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デルス・ウザーラ

劇場公開日:

    解説・あらすじ

    シベリアのウスリー地方に暮らす天涯孤独の猟師デルス・ウザーラ。地誌調査のためにウスリー地方に入ったロシアのアルセーニェフ隊は、厳しい自然に直面し窮地に陥ったところをデルスに助けられる。大自然を愛するデルスの生き方にアルセーニェフは感嘆を覚え、次第にふたりは強い友情に結ばれていく。しかし、過ぎ行く年月は残酷な別れを容赦なく突きつける。オール旧ソ連ロケの映し出す大自然は厳しく美しく、役者たちの静かな演技も心を打つ。黒澤監督初の70ミリ作品。

    1975年製作/141分/日本
    配給:日本ヘラルド映画
    劇場公開日:1975年8月2日

    スタッフ・キャスト

    監督
    製作
    ニコライ・シゾフ
    松江陽一
    原作
    ウラジミール・アルセーニエフ
    撮影
    フョードル・ドブロヌラボーフ
    中井朝一
    ユーリー・ガントマン
    音楽
    イサク・シュバルツ
    美術
    ユーリー・ラクシャ
    • シュメイクル・チョクモロフ

    • マキシム・ムンズーク

    • ウラジミール・クレナメ

    • スペトラーナ・ダニエルチェンコ

    全てのスタッフ・キャストを見る

    受賞歴

    第48回 アカデミー賞(1976年)

    受賞

    外国語映画賞  
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    映画レビュー

    4.0黒澤監督の名のもとに、不当な評価をされている映画。   今こそ、音響の良い大画面で、この世界に浸りたい。

    2024年9月7日
    PCから投稿
    鑑賞方法:DVD/BD

    悲しい

    知的

    萌える

    ネタバレ!クリックして本文を読む

    初見では、私が期待する黒澤監督映画らしくなく、拍子抜けしてしまった(と言っても、まだわずかしか見ていないのだが)。
     『羅生門』『生きる』『天国と地獄』のような、度肝を抜く構成でもない。
     『七人の侍』『隠し砦の三悪人』『用心棒』『椿三十郎』『赤ひげ』のような、エンターテイメントでも、ひねりでもない。
     ただ、ひたすらにじっくりと、カピタンとデルス氏の友情と、その顛末を描いていく。
     私的黒澤監督らしさを探してしまうほどに。

    実話を素にした映画。デルス・ウザーラ氏は実在した人物。
     カピタンであるアルセー二エフ氏が執筆した『ウスリー地方探検記』と『デルス・ウザーラ』を素にしており、この本はソビエト連邦ではロングセラーになっていて、広く知られていたそうな。
     それを若い頃に読んだ黒沢監督は、北海道に置き換えて映画化しようとしたが、結実せず。
     後年、ソビエトの映画祭に招かれ、ソビエトで映画を撮る話があがった際、最初に黒澤監督が提案した原作は既に他の監督が手を付けている等で叶わず、その代案として、黒澤監督が上げたのが、この『デルス・ウザーラ』。ソビエトでは広く知られた物語としても、黒澤監督がこの話を知っていると知って、ソビエトの人々は喜んだとか。
     デルス氏を三船氏でと言う案もあり、三船氏も乗り気だったそうだが、スケジュールの都合で叶わず。個人的には、この映画で演じられたムンズーク氏がご本人かと思うほどに味を出していらっしゃるので、良かった。Wikiに載っているデルス氏ご本人ともよく似ている。「カピターン」という声が木霊する。
     ソビエト出資での映画製作。社会主義バリバリの頃。軍隊が護衛する、ヘリコプターで食料の調達など破格の対応であったともいうが、予算やいろいろな制限がありながらの製作だったと聞く。それで、黒澤監督らしさが出なかったのか、あえて、このような演出としたのか。それでも、映像的には唸るシーンも多い。

    とにかく、デルス氏への敬愛に満ちている。
     森の民。当然、森への観察眼・耳に優れている。予言のように天候の移り変わりも知る。
     極寒の地で、諦めず、そこにある藁とわずかな荷物だけで、避難場所を作り上げる。勿論、すでに使い物にならないカピタンのことも見捨てずに。
     それだけではない。後から来る人のためにと、小屋を直し、食べ物やマッチなどを置いておく。それが廻り回って自分の身を助けるから。目先の利益に囚われぬ知恵。自分のものは他の人の物。
     道案内の報酬をと言われても、それが悪いことだと言いつつ願うデルス氏。
     だますことなど、デルス氏の辞書にはない。だから、クロテンと引き換えに得た利益を、悪い商人に取られても、怒らず、「不思議だ」と頭をひねるだけ。
     測量が最終的に何をもたらすのかも理解しない。先祖代々、未だかって経験したことがないことだから。ただ、カピタン・隊員が、森を汚すことなく、森を歩いているから、無事に歩けるように力を貸す。(『八甲田山』が頭をよぎってしまう)ずっと一人でいた寂しさもあったのか。
     カピタンとの友情は、途中、恋人同士かと言うほどの蜜月となるが、カピタンだけでなく、隊員からも慕われる。
     渡河のシーンでは、漂流する筏から部下が先に降り、降りこそなったカピタンを突き飛ばして降ろし、デルス氏はあわや濁流に飲み込まれそうになる。それを必死で助けるカピタンや隊員たち。
     そんな助けたり助けられたりの行程。デルス氏にとっては当たり前なのだろうが、恩に着せたり、手柄話にしないデルス氏に感服するカピタン。
     そんなデルス氏を英雄視する小さなカピタン。
     理想化されて描かれているのではないかと思ってしまうほど、尊い。
     (己の益を考えずに人助けをする高潔さは、『七人の侍』・島田勘兵衛の原型?)

