戒厳令(1973・日本)
劇場公開日:1973年7月7日
解説
昭和十一年の二・二六事件によって施行された戒厳令を背景に、陰の指導者として処刑された北一輝の独創的な思想と人間を描く。脚本は別役実、監督は「告白的女優論」の吉田喜重、撮影も同作の長谷川元吉がそれぞれ担当。
1973年製作/110分/日本
劇場公開日:1973年7月7日
あらすじ
大正十年の夏も終りに近いある日、小さな風呂敷包みを持った女が、北一輝のもとを訪れた。朝日平吾の姉と名乗る女は、風呂敷包みに入っている血染めの衣を一輝に渡した。それは、安田財閥の当主・善次郎を刺殺し、その場で自殺した平吾の着ていたものであった。平吾の遺書を読む西田税、その遺書には明きらかに、北一輝の「日本改造法案」の影響が読みとれた。一輝はその衣を、銀行へ持って行き、現われた頭取に、平吾がこの衣を自分のもとに届けた心情を語った。そんな一輝に頭取は金の入った包みを差し出した。昭和初期、陛下のため殉国捨身の奉公を願う一人の兵士がいた。「改造法案」はその兵士にとって、正にバイブルだった。彼は“ある行動”の参加を許されたが、彼に連絡がないまま、計画は失敗に終った。兵士は連絡の来なかった理由を一輝に質問した。個人テロ的革命に否定的だった一輝は、西田に命じ、この計画から陸軍側の将校を引き上げさせたのだった。「決行は5月15日だ」一輝は兵士に言った。この兵士に下された命令は、五月十五日、変電所を爆破することであった。だが、変電所に入ってはみたものの、命令を実行できなかった兵士は、妻と共に一輝の家を訪れた。失敗を詫びる兵士を前にして、一輝は自分の思想が、次第に大きく広がっていくのに恐怖に近いものを感じていた。その時、西田が撃たれた。一輝の思想の理解できぬ青年たちにとって、西田は裏切り者の一輝の身代わりであった。時代はさらに逼迫していく。満州事変以後、アジアに新しい秩序は確立されず、政党政治の腐敗堕落、巷間には失業者があふれ、暗い世相が充ち満ちていた……。さまざまな政治的矛盾を一挙に解決すべく、青年将校たちは「改造法案」に、最も忠実な、天皇の軍隊を使った日本における、最初にして最後のクーデターを計画した。雪が音もなく降りしきる、昭和十一年二月二十六日の早朝、近衛歩兵連隊約千四百名の決起によって維新は開始された。雪の首都に分散した軍隊は次ぎ次ぎと政府要人を襲撃。ついに戒厳令が布かれた……。やがて、クーデター未遂後、北一輝と西田税は、陰の指導者として処刑されたのである。
スタッフ・キャスト
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フォトギャラリー
映画レビュー
4.0これは鏡に映った左右が逆転した世界 1973年と1937年 そして2022年の熱い夏
正にATG の映画そのもの
1973年7月公開
あさま山荘事件は1972年2月末
そして連合赤軍事件の全容が明らかになった
翌1973年の元旦、首謀者の一人森恒夫は拘置所内で首吊り自殺をする
裁判がいよいよ始まろうという矢先のことだった
そんな時代背景の中で本作は製作され、公開されたのだ
北一輝を主人公に二二六事件を描いている
外形はだ
果たしてそうなのか?
彼等は昭和維新を呼号している
内容的には国家社会主義への革命を目指していた
しかし劇中にあるようにその中身は軍部単独による階級闘争・暴力革命・非合法手段・強権行使に頼った日本式の社会民主主義に近い
連合赤軍が目指した武装革命とどこが違うのか?
北一輝の屋敷には明治天皇の写真が恭しく飾られてある
スターリンの肖像画と何がちがうのか?
