コラム:細野真宏の試写室日記 - 第271回
2025年3月21日更新

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第271回 「悪い夏」から考える「日本アカデミー賞受賞に有利な3人の俳優」とは?

(C)2025映画「悪い夏」製作委員会
今週は、2025年3月20日(木)が春分の日のため、同日に多くの新作が公開されました。
先週末、第48回日本アカデミー賞が発表されたばかりですが、最優秀主演女優賞に輝いたのは「あんのこと」の河合優実でした。そんな彼女がヒロインを務めた「悪い夏」も3月20日に公開されました。
「悪い夏」を見ると、河合優実が日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞したのは、改めて当然のように感じます。と同時に、日本アカデミー賞の演技部門で受賞が期待できる他の俳優の存在も見えてきます。

(C)2025映画「悪い夏」製作委員会
本作のキャッチコピーは「クズとワルしか出てこない」ですが、まさに本作でキャスティングされている俳優は日本アカデミー賞などで有利に働く素養のある人物が多くなっています。
例えば河合優実ですが、本作に限らず「クズとワル」の役柄を演じることがとても多くなっています。
これは彼女から発せられる独特な雰囲気との親和性が高く、どの役柄もハイレベルで演じ切っている特徴があります。

(C)2025映画「悪い夏」製作委員会
河合優実の演技を考える上で外せないのは「ナミビアの砂漠」の役柄でしょうか。
自分でもよくわからず感情の赴くまま生きている主人公は、もの凄くリアリティーがあり、「きっと河合優実本人もこのようなタイプなのではないだろうか?」と思うほどの憑依を感じるのです。
この憑依こそが演技力の象徴的なものであり、役者と役柄が同化していくほど役者のポテンシャルが高くなるわけです。

(C)2025映画「悪い夏」製作委員会
同様に「悪い夏」では同じような憑依型の俳優もキャスティングされています。
それは裏社会のボスを演じる窪田正孝です。
笑いながら平然と殺人も厭わないような役柄なのですが、窪田正孝の趣味のボクシングの腕も相まって、「きっと窪田正孝本人もこのようなタイプなのでは?」と思うほどの憑依を感じます。
その窪田正孝ですが、「ある男」(2022年)で得体の知れない男性を演じ、第46回日本アカデミー賞で最優秀助演男優賞を受賞しました。
役者本人から自然と醸し出される個性が強いと、より役柄に深みを与えて唯一無二のキャラクターが誕生することにつながり、賞レースでは有利に働く面があるのです。
また、少なくとも河合優実の場合は「悪い夏」や「ナミビアの砂漠」などの実例から、おそらくNG無しといった感じで、制約を設けていなさそうなのも、よりキャラクターに深みを与えている面があります。

(C)2025映画「悪い夏」製作委員会
「悪い夏」には出演していないのですが、これらの条件が当てはまる俳優では、例えば綾野剛がいます。
直近では「まる」(2024年)の狂気に満ちた人物は「綾野剛の日常」にしか見えず、「これが演技だったら怖い」と思えるくらいの演技力を見せています。
綾野剛は日本アカデミー賞ではまだ最優秀男優賞を受賞していませんが、そんなに遠くないタイミングで実現するように思えます。

(C)2025映画「悪い夏」製作委員会
さて、「悪い夏」は、何かと話題になる「生活保護」が題材の作品になっています。「生活保護」の仕組みは人間の感性に因るグレーゾーンの部分があるので映画向きな面があるのです。
本作は、北村匠海らが演じる市役所職員のケースワーカーを軸に物語が展開されていきます。
このような題材の作品は、かなり極論的なモノも存在するのですが、本作は原作が「横溝正史ミステリ大賞優秀賞」を受賞している作品なので、妥当な内容になっています。
つまり、社会の仕組みを考えながら、いま最も旬な演技派俳優たちの豪華な競演を堪能することができる作品になっているのです!
筆者紹介

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono

映画.com注目特集
3月21日更新
【衝撃の問題作】なぜ世界は本作に熱狂する?この村は人を喰ってる――“絶対的支持”の理由を解説
提供:ディズニー
【ラスト5分の破壊力】そして“観たことないシーン”のゲリラ豪雨に、感動を超えてもはや放心状態――
提供:東和ピクチャーズ
【あまりにオススメされるので、シリーズ未見だけど観てみた】結果は…ハマるまでのリアルドキュメント
提供:ツインエンジン【映画2000円は高すぎる!!?】知らないと損な“1250円も安く観る裏ワザ”、ここに置いときます
提供:KDDI- 映画評論
教皇選挙バチカンの奥の院で執り行われる「秘密の儀式」を盗み見るような映像体験
- 映画評論
Flow言葉を超えて深く共振しながら流れ着くアニメーションの新たな境地
- 映画評論
レイブンズ孤高の写真家の生き様を通じて、視ることと撮ることを問い直す目論み
- コラム
第271回:「悪い夏」から考える「日本アカデミー賞受賞に有利な3人の俳優」とは?- 細野真宏の試写室日記 -
- コラム
第49回:ビギナー必見!映像制作の基礎知識と映画業界への入り方- 下から目線のハリウッド -
映画ニュースアクセスランキング
本日
1
養女に迎えた7歳の少女の“正体”は、本当に成人女性なのか? 全米を騒がせた実話を基にした衝撃作、配信開始
2025年3月20日 09:002
実写「白雪姫」“7人のこびと”おとぼけ役は風間俊介「願いが叶いました」
2025年3月20日 07:003
WEST.主演映画「裏社員。スパイやらせてもろてます」に恒松祐里が出演! 全編関西弁でヒロイン役に挑戦
2025年3月20日 12:004
【インタビュー】柳楽優弥×笠松将「ガンニバル」完結編を“3つのキーワード”で語り尽くす
2025年3月20日 11:005
高橋文哉&西野七瀬にもたらした、瀬々敬久監督からの大きな財産【「少年と犬」インタビュー】
2025年3月20日 12:00
今週
1
ニコラス・ケイジの変貌ぶりがヤバすぎて主演女優の心拍数が「76→170」に跳ね上がる「一生忘れない」
2025年3月11日 18:002
櫻井翔×北川景子「映画 謎解きはディナーのあとで」3月29日に放送
2025年3月14日 16:003
「日曜アニメ劇場」3月16、23日に「宇宙戦艦ヤマト2199」劇場版2作を放送 30日は「ルパン三世VSキャッツ・アイ」
2025年3月14日 18:004
【閲覧注意】台湾ホラー「ガラ」5月9日公開決定! 衝撃の日本版ビジュアル&予告編&場面写真を一挙公開
2025年3月10日 08:005
【第48回日本アカデミー賞】最優秀作品賞は「侍タイムスリッパー」 安田淳一監督&山口馬木也が涙
2025年3月14日 22:55