劇場公開日:1956年3月18日
解説・あらすじ
売春防止法施行直前の吉原を舞台に女たちの生き様を描き、巨匠・溝口健二の遺作となった傑作群像劇。芝木好子の短編小説「洲崎の女」を物語の一部に取り入れ、「新・平家物語」の成沢昌茂が脚本を手がけた。国会で売春防止法案が審議されている頃、吉原にある特殊飲食店「夢の里」には、それぞれの事情から身体を売る女たちの姿があった。普通の主婦に憧れるより江は客と結婚するが、夫婦生活が破綻し店に戻ってくる。ひとり息子のために働くゆめ子は、息子に自分の仕事を否定され発狂してしまう。客を騙して金を貯めているやすみは、自分に貢ぐため横領した客に殺されそうになる。
1956年製作/85分/日本
配給:大映
劇場公開日:1956年3月18日
スタッフ・キャスト
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2019年11月22日
映画レビュー
4.5吉原の夢
溝口健二監督作品。
傑作です。私は「はじめて」群像劇をみたのかもしれない。
吉原にある特殊飲食店「夢の里」で娼婦として生きる彼女たち。
娼婦と言えば、いまだステレオタイプな眼差しを向けられてしまう。
それは彼女らを性商品としてみる眼差しでもあるだろう。「売春」とは男と女が損得勘定で身体と金銭を交換する行為である。つまりその交換が行えれば、それ以上でもそれ以下でもない。それは後腐れのない関係とも言えるが、極めて冷たく乾いた関係である。
だけど彼女らが金銭を得る目的は多様である。貧乏と言っても、田舎で仕事がなかったから、夫が病障害を患ったから、子どもを育てるため、親との因縁があるからとそれぞれの事情がある。もちろん自堕落で金遣いが荒いからというものもある。ミッチーのように。だけど彼女らをみていると、私たちとどれだけの違いがあるのか分からない。私たちにも生活の事情があって、欲望を持ちエゴイズムに傾く行動をしているはずである。
つまり彼女らも「人間」なのである。そして本作では「売春」という冷たく乾いた行為から、逆説的に吉原という地縁の中で生きる「人間」を描いているのである。それも主人公ひとりでは描けない「娼婦として生きること」の多層性を群像劇という手法を使って巧みに物語っているのである。
彼女らの顛末は悲喜劇の両側面を持つ。
吉原から逃げるも、戻ってきてしまう、戻らざるを得ないこと。彼女の献身が翻って子との同居が実現しないこと。夫は自殺未遂を果たし、経済的困窮から脱せないこと。夢の霧散。ゆめ子が精神に異常をきたし、夢の中に閉じ込められるのは悲壮だ。だがやすみだけは違う。売春関係から家族関係になるよう迫られた客を騙し金銭を得て、トラブルになって殺されかけても懸命に生きる。売春業から手を洗い、貸布団屋の事業をするのは夢の実現だ。
このように彼女らの顛末を多面的に描くことで、吉原での夢が夢であり続けることができる。成功する者も失敗する者もいる。そしてそれは吉原の世界に留まらず、どこの世界でも同じ普遍的なことであろう。
このように言えるのも吉原という舞台の描き方が巧みだからであろう。
吉原を単なる男と女が「売春」をする夢の世界とは描かない。むしろ売春防止法という政治的な情勢が大きく影響する重力を持つ場所として描かれている。だから登場人物の心や生活の葛藤と解消にまつわる物語のみではなくもっと普遍的なことが物語られているのである。
やすみが夢を実現したことで下働きのしず子が代わりとなる。着物姿で化粧を施される彼女。吉原の夢がまた繰り返される。
5.0好きな邦画ベスト1
3.5【様々な事情で多額の借金を抱え、娼婦になった女たちの夫々の生き様を描いた何とも切ない群像劇である。】
■売春防止法が施行される直前の吉原。
赤線地帯にあるサロン「夢の里」には、父の保釈金のために働くやすみ(若尾文子)、失業中の夫を抱えたハナエ(木暮実千代)など、さまざまな事情から体を売る女たちがいた。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・ハナエの身体を悪くした夫は、赤子を抱えながら生活しているが、ある日自殺未遂を起こす。
・やすみは巧みに客の男達から金を巻き上げ、一度は殺されつつも貸布団屋の女主人になる。
■一番可哀想だったシーン
・息子と暮らすことを夢見ていたゆめ子(三益愛子)が、息子から自身の仕事を否定され、発狂するシーン。
<赤線地帯で働く女性たちの様々な生きざまを描いた、巨匠・溝口健二監督の遺作。
けれど、今作はちょっと見ているとキツカッタナア。>
3.5赤線があった当時を知るのにいい
赤線のイメージは、江戸時代の吉原物の延長のように思っていたが、この映画を見て改めることができた。花魁とは違って、何とか生き抜こうとする普通の女たちの物語だった。
汚職で逮捕された父の保釈金を払うために身を落としたやす子(若尾文子)、親への反発で黒人兵を相手してパンパンガールになっていたミッキー(京マチ子)、旦那に死なれ、貧乏な祖祖父母、一人息子の修一のために働くゆめ子(三益愛子)、病弱で失業した夫と赤ん坊を養うために通いで働くハナエ(木暮美千代)、売春防止法によって借金がチャラになると聞き、思いを寄せていた男に身を寄せるより子(町田博子)。
売春防止法が成立、施行されれば、明日から体を売ることができなくなり、他に稼ぐ手立てがない女たち。事業主の「ゆめの里」の夫婦は、人助けと思ってやっているんだよって欺瞞を吐く。彼女らは、生き抜くため、金を稼ぐために、道行く人に黄色い声で客引きし、愛想や毒を振りまき、逞しく生きている。客に見せる姿と現実のギャップが凄かった。
前半は、主に店の様子が描かれ、それぞれの女のキャラクターや羽振りなどを扱っている。それが後半になると、各個人の事情にフォーカスして、その問題や末路が描かれていた。メリヤス屋のにこにこ堂の主人や支配人に色目を使って貢がせていたが、所帯をもち足抜するために金が必要と支配人に持ち掛け、首を絞め殺されかけるやす子。噂が聞こえていき、家の評判に傷がつくといって引き取りに来た父に対して、母に苦労ばっかりさせてと邪険に返すミッキー。田舎まで母の噂が聞こえていき、いたたまれなくなって都会に飛び出してきた息子に縁を切ると言われ狂ってコンクリート製の精神病院に入れられるゆめ子。家賃が払えず赤子を連れて行く当てもない夫をなだめ、事業主に借金をお願いしようとするハナエ。身を寄せた男の家で、奴隷のようにこき使われて「夢の里」へ戻ってくるより子。
多くは夫や家族の犠牲となって、最後の手段として「夢の里」に流れてきたのだ。とかく汚らわしい商売とみられるが、それぞれの事情は切実。唯一汚い方法で男から金を巻き上げたやす子だけが、つぶれた「にこにこ堂」の後釜に収まって、店を切り盛りし始める。男で身をやつしたのだから、男からむしりとってもいいという論理か。特別なコネや運がない限りは、汚い手を使わないと這い上がれないっていうことか。
「赤線」の人間模様を描きながら、当時の社会が抱える男尊女卑、女性の置かれた立場、男に頼らずに生きる大変さが等が描かれていた。
今の日本、豊かになると同時に、性の産業の有り方も随分と変わってしまった。性が軽く売られるようになったのを、どう考えたらいいのか?難しい。
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