書を捨てよ町へ出よう
劇場公開日:1971年4月24日
解説
「演劇実験室「天井桟敷」」が全国各地で百数十回以上上演した同名ドキュメンタリー・ミュージカルの映画化で原作は寺山修司の同名エッセイ集。寺山修司は昨年、16ミリ実験映画「トマトケチャップ皇帝」を作り、この作品では製作・原作・脚本・監督の四役を担当している。撮影は写真家で、映画撮影は初めての鋤田正義が当り、仙元誠三がこれを補佐している。
1971年製作/137分/日本
配給:日本ATG
劇場公開日:1971年4月24日
あらすじ
“映画の中には、何もないのだ。さあ、外の空気を吸いに出てゆきたまえ”というセリフでこの映画は始まる。主人公の「私」の名前は北村勝。しかし誰も私の名を知らない。月給二万八千円のプレス工の「私」は、ときどき人力飛行機で空を飛ぶ幻想にひたる。「私」の家族は五年前に一家そろって家出してきた。万引きぐせのあるおばあちゃん。もと陸軍上等兵、もと屋台ラーメン屋、いま無職、48歳になってもまだオナニーを止められない親父。ほとんど口をきかず、ウサギを偏愛している妹セツ。--いまは、高田馬場の家畜小舎みたいなアパートに住んでいる。「私」は、ある学校のサッカー部の「彼」を、尊敬している。「彼」は「私」のことを、一人前の男にしてやるといって、元赤線の娼婦みどりのところへ連れていった。全裸のみどりの愛撫をうけながら、妹とお医者さんごっこをしたこと、女医に乳房を押しつけられたことなど少年時代のことを想い出したが……いつのまにか、「私」は娼婦の部屋から、はだしで逃げ出していた。おばあちゃんは、隣りの部屋の金さんから、セツの、ウサギの可愛がり方が異常だといわれ、金さんにウサギを殺させる。これを知ったセツは大変なショックをうけ、家を飛び出し、一晩中表をさまよい歩いたあげく、サッカー部の脱衣所にさまよい込み「彼」をふくむ部員たちから輪姦される。セツを追ってきた「私」は、セツと「私」が兄妹だと知らない彼らから輪姦の仲間にいれてやるといわれ、口ごもりながら辞退する。おばあちゃんは養老院に入れられることを嫌って家出する。「私」は、ぐうたらな親父を立ち直らせようと思い、ラーメンの屋台車を手に入れることを「彼」に頼む。一方、もと兵隊だった親父は、最近、傷痍軍人の幻影につきまとわれている。故る日、「彼」のアパートで、「彼」と彼女が愛し合うのを見るが、二人は「私」に“三人でしよう”と誘う。しかし、「私」はどうしても彼等の世界に入り込むことができず人力飛行機や娼婦の部屋で娼婦に迫られる、幻想の世界をさまよう。「私」は、強くなりたいと思う。たとえば、彼のように! しかし、その「彼」は、セツと同棲するといいだす。「彼」が語っていた“新家族”は、どこへ消えてしまったのか……。結婚、3DK、カラーテレビ、片隅の幸福「私」は胸に怒りが溢れてきた。「彼」が手に入れた屋台車は盗品だった。「私」は刑事に手錠をかけられ、連行される。そして「私」は映画の中の「演技」の私に訣別する。
スタッフ・キャスト
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映画レビュー
3.0青二才論
4.035年前は「全く理解していないのに、分ったふり」、再度チャレンジ
目黒シネマさん「~映像の魔術師 寺山修司×ケネス・アンガー~」(2024年8月18日~21日)特集にて『書を捨てよ町へ出よう』(1971)『田園に死す』(1974)を初の劇場鑑賞。
今から35年以上の遠い遠い昔。
こまっしゃくれた私は「日本アート・シアター・ギルド(ATG)を全作制覇して、映画フリークになる!」と意気込み、当時圧倒的在庫量を誇ったレンタルビデオ店「ドラマ下北沢」さんで勇んで借りてみたものの「全く理解していないのに、分ったふり」をして半世紀近く生きながらえてきました…。
あれから35年。果たして今は完全に理解できるか?本日は再チャレンジ。
『書を捨てよ町へ出よう』(1971)
映開始直後。声は聞こえるがスクリーンは何も投影されず暗闇が続く。
しばらくして主人公が現れ、『デッドプール』でもおなじみとなった<第4の壁>を破ってわれわれ観客に直接語りかけてきます。
この時点でスクリーンに投影される【虚構】とわれわれの【現実】の壁をまずは取り払おうとしてますね。当時の観客も驚いたことでしょう。
そのあとも主人公の心象風景を表現するかのように猛烈にカメラが揺れ、シーンごとに色調も大きく変化、シャワーシーンでレンズが曇ってもカメラマンの手がでてきてレンズを拭くなど、たぶん当時の「映画のお作法」を壊して演劇との融合を図る前衛的な【大いなる実験】をしかけていましたね。
公開当時の1971年は政治の季節が終わり消費社会への過渡期、まだ戦後や因習、社会的格差、マイノリティなどの問題は今以上に深刻で、それらを題材として取り上げ、寺山修司さんにおける「父の不在と母の呪縛(母殺し)」を織り交ぜながら、夢のなかの人力飛行機で抑圧された社会から脱出を試みる鬱屈した主人公の話…というのがあらすじでしたね。
当時の時代背景と映画と演劇の融合を念頭に置いて観ると、完璧ではありませんが何となく分った感じです。
マッチョでブルジョアなサッカー部の先輩を若き平泉成さん演じているのも必見ですね。
目黒シネマさんも主人公が「劇場を明るくしてくれ」と語ると、客電が明るくなった点は凄く良かったですね。公開当日も同じような演出だったのでしょうか。
4.01970年にコカコーラ瓶の中で育ったトカゲは?
書を捨てよ町へ出よう
劇場公開日:1971年4月24日 137分
あの当時、大阪万博で好景気に沸き立ち、
学生運動も1972年あさま山荘事件で終焉を迎えた。
今日ではあの時代の鬱屈した時代に対する書を捨てよは、空虚な叫び声となり、
トカゲは大きく育ち瓶を割って出るどころか、
保育器にすっかり慣れて無機質な生物と化している。
書を捨てるのではなく、
スマホでブログを呟き。
町に出ることなくリモートやバーチャルで社会や世間と仮想に繋がって生息している。
これが映画公開から50年後の社会を寺山さんは予測できていたであろうか?
それにしても、
50年前は残酷なくらい埃っぽく不潔で、懐かしい空気だった。
^^
「演劇実験室「天井桟敷」」が全国各地で百数十回以上上演した同名ドキュメンタリー・ミュージカルの映画化
原作は寺山修司の同名エッセイ集。
寺山修司は16ミリ実験映画「トマトケチャップ皇帝」を作り、
この作品では製作・原作・脚本・監督の四役を担当している。
撮影は写真家で、映画撮影は初めての鋤田正義が当り、仙元誠三がこれを補佐している。
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