悲しみの青春
劇場公開日:1971年10月9日

解説
戦争の黒い影がしのびよる北イタリアの古都フェルラーラに生きる若い世代の、愛と哀しみを描いた作品。監督はヴィットリオ・デ・シーカ、ジョルジョ・バッサーニの小説「フィンツィ・コンティーニ家の庭」をヴィットリオ・ボニチェリとウーゴ・ピッロが共同脚色。撮影はエンニオ・グァルニエリ、音楽はマヌエル・デ・シーカが各々担当。出演は新人ドミニク・サンダ、リノ・カポリッキオ、「地獄に堕ちた勇者ども」のヘルムート・バーガー、ロモロ・ヴァッリなど。
1971年製作/イタリア
原題または英題:Il Giardino dei Finzi Contini
配給:東和
劇場公開日:1971年10月9日
あらすじ
北伊エミリア地方のフェルラーラは、中世の城壁に囲まれた美しい街。その町の外れに孤立するかのように高い塀をめぐらせたフィンツィ・コンティーニ家の広大な屋敷があった。夏の終りの昼さがり、手にラケットを持った若い男女の一群が、コンティーニ家の大門をくぐった。コンティーニ家の娘ミコル(D・サンダ)に招かれた彼らの中にジョルジョ(L・カポリッキオ)もいた。親しみをこめて迎えてくれたミコルとの幼い頃の思い出が、ジョルジョの胸にひろがった。町の人々とは隔絶したコンティーニ家、ミコルも弟のアルベルト(H・バーガー)も町の学校にさえ通わず年に何度かの試験のときだけ、ジョルジョはミコルの可憐な容姿を胸を焦がす想いで、まぶしく見つめていたのだ。最初の出会いはユダヤ教会だった。見交わす二人の瞳には、単にユダヤ人同士の了解というより、ひそやかな初恋の想いが、こめられていた。ミコルの弟アルベルトは、病弱で繊細な神経を持ち、門から一歩も外へ出ようとはしなかったが、ただ一人ミラノ大学の先輩のマルナーテ(F・テスティ)が心の許せる親友であった。時代は、しだいにナチズムの凶悪な毒牙にかかりつつあり、ジョルジョも日ごと、身に迫る危険を感じるようになっていった。逃げるようにベネチアに旅立ったミコルと再会したのは、過越祭の夜だった。一面雪景色の、コンティーニ家の庭を駆け抜けたジョルジョは思わず、ミコルを抱きしめ、接吻した。数日後、愛を求めたジョルジョをミコルは堅く拒んだ。迫りくる悲劇を予感していたかのように……。第二次大戦に突入した今、イタリアも参戦し、マルナーテに召集がきた。彼が出征の前夜、不吉な予感に襲われたジョルジョは、コンティーニ家の庭に忍び込んだ。そしてテニス・コートわきの山小屋のベッドでマルナーテと抱き合うミコルの姿を見て、ジョルジョは絶望に打ちのめされた。すべては終ってしまった。病気で死んだアルベルトの葬列をそっと見送ったジョルジョは、喪服のミコルを見た。それが彼女を見た最後であった。マルナーテも戦死し、ユダヤ人狩りが始まった。ミコルも捕われ、拘留所の一室でジョルジョの父(R・バッリ)と会った。父は恐怖におののくミコルの肩をそっとやさしく抱いた。ジョルジョは母と妹を連れ、遠くへ逃げのびたという。しかし、ミコルたちの行くてには、ナチの収容所が、そしてガス室が待っていたのだ。光にあふれたコンティーニ家の庭。白いテニス服のミコル、アルベルト、マルナーテ、そしてジョルジョ。彼らの青春はこうして終焉を告げた。
スタッフ・キャスト
- 監督
- ビットリオ・デ・シーカ
- 脚色
- ビットリオ・ボニチェリ
- ウーゴ・ピロ
- 原作
- ジョルジョ・バッサーニ
- 撮影
- エンニオ・グァルニエリ
- 音楽
- マヌエル・デ・シーカ
- 字幕監修
- 清水俊二
受賞歴
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4.0心と身体が引き裂かれるユダヤ女性のナチスへの抵抗を描いた、デ・シーカ監督晩年の知られざる秀作
悲劇と喜劇のいづれも熟し、大衆の視点に寄り添った映画作りを知り尽くした職人的な名匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督晩年の秀作である。かつてのネオレアリズモ映画全盛時代の鋭くも情感豊かな演出タッチは、この70年代の映画にはなく、前年の大作「ひまわり」のような心を揺さぶる感動もない。ジョルジュ・バッサーニの小説「フィンツィ・コンティーニ家の庭」を脚色した物語そのものも取り立ててドラマティックで無く、デ・シーカ監督としては珍しい上流階級の描写は、同じくネオレアリズモ映画でイタリア映画界を支えたルキノ・ヴィスコンティ監督の貴族趣味の貫禄に遠く及ばない。
