いのちぼうにふろう
劇場公開日:1971年9月11日
解説
昭和四十四年七月、黒澤明、木下恵介、市川崑監督と「四騎の会」を結成した小林監督がならず者の世界に材を得て放つ時代劇。山本周五郎原作『深川安楽亭』の映画化。脚本は仲代達矢夫人で女優の宮崎恭子が隆巴(りゅう・ともえ)のペンネームで執筆。監督は「怪談」の小林正樹、撮影は「無頼漢」の岡崎宏三がそれぞれ担当。1971年10月16日全国公開。第45回キネマ旬報ベスト・テン第5位。
1971年製作/121分/日本
原題または英題:Inn of Evil
配給:東宝
劇場公開日:1971年9月11日
あらすじ
その「島」は四方を堀に囲まれていた。その千坪ばかりの荒れ地は「島」と呼ばれ、島と街を結ぶ唯一の道は深川吉永町にかかっている橋だけである。安楽亭は、その島にぽつんと建っていて、ここには一膳飯屋をしている幾造、おみつ父娘に定七、与兵衛、政次、文太、由之助、仙吉、源三が抜荷の仕事をしながら住んでいた。安楽亭は悪の吹き留りであり、彼らは世間ではまともに生きることのできない無頼漢だ。一つ屋根の下に寄り集りながら他人には無関心であり、愛情に飢えながらその情さえ信じない。ある日、男たちに灘屋の小平から抜荷の仕事が持ち込まれた。和蘭陀や唐から禁制品を積んだ船が中川へ入る。定七らが小舟で抜荷した品物は安楽亭に隠匿し灘屋が客に応じて運びだす。だが定七は小平に疑惑を抱いていた。前回の仕事で小平が手引した時、仲間が二人殺されている。しかも、新任の八丁堀同心岡島と金子が安楽亭探索に血眼だ。そんな時、定七と与兵衛は街で無銭飲食の果て袋叩きにあっていた質屋の奉公人富次郎を助けてきた。富次郎は幼馴染みのおきわと夫婦になろうとしていた。ところが、おきわの母親が急死すると、怠け者の父親は娘を女衒の権六に十二両で売りとばしてしまった。思いあまった富次郎は店の金を盗み、おきわを捜し廻ったが目的の果たさぬうち持ち金を使ってしまったという。数日後、与兵衛がおきわの無事を知らせてきたが、身代金として二十両いる。富次郎は、命を捨てても自分の力でおきわを助け出そうとした。安楽亭の無頼漢たちは、自分が人助けをする柄でないと思う。しかし、抜荷は自分たちがやらなくても誰かが運ぶだろう。が、おきわは彼らが助けなければ救い手がない。安楽亭の荒らくれたちは自分たちにはなかった夢を若者に託し、その愛を実らせようと、身の危険を冒して灘屋小平からの話を引受けた。しかし、彼らの行動を知っていたかのように、十三夜の月が川面を照らす中を抜荷を積んで安楽亭を目指す二艘の小舟を、捕手の群れが待ち受けていた。一方、以前この無法地帯にぶらりと入ってきて、住みついた男が富次郎に二十両を手渡した。昔、木場の材木屋にいたその男は、帳場に穴をあけて追われ、五年ぶりに江戸に帰ったが、その間妻子は生活苦で死んでいた。金のために妻子を殺した男は金を呪った。一方定七は満身に傷を負い一人捕手の群れを逃れて安楽亭にたどりついたが、それを追うように御用提灯の波が島を包囲した。
スタッフ・キャスト
映画レビュー
4.0深川梁山泊
DVDを持っているのだが、映画館で観られる機会もなかなかないと思い…。
相模川の中州に建てたという安楽亭のオープンセットが実質主役と言っていい。川の水が溢れてきたり、周りの葦が駄目になったり、いろいろ大変だったらしいが、抜け荷稼業のならず者たちの巣窟のイメージを見事に現出していた。
仲代達矢は小林正樹監督作全22本のうち10本に出演しているそうで、長きに渡る俳優生活の中で自身の代表作は「切腹」だと公言している(私の日本映画ベスト1でもある)。実年齢より20歳上の浪人を演じた同作に比べると、この映画の役はずっとギラギラしている。小林監督のフィルモグラフィーで言えば、「黒い河」の“人斬りジョー”に近い。ハードボイルドなのだが、溺れた雀を助けたり、転がり込んできた奉公人に憐憫の情を見せたりする面もある。そこが弱みでもある。
舞台がほぼ安楽亭とその周辺に限られているため(なので舞台化もされている)、若干閉塞感がある。「切腹」の護持院ヶ原の決闘のようなスペクタクル場面に欠けるのが惜しい。
この頃の栗原小巻の美しさは際立っている。監督もわざわざ「栗原さん、ほんとうにきれいでしたねえ」と述懐している。
4.5無名塾の『いのちぼうにふろう物語』を観て
能登演劇堂での公演を観る前に予習の意味で映画版を鑑賞。もちろん生の演劇に圧倒され、涙が止まらなかったのですが、劇が訴えてくる生きることの意味を痛感し、仲代達矢と故宮崎恭子の愛した脚本という意味もわかる。
舞台では安楽亭の親方を89才の仲代達矢が演じていたが、1971年の映画では中村翫右衛門が演じている。女嫌いで無法者の定七を仲代が演じている。両者とも迫力があり、後半に語られる母親のエピソードが富次郎の許嫁でもあったおきわに被って見えてくるのです。父親に吉原へ売り飛ばされるという不幸が目に見えるようでもあり、定七と与兵衛の男気が感じられる瞬間。命を賭してまでおきわを思う心が彼らに心の変化を与えたのだ。
公権力が強くなれば強くなるほど密輸業者が生まれてくる。いつの世も悪政に悩まされ、泣くことになるのは庶民だ。腕っ節が強い者がそうした無法者になる道理もわかるし、長いものに巻かれる八丁堀としても板挟みとなって無難に過ごそうとするものだ。
傷ついた雀もまた富次郎とおきわの姿を見ているようで、心が大きく動いた定七。自分の作った地蔵によって日にちを知るおみつの心も泣けてくる。クライマックスの描き方は舞台版が圧倒的だったため、つい映画の方の評価も下がってくるが、かなりリスペクトに富んでいるのも確かなこと。二人の未来に安堵するものの、恨めしくも感じられるおみつの気持ちにも心打たれてしまった。
尚、舞台では灘屋の手引きをするのがお京という女性で、定七に結婚を迫るというエピソードもいい改良点だったと思う・・・原作は知らないけど。
5.0十三夜
そうそうたるメンバーが出演していて、楽しめた
仲代達矢が定七という 一番尖っていてキレそうな中心人物を演じている
獣のように勘も鋭い
遊び人風の与兵衛を演じた佐藤慶が 何となく色っぽかった
彼等が安楽亭で暫し和み その閉塞空間でのモチベーションが小雀や富次郎を助けることになってゆく処も面白かった
巨悪を知ってしまった自分達には未来がないかも…と薄々思っているような処も
同心金子(神山繁)が〈とかげのシッポ切り〉で済ませようと〈多勢に無勢な戦い〉を仕掛け
最後に前面にしゃしゃり出て来る処にも慢心が見える
安楽亭の造作(美術)や 葦原と水の風景
十三夜に底辺を思わせる船着き場から ゆっくり漕ぎだしてゆく舟と彼等の立ち向かうような姿、そしていちめんの薄(すすき)が美しかった
武満徹の音楽もよかったです
日本人の美意識のようなものも感じられました
5.0窮鳥懐に入れば、我ら命を賭して・・(人情渡世)
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