男はつらいよ 寅次郎恋歌
劇場公開日:1971年11月20日
解説
昭和四十九年九月に登場して以来、松竹のドル箱的存在となった「男はつらいよ」シリーズ八作目。なお今回は二時間という大作となり、寅さんの八人目の恋人として池内淳子が出演する。脚本は朝間義隆と山田洋次。監督、撮影は前作「男はつらいよ 奮闘篇」同様、山田洋次と高羽哲夫がそれぞれ担当。
1971年製作/114分/日本
原題または英題:Tora-san's Love Call
配給:松竹
劇場公開日:1971年11月20日
あらすじ
例によって車寅次郎は半年ぶりで故郷柴又へ帰ってきた。一同は歓迎したつもりだったが、些細な言葉のゆき違いから竜造やつねと喧嘩となり、又もや旅にでることになった。寅が去って静かになったある日、博の母が危篤という電報が入り、光男を竜造夫婦に託した博とさくらは岡山へ急いだ。博の父の[風票]一郎は元大学教授で、研究一筋に生きてきた学者だった。葬式の日、驚ろいたことに寅がヒョッコリ現われた。柴又に電話したことから、葬式のことを知り、近くまできていたから寄ったという。しかし、旅先とはいえ、派手なチェックの背広姿である。さくらは近所の人から借りたダブダブのモーニングを寅に着せ、葬儀に参列させるが、トンチンカンなことばかりやってその場をしらけさせてしまう。岡山で生涯生活するという[風票]一郎を一人残して毅、修、博の兄弟は去っていくが、[風票]一郎の淋しい生活に同情した寅は一度は去った諏訪家に戻ってくる。[風票]一郎も、自分のこれまでの人生をふりかえって、人間らしい生活をするよう寅に語った。秋も深まった頃、柴又「とらや」で皆が集まって寅の噂をしているところに、題経寺山門の近くに最近開店したコーヒー店の女主人六波羅貴子が挨拶に来た。この美人を見て一同は身震いした。もしこの場に寅が居合わせたらどうなることか、と考えたからである。しかも、何たる不幸か、寅はその日帰ってきたのである。みんなの予感は摘中し、寅は貴子に身も心も奪われて、そのまま柴又に滞在する仕儀と相成った。貴子には、学という小学校四年になる男の子があった。学は自閉症的な性格のうえに、新しい学校にも馴染めず、貴子も心を痛めていた。しかし、学は寅にすっかりなつき、明るく元気になった。貴子は寅に感謝した。そして寅の、貴子に対する思慕はますます高まり、三人一緒に生活する夢まで見るようになった。その頃、さくらや竜造たちは、寅がいつ又失恋することかとハラハラ見守っていた。みんなが、そろそろ二枚目が現われて例によって失恋する時分だと話しているところに寅が帰ってきて、旅に出るために荷物をまとめだした。寅は、心配するさくらに「いくら馬鹿な俺だって潮時ってものを考えてるよ」といい残すとどこへともなく旅だっていった。
スタッフ・キャスト
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4.5寅次郎、無力の恋
3.0柏にかつてあった映画館で、封切りで鑑賞した。
千葉県の福田村の隣の田中村にかつてあった映画館で封切りで鑑賞した。
一つのテーマに絞れば、良い映画になるのにと思った映画だが、当時の僕はこの映画の影響で修学旅行のオプションで吉備路に行き、レンターサイクルを使って、岡山まで旅行した事を思い出す。関東の人なら、岡山なら後楽園なのだろうが、僕は後楽園へは、『日ハム対南海』の試合を見に行っただけ。
池内さんや志村さんの逸話だけをとれば、松竹映画の先輩に当たる小津安二郎監督を非常に意識していると思う。
但し、家族団らんの場面を撮る時は、出来るだけ全員をフレームの中に入れ、ワンカット風に撮っている。ある意味に於いて小津安二郎監督に対するオマージュなのかもしれないが、ご本人はコンプレックスを持っていらっしゃる気がする。
『全員』と言う『言葉』で思い出したが、併映が『ドリフ映画』だと思い出した(NETで調べて)。でも、ドリフ映画は東宝のはず。
僕が初めて見たドリフ映画は『ドリフですよ。前進前進また前進』だ。大原麗子さんが出ていた事が脳裏に焼き付いている。
その時の併映が『ゴジラの息子』で、別の柏の映画館へ一人で見に行ったが、人の列に紛れ混んで、ただで鑑賞した記憶がある。その映画館はとっくの昔に閉館してしまっているので『ニュー・シネマ・パラダイス』だが。
4.5【”人間は絶対に一人では生きていけない。”昭和の名優志村喬演じる博の父が妻を亡くした後にしみじみと語る名台詞に影響を受けた寅さんが、柴又で喫茶店を営むシングルマザーへの淡い恋を描いた逸品。】
■博の母親の葬儀に寅次郎が現れ、博の父(志村喬)に同情した彼は、博やさくらを東京に帰し、岡山に残る。
その後、柴又では開店したばかりのコーヒー店の主人・貴子(池内淳子)がとらやを訪れるが、そこにばったり寅次郎が帰って来る。
◆感想
・今作は、昭和の名優志村喬の訥々とした”本来の人間の生活”について語る名台詞を軸に構成された逸品である。
・その言葉を聞いた寅さんが、柴又に帰りシングルマザーの喫茶店を開いたばかりの貴子に心惹かれながらも、彼女の内気な小学三年の息子に友達を得させるために行った事で友達が出来、土手で遊ぶシーンや、貴子が息子に友達が出来、嬉しさを隠しきれないシーンなど、彼女を気遣う姿が心に響く作品である。