しかし、ここには映画作家デ・シーカ監督が長年抱いていたであろう第二次世界大戦とファシズム、そしてナチズムへの想い、その本音のようなものを青春回顧の感傷として静かに語る味わいがあり、そこが何とも言えない映画美を繊細に表現していた。名人芸の余力というものが間違いなくある。「ひまわり」が戦争で引き裂かれた恋人たちの哀切なる愛のドラマに対して、この作品は悩み多き青春期のこころと身体が引き裂かれる苦しみの青春映画となっていた。日本題名が感傷的過ぎて甘く安易なイメージのタイトルではあるが、内容を考えると合っている。
主人公はユダヤ人の青年ジョルジュ。北イタリアに住む裕福なユダヤ人一家コンティー二家の長女ミコルに好意を寄せている。北欧的な気品と何処か醒めた眼差しが美しいドミニク・サンダが演じているが、このミコルという女性がこの映画の本当の主人公である。彼女には病弱な弟アルベルトがいる。これをヘルムート・バーガーが演じてはいるが実際の年齢より大分若い設定であり、弱弱しく扮していて違和感はそれほど感じない。この美しく淑やかで気丈な姉と気弱な弟の対照的な生き方、その後の運命が物語を進める。時はユダヤ狩りが進む不穏な時代。ジョルジュは友人関係からミコルと付き合い始め二人は相思相愛のように見受けられるが、ミコルはジョルジュの要求を拒む。戸惑い悩むジョルジュ。貞淑を装うミコルだが、何故かプレイボーイの男に簡単に身体を許してしまう。これは罪深き行為ではないか。好きでもない行きずりの男と結ばれるミコルの本意は何処にあるのだろう。ユダヤ人のミコルはナチズムによって運命づけられる未来に対して、彼女なりの闘いを挑んだのだろうか。青春期の淡い初恋を想い出にするような生き方を選ばず、悪に対して身体を汚すことで立ち向かったとすると、なんと悲しい選択をしたものか。このミコルの強い精神力と覚悟には、男として言葉がでない。自暴自棄に見えて、全くそうではないところに女の怖さと想いの深さがある。この場面の前にある、夜の暗がりの中庭を歩くナイトウェア姿のミコルを部屋から見詰めるアルベルトのショットが凄くいい。結局アルベルトは家族がナチスに強制連行される前に病気で亡くなり、短い一生を終える。しかし、悲劇はこれだけではなく、彼女を純粋に愛していた温厚なユダヤ青年ジョルジョがその生々しい情事のミコルを見てしまったことだった。彼はどうにか生き延びるも、この衝撃の出来事を戦争の記憶として一生引き摺らなくてはならないのだ。ナチズムの呪縛から解放されることなく、人生を通して彼女を理解しようとするジョルジュの物語は、二重の意味で悲しく重い。
小説として読んでもこの内容なら心に刻まれるだろう。それでもミコルそのものを演じたドミニク・サンダの魅力と妖しさがあるこの映画は、より衝撃的で具体的な為理解し易いと思う。その意味で、これは映画として忘れられないし、デ・シーカ監督の落ち着いた演出と静かなタッチは作品の世界観を美しく残酷に創作していた。あまり知られていないが、デ・シーカ監督の代表作の一本に挙げたい。
1976年 12月11日 池袋文芸坐
3.5歴史的悲劇の向こう側にある青春
アカデミー外国語映画賞を獲った本作。
ムッソリーニが次第に頭角を現し、戦争に突入していく当時のイタリア。
子供の頃の精神的な愛情と肉体的行為を切り離し、大人になっていく初恋の女性。
イタリアもドイツと手を組み参戦するようになり、ユダヤ人迫害が始まっていく。
主人公ジョルジュは逃げ、ミコルは捕まってしまう。ミコルを最後に見たのが彼女の弟の葬式の姿。
監督自身の思い出を描いた作品なのかも。忘れられない青春の思い出と、歴史の1ページが重ね合わせて描かれる。
ドミニク・サンダがあまりにも薄情な女に見えてしまうかもしれないけれど。
精神的な愛と肉体的行為を切り離す気持ち、男には分かるかなー。分からないかも!?
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