劇場公開日:2005年5月28日
解説・あらすじ
クリント・イーストウッド監督が、孤独な女性ボクサーと老トレーナーの深い絆を繊細かつ丁寧に描き、2005年・第77回アカデミー賞で作品賞、監督賞など主要4部門に輝いたヒューマンドラマ。
ロサンゼルスでボクシングジムを営むフランキーは指導者としても有能だったが、選手を大切にするあまり慎重になり過ぎ、功を急ぐ選手たちは次々と彼のもとを去っていった。そんな彼に、31歳の女性マギーが弟子入りを志願する。最初は彼女への指導を拒むフランキーだったが、貧しい生活を送りながらも必死に練習に励む彼女の熱意に触れ、引き受けることに。家族に恵まれず不遇な人生を歩んできたマギーと、不器用なあまり実の娘から絶縁されてしまったフランキー。それぞれ深い傷を抱える2人は、トレーニングを通して絆を深めていく。
イーストウッドが自らフランキー役を務め、マギー役のヒラリー・スワンクが「ボーイズ・ドント・クライ」に続いて2つ目となるオスカー像を手にし、さらに共演のモーガン・フリーマンも初のオスカーを受賞した。
2004年製作/133分/R15+/アメリカ
原題または英題:Million Dollar Baby
配給:ムービーアイ、松竹
劇場公開日:2005年5月28日
スタッフ・キャスト
受賞歴
第29回 日本アカデミー賞(2006年)
受賞
外国作品賞 |
---|
第77回 アカデミー賞(2005年)
受賞
作品賞 | |
---|---|
監督賞 | クリント・イーストウッド |
主演女優賞 | ヒラリー・スワンク |
助演男優賞 | モーガン・フリーマン |
ノミネート
主演男優賞 | クリント・イーストウッド |
---|---|
脚色賞 | ポール・ハギス |
編集賞 | ジョエル・コックス |
第62回 ゴールデングローブ賞(2005年)
受賞
最優秀主演女優賞(ドラマ) | ヒラリー・スワンク |
---|---|
最優秀監督賞 | クリント・イーストウッド |
ノミネート
最優秀作品賞(ドラマ) | |
---|---|
最優秀助演男優賞 | モーガン・フリーマン |
最優秀作曲賞 | クリント・イーストウッド |
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2023年3月31日
映画評論
その悲劇を照らし続ける光がある
あまりに絶望的な結末に、愕然とする。おそらくアカデミー賞史上最も絶望的な映画ではないか。確かに、絶望の果ての小さな光がそこにないわけではない。いや、絶望であると同時にあらゆる人生を等しく照らし出す光がそこにあると言った方がいいかもしれない。絶望と共にしか...
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映画レビュー
4.0必死に光を目指す「日陰者」の姿。
◯作品全体
作中、「なぜそこまでして…」と思う場面が多々ある。ダンはなぜ赤字なのにボクシングジムを経営するのか、エディはなぜ失明を覚悟して最終戦に挑んだのか、マギーはなぜ30歳を超えてボクサーを志すのか…それぞれ答えに近いニュアンスを語れど、明確ではない。ダンとエディにとっては「長年のボクシングへの情熱」といえば確かにそうだが、それだけではないはずだ。マギーはそもそもボクシングとの出会いがあまり描かれておらず、練習とバイトを掛け持ちして過酷な試合に挑む姿には「なぜそこまでして…」という疑問符が浮かぶ。
この疑問をセリフではない部分で理解させてくれる演出があった。それは影だ。前半は特にそうだが、三人がカメラに映るとき、表情が見えないほどの影に覆われる。エディが現役最終試合の話をしているときには、逆光の立ち位置でまったく表情が見えない。通常の会話のシーンであれば影を使えど真っ暗にすることはそうそうない。あるとすれば悪役や姿を見せない人物を映すときくらいだろう。マギーがサンドバッグを黙々と叩くシーンや、ダンが事務室にいる時にも同じくらい濃い影があった。