    だが、世の中は残酷に変化していく。
     デルス氏には老化が忍び寄る。狩猟で生きている人にとって、わずかでも身体能力の劣化は命取り。身を寄せる家族も、とうに死んだ。村もない。
     街の人と森の人。あまりにも、ルールが違い、一緒には生きられない。蜜月の終わり。

    第一部では、圧倒的な自然の中、測量と言う技術を持っている教養人であり、軍の士官であるエリートも何の役にも立たず、森と共に生きてきたデルス氏が大活躍する場面を描き切る。
     だが、第二部では、デルス氏を騙す商人の話。罠での乱獲。他の村人を襲い、利益を奪っていく人々。そして、身体能力が弱ったデルス氏は、森の人(動物)に殺されて自然に戻るのではなく、強盗殺人にあう。極めつけは、土地開発によって、デルス氏の墓が判らなくなる。と、自然の掟で成り立っていた土地が、欲や開発と言う名の人知によって侵されていくさまを描き切る。
     デルス氏が、森の精霊=虎を撃ってしまい、虎におびえるシーンが挟み込まれるが、こじつけて言うのなら、森の神話と、その神話に生きる人の死を表現しているのではないかとも思ってしまう。この森の人は『もののけ姫』のデイダラボッチのように復活はしない。

    なんという、一大叙事詩なのか。
    それを、腰を据えて、ひたすらに、じっくりと描く。

    1975年製作の映画。
     1992年ブラジルで開催された環境と開発に関する国際連合会議の分科会で、”開発”の名のもとに、搾取され犠牲になった先住民族についての報告が相次ぎ、私のようなド素人にも、何が起こっているかが明らかになる約20年も前に。
     1992年、自分たちの命と生活のために闘っていた先住民族の女性・メンチュウさんがノーベル平和賞を受賞する約20年も前に。
     1993年国際先住民族年で、先住民族に焦点が当たる約20年も前に。

    勿論、映像・音楽は凝っている。
     出会い。魔女の森のようなシーン。
     太陽と月のランデブー。そこに、デルス氏とカピタンの黒いシルエット。神話を語るにふさわしい。
     極寒の地と太陽。白いブリザードとオレンジ色の弱弱しい太陽。赤と黒。闇に飲まれそうなオレンジ。氷の照り。命がかかった行程。『アラビアのロレンス(1962年)』の極暑のシーンを思い出してしまった。
     餓死寸前でたどり着いた家。助かったことへの感謝の言葉を述べるカピタン・隊員と、デルス氏。その間を魚を配るこの家の女性。なぜ、わざわざここに女性を配するのか?すでに腹が満たされたカピタン・隊員・デルス氏は魚を受け取らず、女性はウロウロするだけ。良いことを言っているシーンなのに、女性がいることでおかしみが加味される。
     第二部の始まりは、みずみずしい緑。空の青と雲。風が渡る気持ちよさ。
     カピタンや部隊との再会。鷲の歌。画面向かって左に歌う隊員たち。右下にカピタンとデルス氏。闇と、温かな人のぬくもりのコントラスト。舞台のようだ。
     紅葉の美しさ。
     正月。木に飾り?食べた後の缶などを吊るしているのか?クリスマスツリーにも見え、ホリディナイトを演出?だが、獣除けのドアベルにも似て。風で鳴るのか?虎の精霊が訪れているのか?危機感を煽る。
     他にも他にも。
     虎を撃ってしまうシーンはスクリーンとの合成だろうと思う。ロケを多用しているが、一部、合成か?というシーンもあって、その分勿体なくもある。

    その世界観と言い、今こそ、この映画を見直すべきなのではないだろうか。
    大きな画面で、音響の良い映画館で見たい。デルス氏の真似をして、そこにあるもの、聞こえてくる音に集中しながら。

    (原作未読)