左右が異なるだけだ
鏡のように同じだ
「革命家とは、革命を行うもののことではなく
むしろ革命に耐えられる人間のことだ」
その台詞がもっとも心に残った
つまり革命思想の為には、平然と人を殺せるかどうかだというのだ
そしてこう続くのだ
「その時、人々は全てを許すことができるだろう」と
ラストシーンは北一輝の銃殺だ
1937年8月19日
85年後の8月19日はもうすぐくる
本作の冒頭は北一輝の思想に感化された
若者が銀行王、安田善次郎を暗殺するシーンだ
1921年9月28日に実際に起こった事件だ
史実は身元を偽り、大磯の別荘の応接間に上がりこんでの凶行だった
本作では別荘の塀に寄りかかって、散歩にでてきたところを刺殺する
十数を数えて落ち着いて犯行を行う
致命傷は咽頭部の傷という
既視感はないだろうか
2022年7月8日、遊説中の元総理を手製の散弾銃で銃撃した事件が間もなく1ヵ月が来ようとしている
奇しくもこの暗殺された元総理の咽頭部に銃弾は命中していたという
動機には思想性はないという
しかし何かにつきうごかされて、人を殺して世の中を変えようというのだ
戒厳令とは、暴動などの非常事態において、立法・司法・行政に関する事務処理を軍隊の統制下に移す処置を下す命令のこと
暗殺された元総理は、憲法改正を目指している中心的政治家でした
自衛隊を憲法に明記し、非常事態条項も盛り込むと主張されていました
結果として、この暗殺によって憲法改正は遠のいたように思えます
そして現代版の戒厳令というべき、非常事態条項もまた然りです
また思想の夏が来たのでしょうか?
今年の灼熱の猛暑のように
熱中症にかかったかのように物事を冷静に深く考えずに、人々がそれぞれが勝手に思い込んだ思想、決意、恨みに突き動かされ、その思想に邪魔ならば簡単に人の命でも排除しようとする
そんな世の中に突入したよう思えます
「いま、陛下がひどく危険なのだ
大変お苦しみになっておられる」
これは劇中のセリフだが、1973年の夏、そして2022年の現在も、これが鏡に映して左右が入れ替わりったかのように思えてならないのです
陛下を憲法に読み替えればどうだろうか?
そんな2022年の夏です
3.0観念的なモノクローム
別役実さん脚本で、三国連太郎主演。某動画サイトで「北一輝の視点から二・二六事件を描いた近代史劇」とあり、どんなんだろうと興味しんしんで観賞しました。最近になって、多少、二・二六事件に興味を持った自分ですが、この映画、哲学者の問答のようなものが延々と続き、肝心の?二・二六事件と北一輝の関連性のようなものは具体的に描かれておらず、全体の不協和音にドキドキしながらも、多少、置いてけぼりになりました。このあたりの時代に興味のない方などが観ると退屈でたまらないかもしれません。
北一輝といえば、有名な『日本改造法案大綱』。読んだことはないけれども、これは二・二六事件を蹶起した青年将校たちのバイブルであり、昭和維新の聖典でもあったらしい。<天皇に革命を迫る>? 左翼のような右翼革命人だったのか? 映画を観れば、もう少し何か見えてくるとは思いましたが、青年将校たちとのつながりはあまり見えず。ただ、北一輝が独自の思想をもって内なる革命を起こしたいというのが強調されていたような気がします。「革命家とはむしろ革命に耐えられる人間のこと」と息子に言い聞かすのも印象的ですが、二・二六の実行部隊とは無関係でいつも自分の身を安全なところに置いておきたい(責任逃れ)という弱い面も描かれていたり。北一輝の書物を一度、読んでみたい気にもなりました。
ラスト。「天皇陛下万歳を唱えますか」の問いに、「私は死ぬ前に冗談を言わないことにしている」という台詞が印象的。
備忘録
1921(大正10)朝日平吾により安田善次郎が刺殺(平吾は自害)
1932(昭和7)五・一五事件
1936(昭和11)二・二六事件
1936(昭和11)7月 二・二六事件の青年将校ら15人、処刑
1937(昭和12)8月 4人、処刑(北、村中、磯部、西田)北一輝54才
二・二六事件を扱った昭和のモノクロ映画で面白かったのは、『二・二六事件 脱出』(1962)です。ハラハラドキドキの救出劇です。
2.0舞台劇風
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