3人とも影の中にいる存在なのだ。暗い過去が…とかではなく、「日陰者」なのだ。ダンは有望株のボクサーに見放されたセコンド、エディは王座挑戦すらできず引退したボクサー、マギーは30歳を過ぎた貧乏なアルバイト。どれも枕詞に「単なる」という言葉が付く存在だ。その中でマギーはリングに光を見出し、アルバイトのまま終わっていく自分自身に光を浴びせるため、必死の足掻きをみせる。そしてその姿は何者でもないままのダンとエディにも微かな光を注ぐ。かすかな光を強調するための影なのだと思う。
エディが初めてマギーに助言するシーンや、ダンが本格的にマギーを指導することを決めるシーンは影と光の演出が印象的だった。影の中から一歩踏み出し、光を浴びる演出。まるでダンから救い出されるように歩を進めるのがとても良い。「なぜそこまでして…」という疑問は、日陰者である自分をなんとか日向へと向かわせようとする「影の演出」が答えだ。王座というスポットライトへと挑む、彼らの力強さのエクスキューズとも言えるだろう。
後半30分はとてもつらかった。長く日陰者として生きてきた人間が、意を決して踏み出すリスクを容赦なく描いていた。挑戦は年齢も社会的地位も後がない人間にとって、どれだけ大変で危険なことか。周りの人間はもちろん、運までも味方にしなければならないその立場を、これほどまで冷酷に映している作品もそうそうない。
しかし、全身麻痺となったマギーが命を絶つことを望むラストは納得できるものだった。これまで日陰にいた人間が「生きていれば何かある」、「生きていることが希望だ」という言葉を素直に受け止められるだろうか。有り金をはたいて、体に傷を負ってリスクに挑んだ人間に、障害を負ったうえでもう一度振り出しに戻ってやりなおせと言うほうが残酷だ。ダンがマギーの望み通りにしたことも、同じ日陰者だからこそ理解できたのだろう。マギーを過去の人間にして日陰へ戻っていくラストカットはとても寂しく辛いものだったが、何者でもなかったマギーがダンの記憶の中で輝いていることは、せめてもの救いのように感じた。
マギーが対戦相手を憎んだり、対戦相手に物語の時間を与えなかったところも見事だ。本質はそこではなく、「なぜそこまでして…」と思わせる程の、何者かになるという情熱なのだから。最後はその光が閉ざされてしまうわけだが、表舞台へと挑んだダンの軌跡と三人の心の揺らぎは、決して無意味なものではなかったと感じた。
〇カメラワークとか
・影を作るこだわりがすごかった。単純に影を付けるのではなく、顔を覆ってしまうほどの真っ黒な影。名俳優を使っておきながら顔を見せない画面を作るのは相当勇気がいるだろうけど、よくぞここまで、と思った。
・一番印象的だったのはダンがマギーのコーチとなることを呑むカット。夜のジムで握手する二人をシンメトリーのような影のシルエットにしていた。一心同体、というような画面がかっこいい。
〇その他
・序盤のダンとマギーの関係性の見せ方が上手だった。無下にする師匠側と熱心な弟子という構図は、物語的に面白くしようとして師匠側に辛い過去とか作りがちだし、やりすぎだろうってくらい弟子を冷たくあしらう(でもそれは良心で…みたいな)っていうテンプレがあるけど、そのテンプレにかすりつつ、そのままのレールには乗らない、絶妙な感じがあった。ダンはマギーに断りをいれてるけど、別に冷たいわけじゃない。他のジムをすすめたり、年齢を聞いて難しいことを率直に伝えてる。熱意に負けて、すこし優しくしたりする過程があるのも人間味があって良かった。言葉や行動にテンプレ的嘘くささがないのが良かった。
・ラフプレイを煽る相手セコンドとかマギーの家族の冷たさは、少し薄っぺらさを感じてしまった。実際にああいう人間もいるんだろうけど、物語としては悪の役割を押し付けすぎてる気がする。
4.0あらためて「映画芸術」という言葉を思い浮かばせる
先日見直した。素直に感動。
最初見たとき、イーストウッドは、まるでチャップリンだと思った。彼を想定したような脚本で、彼が演出、主演、それに音楽まで。その上この完成度!
