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竹山ひとり旅

劇場公開日:

    解説

    津軽三味線の名人・高橋竹山の苦難の半生を中心に自ら、放浪芸人を名乗る若き日の竹山を描く。脚本・監督は「ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」の新藤兼人、撮影は「不毛地帯」の黒田清巳がそれぞれ担当。

    1977年製作/125分/日本
    原題または英題:The Life of Chikuzan: Tsugaru Shamisen Player
    配給:独立映画センター
    劇場公開日:1977年3月17日

    あらすじ

    高橋竹山。本名は定蔵で明治四十三年六月十七日生まれ。母トヨ、父定吉。定蔵は三歳の時に、麻疹をこじらせ、半失明。この年は東北地方が大兇作で、母の必死の看病もかなわなかった。定蔵は、他の子供たちと同じ様に勉強ができないため、小学校も途中で退学。十五歳になった時、行く末を心配した母により、隣村のボザマ戸田重太郎の弟子として住み込む。彼は、ボザマから三味線と唄を習った。そして、青森、秋田、北海道などをまわった。十七歳の時、独立。青森の十日町に、社会の底辺に生きる芸人や貧しさの中にも、明るく生きる人々がいた。定蔵はそこで、多くの友人を得た。定蔵は、船小屋で寝たり、山の中の小屋で寝たり三味線があるから独りでも、寂しくはなかった。そして、彼はひとりの時はかならず、三味線の練習をするのであった。こうして、定蔵の三味線は、貧しさとたたかい、生きつづけるなかで、しだいにきたえられていった。母はそんな彼の姿を見て、ひそかに、涙をながした。そのうち八戸の盲唖学校へ入学。そして、戦後の二十五年、成田雲竹の伴奏者となって、竹山の号をもらった。時に竹山四十一歳であった。

    全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

    スタッフ・キャスト

    全てのスタッフ・キャストを見る

    受賞歴

    第1回 日本アカデミー賞(1978年)

    ノミネート

    作品賞  
    監督賞新藤兼人
    脚本賞新藤兼人
    主演男優賞林隆三
    助演女優賞乙羽信子
    音楽賞林光
    技術賞黒田清巳
    詳細情報を表示

    映画レビュー

    4.0団塊世代の青春にも、左翼運動にもなんのシンパシーも感じない人であっても、高橋竹山の津軽三味線の音色、津軽の冬の光景、新藤兼人の優れた脚本と演出は、あなたを虜にすると思います 観る価値はあります

    2022年4月19日
    Androidアプリから投稿
    鑑賞方法:DVD/BD

    冒頭に株式会社ジャンジャン提携作品とでます

    ジャンジャンとは渋谷公園通りのパルコの手前にあって、20年ほど前に閉店した伝説の小劇場の事です

    70年代の中頃、ここでの高橋竹山の津軽三味線もまた、この劇場を伝説とした公演でした
    彼の公演の日には公園通りに長い行列ができたそうです

    本作はその公演の光景から始まります
    本編が始まると、その小劇場ジャンジャンの特徴的な客席と近い暗い小さなステージで高橋竹山が津軽三味線をもって身の上話を始めます

    すぐに津軽三味線が弾かれはじめ彼の生い立ちから今までの半生が語られます
    それが再現ドラマとして映像が流れはじめ気がつけばそちらが本編となっていきます

    津軽三味線とは、青森県津軽地方の盲目の旅芸人達の門付け芸のこと
    劇中にあるように、彼らは坊様(ボサマ)と呼ばれ、家々の軒先で三味線を弾き歩き、ほんの少しの米やお金を貰って歩いて生活します

    越後の瞽女(ごぜ)と似ていますが、調べてみると、瞽女の方が元祖のようです
    瞽女は盲目の女性が、門付け巡業する女旅芸人の事です
    普通は数名で組を作り巡業します

    これを参考に、明治初期頃に青森県北津軽金木町のある一人の男性が本作で描かれるような津軽三味線の坊様(ボサマ)の門付け巡業スタイルを始めたそうです

    瞽女さんの方はある程度の敬意をもって扱われていたようですが、坊様(ボサマ)の方は本作で描かれるように乞食同然に蔑まれたりしたようです

    この高橋竹山の頃から、劇中にあるように民謡の旅まわり一座などでも弾かれるようになり、竹山らの名手によって発展して、戦後民謡ブームの中、津軽三味線と名付けられ全国へ普及したそうです