    とみいじょん

    4.5森の聖人と探検家の稀有な絆が美しい

    2024年4月11日
    PCから投稿
    鑑賞方法:DVD/BD

    シベリアの地理調査隊が出会った実在の人物、デルス・ウザーラ。彼と隊長である探検家アルセーニエフとの絆がシベリアの壮大だが過酷な自然の中で描かれる。スケールの大きい自然の中での脅威、また自然の豊かな面も感じられる。この作品の見どころは、デルスの稀有な聖性と彼にむけるアルセーニエフの敬意だと思う。ゴリド人で森で狩人として生きてきた彼の持つ知恵、哲学は、わたしたちには得難いもので、その美しさに憧れつつ、その輝きが失われていくことが止められないことへのどうしようもない切なさが心に残った。

    でも切ないだけじゃなくて生きていく上での貴重な彩りもしっかり受け止めた。大事な友情は間違いなくそう。

    ターコイズ

    3.5黒澤明監督の唯一の海外で撮影された作品。

    2022年7月27日
    PCから投稿
    鑑賞方法:DVD/BD
    ネタバレ!クリックして本文を読む

    1975年。ソ連と日本の合作映画ですシベリアを舞台に黒澤監督クルーの撮影期間一年間。
    アカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品です。
    一言で言えば「男のロマン」のを追求した作品。
    ロシア文学に傾倒していた黒澤明、念願のロシア語作品なのでしょう。

    ロシア探検家・アルセーニエフと先住民ガイド・デルス・ウザーラの
    友情と冒険を描いた映画です。

    ソ連の奥地には虎や熊が生息してるんですね。
    本物の虎も出演。
    動物園の虎を調達してきたソ連人スタッフに「目が死んでいる」
    と、黒澤が言い、野生の虎を捕獲してきたら、その虎は夜行性で役に立たず、
    結局は動物園の虎を撮影に使用したとか・・・。

    冒険映画として、探検隊隊長アルセーニエフとデルス
    のふたりは吹雪の草原に取り残される。
    激流に飲み込まれそうになるデルス(彼は泳げないのかも知れない?)
    を、隊員たちが必死で助ける。
    シベリアにも義賊がいて、男が川に縛られて殺されかけていたり(先住民が住んでいたって事なんでしょうね、女は拐った・・・と、言ってる)

    CG撮影をしてないので、やや話しも映像も平坦。
    ドラマティックでは決してないですが、夕陽が焼ける光景は見事でした。

    終盤になり、ウザーラが視力の衰えから狩の獲物を狙えなくなる。
    そこで隊長アルセーニエフはハバロフスクの家にデルスウザーラを
    誘い手厚くもてなすのだが、デルスにはそこが地獄なのです。

    当時のハバロフスクでは薪も水も買っている・・・本当ですかね?
    水道が無かった?
    薪を作るために公園の樹を切り倒したデルスは、警官に捕まってしまう。
    そんなこんなで、ハバロフスクの家を去ったデルスウザーラ。

    そして彼に悲劇が訪れます。
    他殺体で発見されたとの知らせがアルセーニエフに、届きます。
    なんと、アルセーニエフのプレゼントした最新式の照準の付いたライフルを
    盗むのが犯人の目的だったのですね。

    しかしデルスは念願の自然に還った。
    それで良かったのかも知れません。

    琥珀糖

    4.5人生とは、生きるとは・・・

    2021年12月29日
    PCから投稿
    鑑賞方法:DVD/BD

     黒沢作品の中でも、特に好きな一本だ。

     大自然の中で生まれ育ち、狩猟で生活をしているデルスウザーラ。 一方、近代的な生活圏に暮らす極地探検隊の隊長。 自然に対する捉え方が異なるこの二人が、自然の中で出会い友情を育んでいく。

     その絆を深めるきっかけとなる件がある。 二人が大氷原の真っただ中に取り残され、絶体絶命の状況に陥る。 しかし、デルスが持つ生活の知恵によって、最悪の事態を見事に回避する。 この出来事によって、隊長のデルスに対する信頼が深まり、ここから、年齢も生き方も違う二人の友情物語が展開されていく。 しかし、 友情が深くなればなるほど、生活環境や生き方の違いがお互いを苦しめていくことになる。

     デルスの死によってもたらされる隊長の悲しみは、もはや観客に委ねられていたと思う。 身近な人が亡くなった時の、罪悪感と喪失感が入り混じった、あの身の置き所の無い悲しみを、我々も映画の中で経験することになるのだ。

     自然から距離をとり、安全・快適な生活環境に生きることが、果たして良いことなのかー。 豊かな現在の世界を創り上げた人間の知恵を否定するつもりはない。 ただ、 二人の物語を観ていると、 自然とは、人生とは、生きるとは・・・とどうしても考えさせられてしまう。

     本来、我々の心とは、自然そのものなのではないのだろうか。 自然と距離を取って生きるということは、心からも離れてしまうことになるのではないだろうか。 鑑賞後、深い余韻に包まれる一本だった。

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    Garu

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