フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
劇場公開日:2024年7月19日
解説・あらすじ
スカーレット・ヨハンソンとチャニング・テイタムが共演し、人類初の月面着陸にまつわる噂をモチーフに、奇想天外な極秘プロジェクトの行方をユーモラスに描いたドラマ。
1969年、アメリカ。人類初の月面着陸を目指す国家的プロジェクト「アポロ計画」の開始から8年が過ぎ、失敗続きのNASAに対して国民の関心は薄れつつあった。ニクソン大統領の側近モーは悲惨な状況を打開するべく、PRマーケティングのプロフェッショナルであるケリーをNASAに雇用させる。ケリーは月面着陸に携わるスタッフにそっくりな役者たちをメディアに登場させて偽のイメージ戦略を仕掛けていくが、NASAの発射責任者コールはそんな彼女のやり方に反発する。ケリーのPR作戦によって月面着陸が全世界の注目を集めるなか、「月面着陸のフェイク映像を撮影する」という前代未聞の極秘ミッションがケリーに告げられる。
ケリーをヨハンソン、コールをテイタムが演じ、物語の鍵を握る政府関係者モー役でウッディ・ハレルソンが共演。「Love, サイモン 17歳の告白」のグレッグ・バーランティが監督を務めた。
2024年製作/132分/G/アメリカ
原題または英題:Fly Me to the Moon
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
劇場公開日:2024年7月19日
スタッフ・キャスト
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2024年7月22日
映画評論
「月面着陸」=「真実」=「陰謀論」という奇妙な公式
アポロ11号は月面着陸していない。そう信じている人々は、今も一定数いる。アポロ計画に対する斯様な陰謀論は、半世紀以上経過した現在でも不思議と沈静化することがない。一方で、JAXAの小型月着陸実証機が撮影した月面画像が地球へ送信され、NASA主導のアルテミ...
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映画レビュー
5.0フェイクと真実の行き着くところ
見果てぬ夢と浪漫を求めて、無限に広がる大宇宙へ――などというのは、やはり夢物語でしょうか。何かを為すにはお金がかかる現代社会。社会主義の旧ソ連では、その苦労は皆無なのでしょうか。資本主義ならでは、費用の工面も一苦労。
そんな気苦労とジレンマが描かれた、とても面白い映画でした。当時の記事を躍動させるなど、映像的にも凝っていた。実は私、月面着陸の頃合いの生まれ年で見てないけれど、打ち上げシーンの観衆の様子から管制塔?の人の動きまで実にリアル。当時の本物の映像も用いられていたのでしょうか。咥え煙草のスタッフの姿に時代を感じる。
映画の在り方として、とても面白い。「カメラを止めるな」っていう映画の、映画の撮影の、それを撮影する映画のその映画、なんていう幾十にも「フェイク」を重ねた構図だったけど、これも当時の月面シーンの、それを「フェイク」しようとしたエピソードを、映画として「フェイク」したというわけで。
最初に見せた黒猫の伏線回収とか、基本的な映画の楽しさも満載。飛行機のシーンで「Trust Me?」っていうアラジンの台詞。これはフェイクじゃなくてパロディというのかオマージュなのか。
さて、肝心の「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、どこでその名曲を聴かせるかと思ったら、ラスボス?の彼が口ずさみながら去って行くとは、とても小粋な使い方でした。この名曲、いろんな人がいろんなアレンジで歌われているけど、自分のフェイバリットは「エヴァンゲリオン」。“綾波レイ”林原めぐみさんの本気の「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」が大好きです。
3.5陰謀論をイジってぶっ飛ばす
アポロは月に行っていない、という俗説を逆手に取ったライトなコメディ。アポロ計画はもちろん実際に月に行くプロジェクトとして描かれるが(NASAの協力も得ているので当たり前)、万が一の時のために月面着陸のフェイク映像を準備しておこうかというフィクションを挟んで、陰謀論を笑いのネタに仕立てている。
政府関係者であるモーは何故、フェイク映像なんてものを作ろうと画策したのか。
スプートニク・ショックをもたらしたソ連に対抗しようと国力誇示に躍起になったアメリカ、1961年のケネディ大統領の宣言(「この60年代が終わるまでに人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させる」)、その後のアポロ1号の悲劇。泥沼のベトナム戦争への反感からくる国民の国への不信感。そんな時代の空気の中で、アポロ11号の月面着陸はまさに、絶対に負けられない闘いだった。
こうしてリアルな事情を振り返ってみると、そりゃフェイク映像の準備くらいはしておきたくなるわなあなんて、妙にモーの動機が生々しく見えてきたりする。それが図らずも陰謀論の育つ土壌になった。
そんな生々しさとのバランスを取るためか、物語のリアリティラインは低めだ。