    それが次第に民謡の伴奏楽器から、三味線のみの独奏としても弾かれるようになって、いつしかジャズやブルースにも通じるインプロビゼーションな奏法が、時代を越え、世界にも通用する普遍的な音楽であると評価されるようになったのです

    全国的なブームになったのは高橋竹山の渋谷ジャンジャンでの公演がきっかけだと思います

    1973年12月にジャンジャンで初公演が行われ、1995年3月までの20年以上定期公演が行われたそうです

    1974年7月27日の渋谷ジャンジャンでのライブ録音のレコードも発売されヒットします
    今でも伝説のレコードです

    同年、演奏生活50周年記念の独奏会を青森で開催。日本民謡協会から名人位を授与されます
    翌1975年には、吉川英治文化賞を受賞
    さらに自らの半生をつづった「自伝・津軽三味線ひとり旅」を刊行されます

    そしてこの自伝を原作としたのが、本作「竹山ひとり旅」というわけです
    本作は1977年に公開されました

    本作はモスクワ映画祭に出品され、監督賞、ソ連美術家同盟賞を受賞します
    この時、高橋竹山の初めての海外公演がモスクワで行われています

    1986年には、アメリカ公演も行い、ニューヨーク、ワシントン、ボルチモア、アトランタ、サンフランシスコ、ロサンゼルス、ホノルルなどでコンサートを行なっています

    ニューヨーク・タイムズ記者は彼のコンサートをこう批評しています
    「竹山氏の音の強さ、他方でそれをなだめる力量は、その芸術の成熟さと深さを、余すことなくわれわれに認識させる。氏の音楽は、まるで霊魂探知器でもあるかのように、聴衆の心の共鳴音をたぐり寄せてしまう。名匠と呼ばずして何であろう」

    さて、津軽三味線に関連した映画を時系列で並べるとこうなります

    1973年 津軽じょんから節
    1977年3月17日 竹山ひとり旅(本作)
    1977年11月19日 はなれ瞽女おりん

    1970年代の津軽三味線のブームがどれほどに大きなものであったかが、伺えると思います

    もちろん高橋竹山の津軽三味線の音色の力によるものです

    しかし、あの時代なぜ人々の心をそれほどまでに揺さぶったのでしょうか?

    それは自分には1970年代の左翼運動の退潮と関係しているように思います

    あさま山荘事件は1972年2月のこと
    この事件のあと連合赤軍事件の全容が世の中に喧伝されようになります

    テルアビブ空港乱射事件は1972年5月30日
    ドバイ日航機ハイジャック事件は1973年7月20日
    シンガポール事件は1974年1月31日
    在クウェート日本大使館占拠事件は同年2月6日
    ハーグ事件は1974年9月13日
    クアラルンプール事件は1975年8月4日
    ダッカ日航機ハイジャック事件は1977年9月28日

    これら一連のテロ事件は過激派の日本赤軍が70年代に海外で起こしたものです

    1974年8月30日の東京丸の内三菱重工ビル爆破事件と、それ以降の連続企業ビル爆破事件

    こうしたことが、この津軽三味線ブームと地下水脈でつながっているのだと思えるのです

    60年安保に敗れ、70年安保にも敗れ、学園紛争も下火となり、団塊世代は目的を見失っていたのです

    連合赤軍事件の凄惨さ、日本赤軍の海外テロ、過激派の連続ビル爆破事件

    ある程度の理解を示していた国民も、これにはドン引きで一気に左翼運動は大きく退潮していったのです

    60年代を通じて左翼運動に身も心も捧げてきた団塊世代に取って、この70年代の光景はまさに、本作に描かれたような津軽の冬のような荒涼したものであったと思います

    それが彼らを、高橋竹山の津軽三味線に惹きつけ一大ブームに押し上げたのだと思います

    では、21世紀に団塊世代よりも下の世代が、もしかしたら21世紀生まれのような若い人が、本作を観る価値と意義はあるのでしょうか?

    団塊世代の青春にも、左翼運動にもなんのシンパシーも感じない人であっても、高橋竹山の津軽三味線の音色、津軽の冬の光景、新藤兼人の優れた脚本と演出は、あなたを虜にすると思います
    観る価値はあります

    ぜひ、上記の「津軽じょんから節」、「はなれ瞽女おりん」と併せてご覧下さい

    高橋竹山の津軽三味線の音源はCD でも多数あります
    しかし上記に挙げたライブ盤は、残念ながらCD化されていないようです
    伝説の名盤なのですからCD化、配信化が望まれます

    あき240

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