この映画は、一見「尊厳死」がテーマのように見えるが、尊厳「死」ではなく、ボクシングを通して「尊厳(プライド)」をテーマにしている。この点は、今までのイーストウッドの映画に共通する。「尊厳死」をテーマにしているならラストのイーストウッドの行為は乱暴すぎる(医者でもない彼が注射で安楽死させるのは)。
メインのテーマは「絆」。ラスト近くで、イーストウッドが自ら手を下して彼女を死に至らしめるシーン。そのシーンの美しいこと。このシーンが、この映画の核。ここへ行き着くのに、それまでのシーン全てが費やされている(前半の盛り上がりとの対比が効いている。動と静)。その上、素晴しいのが、凄いシーンを撮ろうなんて力みもなく、二人の抑えた演技で、無駄な台詞は一切なし。彼女にゲール語で与えたニックネーム「モクシュラ」の意味を最後に静かに彼女に伝える。彼女の満足そうな顔。最高のシーンである。
彼はあえて重い決断を彼女のために、二人の「絆」のためにした。その後の彼はどうなったのか?カトリックの敬虔な信者で(ちょっと反抗的だが)、重い罪を一生背負う覚悟なのか。ラスト、二人で行ったレモンパイ屋で、一人しみじみ食べていたようだが。こんな役柄を納得させることのできる役者は、やはりイーストウッドしかいない。
モーガン・フリーマンは、イーストウッドのとの漫才のようなからみもよかったし、主演ふたりの架け橋的存在で、なにより彼がいい重みになっている。それに彼のナレーションの声の響きが素晴しい。これほどナレーションが、相乗効果を上げた作品は見たことがない。その上、このナレーション自体が、縁を切られているイーストウッドの娘あてに送られた手紙だったことが最後に判る。
この映画は、あらためて「映画芸術」という言葉を思い浮かばせる。それも大上段に芸術しているわけではなく、しっかり娯楽映画として分かりやすく、的確で、いろんな思いを観客に抱かせる。よく小説で行間を読ませるとか言うが、映画もそうだ。最近のCGを多用した即物的な映画と違って、やはり深い。
音楽も素晴しい。静かで染み入るような。この映画にぴったりな音楽だった。
5.0人間を描くのが上手い
4.0タラレバは無い
ボクシング🥊🥊の話だと思っていたら、
それだけではなく、
それを通してというか通り抜けて
人間の生と死を考える作品になっていた。
それも究極の選択を迫られるところもあり。
マギーの人生も辛いよな。
だけど性格良くて頑張り屋で堅実。
そして初めて自分がしたいことを見つけた。
それがボクシング🥊だ。
目が肥えていて師匠もちゃんと選んだ。
認めてもらうのにちょっとかかったけど。
だんだんと慣れて上達して試合でも勝つ❗️
賞金を貯めて貯金。
フランキーが現金で家を買え、とアドバイス。
家を買った、と。母親の家を買った、と。
フランキーと一緒に家を見に行く。母たちも。
マギーの置かれている立場を知ったフランキー。
イヤ〜なヤツが対戦相手。
卑怯な手でやっつけられた。
さらに強くなるマギー、
フランキーとは親子のよう。
かたや返って来る娘への手紙の束を
箱にしまうフランキー。
あのイヤ〜なヤツと再び対戦。
マギーが優勢だったのに後ろからやられ、
横になった椅子の上に頭と首が乗り、‥‥。
気がつけばベッドの上。
頸椎損傷で全身麻痺、
呼吸も自発が難しく人工呼吸器装着。
話すことはできるが。
そばにつきっきりのフランキー。
母たちが来た。
マギーの金を自分のモノにすべく
目の色を変える母たち。
絶望の上塗り、
再三マギーに頼まれたこと、
実行しようと決心。
エディにも打ち明ける。
OKが出る。
フランキーの決心を理解し涙を流すマギー、
やっと安らかなところに送り出せた。
タイトルのミリオンダラー•ベイビーの意味を
考えてみた。
百万ドルを稼ぐ赤ちゃん、
大切な愛する人、
と解釈できるのだろうか。
トレーナーとして実力のある賞金を稼ぐ選手と見、
父親のように健気な可愛い娘とも見て、
心の底では生きていて欲しいと願うが
マギー自身の気持ちを考えると、
フランキーが決断してあげねばと
苦渋の選択をした、ということだろうか。
ただ、罪にならないのか?と迷うのだが。
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