王と鳥
劇場公開日:2006年7月29日
解説・あらすじ
宮崎駿監督や高畑勲監督も多大な影響を受けたというフランス初の長編アニメーション映画「やぶにらみの暴君」を、ポール・グリモー監督自身が20年以上の歳月をかけて改作。孤独な暴君シャルル16世が治めるタキカルディ王国。王が住む宮殿の最上階には、3枚の絵が飾られていた。美しい羊飼いの娘と煙突掃除の青年、そして王の肖像画。愛し合う娘と青年は、仲を引き裂こうとする王から逃げるため、ある晩絵の中から脱け出すが……。
1980年製作/87分/フランス
原題または英題:Le Roi et L'Ouiseau
配給:クロックワークス
劇場公開日:2006年7月29日
スタッフ・声優・キャスト
- 監督
- ポール・グリモー
- 原作
- ハンス・クリスチャン・アンデルセン
- 撮影
- ジェラール・ソワラン
- 音楽
- ボイチェフ・キラール
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映画レビュー
5.0タイトルなし(ネタバレ)
遠近感がしっかりした立体的な3D空間を二次元のセル画で表している。凄いアニメだと思う。
カリオストロの城への影響はさることながら、手塚治虫さんのある街角の物語にも影響を与えていると思う。旧題で名作と聞いていたが、見るのは始めて、改題されて日本で上映されていた事を知らなかったのは大変にはずかいし事だ。傑作だと思う。
4.5王でも鳥でもない人々
レトリカルな米製カートゥーンに気品ある仏製アイロニーをうまく混ぜ合わせるとこういう傑作が生まれるんだな。これが『ファンタスティック・プラネット』や『ベルヴィル・ランデヴー』に繋がっていくんだろう。
独裁を敷く王と、それを憎む鳥。とはいえこれを王に表象される「支配」vs鳥に表象される「自由」という単純な階級闘争として捉えようとすると痛い目を見る。
鳥は王にヘイトを抱いてはいるものの、生活にはあまり不自由していないように見える。彼の巣は王宮のてっぺんにあるし、4羽の子供を過不足なく育てているし、喋り方にもどことなく英国紳士風の余裕が感じられる。というかそもそも自由の象徴である「翼」を有しているわけだし…
本当に自由を必要としているのは、むしろ王でも鳥でもない人々だ。たとえば煙突掃除夫の男の子と羊飼いの女の子。恋に落ちた2人は絵画の中から飛び出して『メトロポリス』のような城塞都市から逃げ出すのだが、羊飼いの美貌に目をつけた王は2人を捕らえよと国じゅうに命じる。
2人は鳥の助力を借りながら『カリオストロの城』のような決死の逃避行を繰り広げる中で、この国の地下に貧民窟があることを知る。貧民窟の人々は、自由はおろか太陽の光さえ目にしたことがないという。
するとそこへ王の乗った巨大ロボットが現れ、羊飼いの女の子は攫われてしまう。いよいよ憤激した鳥は、地下の檻に閉じ込められていた動物たちを説得して王政打倒に乗り出す。
面白いのは鳥の説得がほとんどこじつけのようなアジテーションでしかないところ。アジテートだって立派な政治活動なのだから否定はしないが、恣意の比重が大きくなればそれはいつかプロパガンダへと堕するだろう。
王は動物たちの力によって打破され、権力の象徴たる王宮もまた灰燼に帰した。そこには「考える人」のようなポーズで操縦者不在の巨大ロボットが座り込んでいるだけで、自由を勝ち取ったはずの人々の姿はどこにも見当たらなかった。
本作のセルフリメイク元である『やぶにらみの暴君』では、男の子や女の子や貧民窟の人々が新しい街で楽しく暮らすというところで物語が完結するが、それに比して本作のオチはかなりシリアスだ。
王が負け、鳥が勝った。しかしそれを支配に対する自由の勝利であると言い切ることは、あるいは王でも鳥でもない人々が本当の幸福を得ることができたと言い切ることはできないんじゃないか。