ケリーはやり手と言うよりも、偽名で活動する詐欺師に片足突っ込んだような怪しげなやり口のマーケター。そんな彼女をNASAの中枢に入れて極秘任務に関わらせるところや、アポロに搭載するカメラを改造する部品調達のために、発射直前に電機店に侵入するくだりなどは、「フェイク映像制作の部分は全くのフィクションなんですよ」と強調するかのようなちょっとありえない展開だ。
こういう遊んだ展開のところでもうちょっと大笑いしたかったのだが、どかんと笑える場面はあまりなかった。
それと、ケリーとコールのラブストーリーもちょっと大味で、あまり刺さってこなかった。ケリーは嘘を操る人間なので(モーがケリーの弱みを握ったというのがフェイク協力のきっかけだったから、話の流れ上仕方ないのだが)、最後に改心仕草をされてもちょっとだけ眉唾になってしまうんだよなあ……でもまあ、そんなに生真面目に考えるような映画じゃないか……美男美女がくっついたからそれでよし。
モーを演じたウッディ・ハレルソンがよかった。怪しくて、軽やかで明るくて。ガタイのいいチャニング・テイタムとスタイル抜群なスカーレット・ヨハンソンのアメリカン・カップルぶりはなかなかの迫力だった。
キーパーソンならぬキーアニマルとして登場した黒猫は楽しかったし、アポロ11号打ち上げにまつわる映像の臨場感は見応えがあった。
不吉な黒猫シーンは場面に応じ3匹の猫を使って、CGなしで撮影したそうだ。クライマックスで、月面セットでの撮影を荒らしまくるシーンを演じたヒッコリーという猫ちゃんはなかなかの芸達者。もっとアップで見たかった。
格納庫から発射台に運ばれるロケットの姿や打ち上げの瞬間は、その迫力に引き込まれた。テレビ中継の画面など、当時の実際の映像を織り交ぜていたように見えた。パンフレットには、アーカイブ映像を組み込んだとの記述がある。
NASAの協力を受ける過程で、アポロ計画時代の膨大な未公開映像にアクセスできたそうだ。リアル映像の説得力もあいまってか、打ち上げの瞬間や空高く飛んでゆくロケットを見守る管制室の様子などから、当時の現地の人々の気持ちが伝わってくるようで、なんだかわくわくした。
ところで、フェイク映像制作のくだりで名前があがったキューブリックだが、「ムーweb」の記事によると(あの「ムー」です)、2002年にフランスで製作されたモキュメンタリー「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」において、彼がCIAに協力して月面着陸のフェイク映像を制作したという説が提唱されて以来、彼の名前は20年以上「月面着陸の事実はなかった」陰謀論と表裏一体のような形で認識されてきたそうだ。
映画「シャイニング」を検証するという主旨の2012年のドキュメンタリー「ルーム237」でもその説に触れる箇所があり、娘のビビアン・キューブリックが陰謀論についてSNSで「グロテスクな嘘」と声明を出すにいたっている。
「2001年宇宙の旅」の完成度の高さから湧いたであろうこういったキューブリックの「疑惑」も、本作はネタに昇華させた。
映画制作サイドはこのように陰謀論を笑い飛ばすが、全面協力したNASAは結構真面目に俗説の完全な火消しを狙っていたかもしれないと想像したりする。
フェイク映像放送を画策したとしてもおかしくないほどアポロ計画は困難なミッションであり、だからこそそれを実現した当時の関係者へのNASAのリスペクトが半端ないことは間違いないからだ。
3.5ありえたかもしれない歴史の裏側と二人の小気味良い恋愛模様を楽しむ
NASAの命運を賭けた月面着陸計画の裏側で何が起こっていたのか。同様の内容はルパート・グリント主演の『ムーンウォーカーズ』や、ピーター・ハイアムズ監督作『カプリコン・1』(ただしこちらは火星着陸)でも描かれたのを思い出す。宇宙計画にまつわる歴史ドラマをフィクション込みで楽しみ、なおかつ壮観なロケット発射シーンを仰ぎ見るのは実に豊かな映像体験だし、二人の芸達者らが小気味よく織りなす恋愛模様も味わい深い。と、一方で満足しつつ、他方でやや雑多な要素を詰め込みすぎて十分に消化し切れていない印象も受けた。ケリーの過去などわずかなディテールしか与えられずに終わる部分もある。そして何より終盤にアポロがいざ月へ向かう見せ場を前にすると、観る側の気持ちは完全にそちら側へ持っていかれ、陰謀論(事実か否かに関わらず)が蛇足に思えてくる。結果、序盤のワクワクはやや遠のき、私の中ではごく平均的な仕上がりに留まった。
3.5ウェルメイドの魅力と限界。
月面着陸の陰謀論を肴に、オールドファッションなラブコメを絡めた「はたらくひとたち」への讃歌を描く。なんとも魅力的な企画だし、一定のラインはキープできていると思う。ただ、キャラクターが弾けていないというか、予定調和を超えてくるほどの魅力を引き出せていない。それが脚本なのか、演出なのか、演技のせいなのかは判別がつかないところはあるが、政府の裏仕事を請け負うフィクサーを演じたウディ・ハレルソンの愛嬌と強さが入り混じった演技を観る限り、俳優のせいではないのではないか。ウェルメイドを目指しているにしても、進取の気性や枠からはみだす冒険心があってこそウェルメイドは光るのだと思っていて、カタルシスは感じつつも物足りなさはある、しかし、制作陣が陰謀論を扱っているせいでNASAの協力は得られないかも、と思っていたら、脚本を読んだNASAが大いに気に入ってくれた、という宣伝資料にあった裏話は、とてもいい話だと思う。
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