・通夜の席で、博が亡き母を想う涙ぐみながらの台詞も沁みる。
<今作は、シリーズ初めての長尺作品であるが、決して冗長になる事は無く、逆に岡本茉莉演じる大空小百合が所属する旅一座が初登場したり、おいちゃん役の森川信の残念ながら最後の出演作で有ったり、寅さんシリーズの大きな変化点になった逸品である。>
5.0是非本作と第32作をセットでご覧下さい
第8作 男はつらいよ 寅次郎恋歌
1971年年末公開
寅さんが結婚して家庭を持ちたくなるというお話です
博の母の葬儀をきっかけにして、大学を定年退職後、郷里の岡山県は備中高梁のお屋敷に1人で孤独に暮らす博の父と寅さんの交流が始まります
10年ほど前、安曇野の庭一杯にりんどうが咲く一軒家の農家の開け放した縁側から明かりのついた茶の間で食事をしているのが見えたとき、これが本当の人間の生活というものかと涙した
その思い出をしみじみと語る博の父の言葉に寅さんはいたく感化されてしまいます
人間は絶対に一人では生きてはいけない
逆らってはいかん
人間は人間の運命に逆らってはいかん
そこに早く気がつかないと不幸な一生を送ることになる
志村喬だからこその説得力を持つ名シーンでした
それで寅さんは結婚して家庭を持ちたくなったのです
今回のマドンナは池内淳子
出演時38歳
上品で清楚で着物姿が美しい
広くて形のよい丸い額が高い知性を感じさせます
なのに色気が匂い立っているのです
そしてその額の下の大きな目が見つめて話すその言葉遣いが姿形と同じほどに美しいのです
でもイントネーションは江戸っ子だとわかるものです
柴又にはいないタイプ
あの御前様でさえすれ違った際に、つい二度見してしまうほど
池内淳子は長い芸歴でその演技は群を抜いた安定感があります
この当時はテレビ女優ナンバーワンで、出演すれば高視聴率間違いなしと言われたのも当然だと思えます
この彼女が帝釈天の脇に新しくできた喫茶店のママさん役
しかもお誂え向きに未亡人
小学3年生の男の子がいますが、寅さんにすぐなついてしまう
もう展開がいつも通りと分かってしまいます
結局、寅さんから身を引く形で旅にでて終わります
冒頭の惨めな旅の一座とのパートは、貴子が昔から旅の一座になりたかったことを寅さんが聞いて我に返る為にあった訳です
こんな俺や旅の一座のような人間の運命にこの人を引きずり込んではいけない
だってりんどうの花言葉は「誠実」なんです
彼女を自分のような稼業の世界に引き込んではいけない
自分の欲望の為に女性を不幸にはできない、それが寅さんの誠実なんです
これが俺の人間の運命なんだ
これに逆らってはいけない
不幸な一生にこの人もなってしまう
そんなことはできないんだという思いを噛みしめながら、寅さんは秋晴れの朝日を浴びています
寅さんが昨晩泊めてもらった農家は婆さんの独り住まいのようです
きっと、寅さんはりんどうが庭一杯に咲いて開け放した縁側から見える明々とした茶の間で子供たちと食卓を囲む一軒家の農家はないものかと探していたに違いありません
でもいくら探しても見つからずここに泊めてもらったのでしょう
りんどうは一本もない畑の中の一軒家です
まあ俺はやっぱりこういう運命なんだよなあと諦めの顔で朝日を見上げています
そこに冒頭の旅の一座が通りかかって再会をよろこび、トラックの荷台に載せてもらって一緒に今晩の宿をとるようです
一座もなんとか巡業を続けているようだ、俺も身ひとつでなんとか生きていけらあ
「ね、先生、これが寅次郎って人間の運命なんですよ」
「人間は人間の運命って奴に逆らっちゃあ、いけないんでしょ、先生」
そんな寅さんの心の声が聞こえてきます
そこでエンドマークとなり映画は終わります
ところがこのお話、続きがあります
それは1983年の第32作「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」です
本作からから12年後の超ロングパスになります
舞台は今回と同じ備中高梁
あれから博の父はどうなったのか
それが語られます
本作でチラリと写った白神食品店がその作品では主要人物の家として登場したり、本作では博の母の通夜と葬儀をした屋敷も登場します
踏切近くの小川に架かる小さな石橋もドラマチックなシーンの舞台になります
その作品で寅さんはまたも人間の運命について考えるのです
今度はりんどうの咲く農家の食卓ではなく、取り込み忘れた家族の洗濯物の形となって、寅さんに人間の運命についてもう一度考えさせるのです
この第32作で、自分には本作の物語がやっと完全に閉じられたと実感する事ができました
是非本作と第32作をセットでご覧下さい
タイトルの寅次郎恋歌とは?
終盤の寅次郎のハガキの事だと思います
汚い字でハガキ一杯に書いてありました
寅さんに学があったなら、きっと「りんどうの‥…」てな感じの和歌を書いて送ってたんだろうと言うことだと思います
自分も学がないので探してみたらこんなのがありました
「りんだうの 花とも人を 見てしかな かれやははつる 霜がくれつつ」
和泉式部
(あの人を)りんどうの花であると見たいものです
りんどうは霜が降りても枯れはしないのですから
寅さんがハガキに書きたかったのはこういうことだったと思います
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