曽根崎心中(1978)
劇場公開日:1978年4月29日
解説
元禄の女の自我と、商人の意地とバイタリティを描く、近松門左衛門原作の同題名小説の映画化。脚本は「肉体の悪魔」の白坂依志夫と、「大地の子守歌」の増村保造の共同執筆、監督も同作の増村保造、撮影は「春男の翔んだ空」の小林節雄がそれぞれ担当。
1978年製作/112分/日本
原題または英題:Double Suicide at Sonezaki
配給:ATG
劇場公開日:1978年4月29日
あらすじ
大阪内本町の醤油屋・平野屋久右衛門の手代・徳兵衛は、堂島新地天満屋の遊女・お初と深くいいかわしていたが、天満屋の亭主の吉兵衛とお内儀は、徳兵衛は律儀者だが、銭にならぬので深入りしないよう、事あるごとにお初に文句を言っていた。徳兵衛の正直さを見込んだ、彼の主人であり、伯父でもある久右衛門は、自分の妻の姪・おはると徳兵衛を一緒にさせようと考え、否応いわせぬために、徳兵衛の継母であるおさいを呼びつけ、銀二貫目を渡した。金にいとめのないおさいに、異存があるはずはなかった。久右衛門からこの話を聞いた徳兵衛は驚いた。母と勝手に相談して祝言をおしつけるとは、いくら旦那様でもひどすぎると、懸命に抗議する徳兵衛に、久右衛門は、新地の女郎と関り合いおはるを嫌うなら、この話を止めてもよいが、母親に渡した金を来月七日までに返す事、できない場合は、大阪から追放するという条件を持ち出した。大急ぎで田舎の母親のもとを訪れた徳兵衛は、やっとの思いでその金を取り戻した。一方、天満屋では、訪れぬ徳兵衛の事を心配し続けるお初に、好意を持たぬ客からの、身うけ話が持ち上っていた。田舎からの帰路、徳兵衛は偶然、親友の油屋九平次に出会った。青い顔をした九平次は博打に負け、自分の店を売らなければならない破目に陥っている事情を徳兵衛に話した。親友の窮状を見るに見かねた徳兵衛は、その金を、来月三日の朝までに返済するように約束し、九平次に貸した。この金が返らないと死ななければならないと念をおす徳兵衛に、必ず返すからと、九平次は証文を書いて徳兵衛に渡した。しかし、約束の三日の朝が来ても九平次は姿を現わさなかった。翌日、店を尋ねながらも九平次に会えなかった徳兵衛は、とりまきをつれて、九平次を追った。金の返済を強く要求する徳兵衛に、九平次は金を借りたおぼえもないとしらを切るのであった。徳兵衛は証文を見せるが、その証文の印は、以前に落したもので、お町衆にも改印届を出してある。九平次は逆に、落した印をひろって証文に押し、金を取る気かと、ひらきなおるのだった。激怒した徳兵衛は九平次につかみかかるが、逆に九平次に加勢した数人の連れにさんざん、なぐられてしまう。たまたま、田舎客に連れられて大阪三十三所の観音廻りをすませたお初もこの場に居会わせたが、どうすることも出来ぬままに、客に連れ去られてしまった。主人に金も返せず、衆人環視の場で恥辱を受けた以上、自害してこの不名誉を雪ぐほかはないと、こっそりと夜蔭にまぎれてお初の許を訪れた徳兵衛は、自分の決心を語る。お初もこれに同情して心中の決意を固め、ついに両人手を携えて曽根崎の森へと、向うのであった。
スタッフ・キャスト
フォトギャラリー
映画レビュー
2.5ニコちゃん大王か
3.0心中物と分かっていたけど
2.0死への欲動
人は生きることにも死ぬことにも意地が必要だ。希望を無くして死を選ぶ一方で、自らの名誉や尊厳の為に死を欲する人々がいる。
近松門左衛門の原作のこの心中物語は、色恋のために命を懸けるというよりも、名誉の為に自死を選ぶ男女を描いている。映画は、この二人の男女が、死に向かって迷わず進んでいく様子を、形式的な台詞とアクションで淡々と描いている。ここで淡々と言うのは、平板であるとか、抑揚がないということではない。二人の激しい死への欲動は、男と女それぞれの危うい立場から必然的に生じていることへの説得力が強いのだ。その説得力の強さゆえに、観客は二人が死へと近づいていく様子を、淡々と受け止めることが出来るのだろう。
騙されて名誉を失った徳兵衛への嫌疑が晴れるのは、二人が遊郭を出奔した後になる。真実を知った彼の叔父が、観客に代わって、騙した九平次を打擲するが、お初と徳兵衛の命は救われない。
いままで一直線に死へ向かっていた物語は、ここで初めて、二人を死へと追いやった周囲の人物や、社会状況へ視線を向け直すことになる。淡々とした流れが、ここで一気に逆流するのである。この逆流こそが、観客が体験する初めての葛藤ではないだろうか。ただし、この葛藤はもはやわずかな嘆息も受け入れないほどに固く大きい。だからこそ、二人の死を最後は静かに受け入れることができるではないだろうか。
人物の細々とした葛藤をあえて排した描写が、二人の死を納得できるものにしている。
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