もしかしたら今度は鳥がかつての王のように振る舞いはじめる可能性だってある。王でも鳥でもない人々が再び支配の桎梏に囚われる可能性だってある。そういう一抹の不安が、なんとも歯切れの悪いこの改変シーンによって示唆されているのではないか。
手塚治虫やうつのみや理は『やぶにらみ』のほうを高く評価しているらしいが、私としてはこっちのほうが好みだった。
ちなみに作中で搭乗型の巨大ロボットが登場するアニメ作品は本作が初らしい。『ジャイアントロボ』『アイアン・ジャイアント』『ザ・ビッグオー』あたりに登場するロボットの素朴で無骨なデザインは本作が源流なのかもしれない。
作画的にも本作はすこぶる秀逸で、カートゥーンの誇張的な作画と沖浦啓之のようなリアル作画が一つの画角に奇跡的な折衷を果たしていた。
序盤の聳え立つ王宮を地面から大胆に見上げる背景画は、もちろんパースや物理的整合性という観点から言えば間違っているのだが、そうすることでしか感じることのできない迫力が備わっていた。『AKIRA』や『Ghost in the Shell』のビル群のカットあたりにも同様の手法が用いられていたと記憶している。
キッチュで迷宮じみた建築物の構造は『映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』や『映像研に手を出すな!』でお馴染みの湯浅政明のお家芸であるし、りんたろうの『メトロポリス』なんかは本作をそのまま換骨奪胎したのではないかと思うレベルだ。
アニメ作画史を総観するうえで決して欠かすことのできない古典の一つだといえる。
4.0音楽も素敵でしたが、「ロバと王様と私」という曲が笑えます
シャルル5+3+8=16世。宮廷内にはピカソ風の肖像画も飾られていたけど、ピカソの絵の方がましだと思われるくらいに不気味な顔をしていた。
これがまたとんでもないほどの暴君ぶり。高層階の王宮から気に入らない奴は皆落とし穴に落としてしまう。一人落ち着くための秘密の部屋は彼の孤独をも象徴しているが、その部屋に飾られた彫像や絵の中の人間が生きているのだ。三枚の絵。羊飼いの娘と煙突掃除の青年、そして狩猟姿の王がいる。愛し合い、王から逃れるため絵から抜け出した二人に対して王は嫉妬し、二人を追って彼も飛び出してしまう・・・
本物の王も肖像画から抜け出した偽物の王によって落とし穴に落とされる。日頃から粛清しか興味のない王も自分の分身によって粛清されたわけだ。しかし性格はちっとも変わらない。現世に当てはめてみても、統治者が代わっても圧政は変わらないといったところだろうか。二人を追いかけ回し、家臣も秘密警察のごとき捕らえるのに懸命になる。チェイスシーンではジブリの高畑勲氏がほれ込んだだけあって、半世紀も前に作られたというのに躍動感のあるアニメーション。主人公たる鳥が彼らを助けてくれるものの、途中捕まり、青年だけがライオンの檻に落とされてしまった。
民主化されていない絶対権力の階層社会。最下層では太陽も当たらず、鳥さえ見たことのない人ばかりなのです。ライオンに食べられそうになった青年は、その最下層の盲人の音楽によって一時的に助けられたが、鳥が再三助けてくれる。ここでの鳥は単純に王への憎しみのため、正しいことというよりもヘリクツとしか思えない演説により猛獣たちを説得するのです。何が正しくて、何が悪いことなのか、子供にも理解できるようになってる一方で、アニメの国の中だけではなく現代社会の問題点に全て通じているような奥深さもある。
「鳥たち万歳!」と地下の住民たちは革命が起こったかのように喜ぶのですが、彼らにとってみれば虎もライオンもみな同じ。人民主導の革命と思いきや、単に独裁者が交替するだけの皮肉とも受け止められます。その証拠に狂ったように暴れ回る巨大ロボットが・・・
【2006年12月映画館にて】
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