、そういうことにしておこうと思う。
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