エロス+虐殺
劇場公開日:1970年3月14日

解説
「さらば夏の光」に引き続き、山田正弘と吉田喜重が脚本を共同執筆し、吉田喜重が監督した愛と憎しみの人間ドラマ。現代音楽の一柳慧が担当。
1970年製作/167分/日本
配給:ATG
劇場公開日:1970年3月14日
あらすじ
一人の若い女性に束帯永子のインタビューが続く「大正十二年関東大震災のさなかに大杉栄と共に虐殺された伊藤野枝、その忘れ形見、魔子さんですね」だが若い女は首を振って答えなかった。(一九六九年三月三日)ホテルのベッドに裸で横たわる永子に畝間が愛撫をくりかえすが、永子の眼は醒めきっている。(大正五年春三月)風に舞う桜の花びらの中を、大杉栄と伊藤野枝が歩いている。二人の肩に散る桜の花は、大杉には同志幸徳秋水らが殺された暗く冷たい春を、野枝には青鞜の運動に感動し、故郷をあとにして新橋駅に降りたった十八歳の春を想い起させた。辻潤をたよって上京した野枝は青鞜社に平賀明子を訪ね、編集部員として採用された。そこで正岡逸子に会った。(一九六九年三月七日)畝間のスタジオ。マッチを丹念に燃やしている和田に「私に火をつけられる……」と永子はたずねた。刑事が訪れ、永子を売春容疑で訊問した。(大正五年二月十一日)辻潤は婦人解放にはげむ野枝の行動力を高く評価しながらも、育児ひとつ出来ない野枝に、不満を抱いていた。社会主義運動が行き詰ったこの時代、大杉はそれをつき抜けるものとして、恋愛を考えていた。妻保子があり、東日の女流記者正岡逸子にうつつをぬかし、そのうえ野枝との恋愛関係。同志たちは口をそろえて悲難した。(大正五年三月末)大杉は、正岡逸子に野枝と恋愛関係にあることを報告。「僕たちの恋愛も平等と自由の獲得のうえで生きる」と大杉の態度を責める逸子に大杉は言った。(一九六九年三月三十一日)永子は刑事に自分が売春を仲介したことを話した。それは私を容疑者にして、私に目的をくれたからだと、いうのである。(大正五年四月某日)野枝の心は辻への執着と大杉との新しい恋に引きさかれていた。野枝の義妹千代子は辻に同情していた。野枝はある日、義妹千代子と辻が抱き合っているのを見てしまった。野枝は口惜しさと安堵が入り混った奇妙で平静な感情の中にいた。辻とも大杉とも別れて一人で考えようと思いたった野枝だが、逸子は二人から自由になって、自活することなど出来ないときめつけた。(一九六九年四月一日)和田は永子に別れようと話しかける。和田は一冊の本を読み出した。「内由魯庵、思い出す人々、最後の大杉」大杉と野枝の虐殺された場面が浮かびあがってゆく。(大正五年十一月六日)野枝は大杉に従い、葉山海岸に近い日蔭の茶屋に入った。大杉を疑っていた逸子がその夜訪れた。大杉にとって、逸子と野枝は今や、かつて熱情に燃えた同志としての関係よりも、異性としての関係の方がまさり、習俗的なものになりかかっていた。
スタッフ・キャスト
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フォトギャラリー
映画レビュー
2.5価値観は移り変わる
3.5美はただ乱調にある。はずなのだが…
公開当時のフィルム・ヴァージョン。
DVDのロング・バージョンと比べて、尺も随分とコンパクトとなり、テンポも幾分はアッパーになり、タイトで観やすくなるか?という淡い期待は…
全く甘かった。
ちょっと、というか、やはり、というべきか、かなりの冗長に変わり無し。
そもそも、大杉栄も伊藤野枝も相当にアッパーな人たちだったはず。
なんてったって「美はただ乱調にある」なんだから、大正時代のシークエンスこそ、ロックでパンクな疾走感だったと思うけど。
現代の方のシークエンスで使われていた最高に超イケてる!エイプリルフール(当時の彼らをフックアップしたセンスも凄い)のブルージーでサイケデリックなロックを、大正時代の方に、あえて当てた方が面白かったと思うが。
一柳慧の音楽も、結構よかったのだが、センチメンタルなテーマ曲は、なんだかなあ。
あれはあれでレクイエムということ?
こればっかりは好みかの問題か。
まあ、とにかく痴情の絡れに尺を取りすぎ。
なんで、甘粕事件より前の日蔭茶屋事件を後半のクライマックスにしちゃうかなあ。
「エロス+虐殺」なのに、虐殺を観念的に舞台演劇的に表現するだけでは、全く物足りない。
(野枝の夢想で、大杉が数人の刺客たちに現代の幹線道路のような空間で襲われるシーンは、虐殺というほど殺伐としたイメージがない)
別に激しい拷問シーンは必要ないとは思うが、
昔から取り沙汰されていた陸軍による陰謀論をカスリもしないのは、やっぱり物足りない。
子供まで容赦なく虫ケラのように殺してしまう当時の軍組織の異常性を全く取り上げなかったのは何故?
とはいえ、やはり今回も映像のセンスは只事ではない。
あの日蔭茶屋事件でのクライマックスで見せる岡田茉莉子のローアングルからのアップ!
間違いなく映画史上、最高峰の名ショット。
あれだけでも本作を見る価値がある。
当時のカウンター・カルチャーにとって大きなファクターだったセックスの革命(セックスの解放)と大杉栄の自由恋愛論を交差させ、近代日本の男と女(あるいは国家?)の「支配/被支配」の問題を取り上げるというアイデアは、確かに当時としては、世界レヴェルで高揚していた時代の潮流(パリ五月革命からの反体制派の共同幻想)とエンゲージして、かなり挑発的だったと思う。
当時、アヴィニョン映画祭では、オリジナル版(3時間45分!)が上映され、フランス人にとって、相当に難解だったはず(大杉栄と関係者たちのトリビアなネタが多すぎる!)なのだが、観客たちは帰ることなく(シネマテーク・フランセーズのアンリ・ラングロワも含んで)字幕付きの日本映画を観続けた。
終映後の深夜1時半から始まった討論はなかなか終わらず、翌日の朝に再び、その討論は続けられたという。
本当に、この年の吉田喜重は尋常でない。
この半年後に『煉獄エロイカ』の公開なんて、本当に凄すぎる。
3.0日本には珍しき実験映画。
4.5前衛にして古典
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