コラム:若林ゆり 舞台.com - 第91回
2020年10月2日更新


撮影:若林ゆり スタイリスト=加藤万紀子 ヘアメイク=根津しずえ
ダブルキャストは、同じ役でもそれぞれの違いが出るのが面白いところ。
加藤「朝夏さんと土屋さん、ふたりのお芝居がまったく違うので、こちらのアプローチとしてもそれぞれどう反応していこうかな、という楽しみが生まれていますね。朝夏さんのアンは、とてもしっかりしていそうなんだけれど、内に秘めている願望や願いがすごくいっぱいあるんだな、というのがちゃんと見える。だから、『次は何をしでかすんだろう?』とワクワクさせられるんです。土屋さんの方は、ありのままの姿が初々しいし、初めてのことに戸惑ったりする姿がそのままアン王女に重なる感じなんですよね。土屋さんは2幕での、そこからの成長をどう見せるのか、というのもすごく楽しみな部分です」
朝夏「太鳳さんはミュージカルが初めてなこともあって、実際にも初々しさがあって。いろいろ聞いてきてくれますし、『ここはこうだよ』と教えたりしながらお稽古しているのも楽しい。彼女は等身大で新鮮なアン王女ができるので、私はそこを演技力で見せなくちゃ、と思っています(笑)」

では、ジョーという役を演じるふたりの違いは?
朝夏「加藤さんのジョーは本当に落ち着いていらっしゃって、醸し出す雰囲気も本当にグレゴリー・ペックに近い感じ。『この人について行っていいんだな』と思える、頼もしさみたいなものがあるんです。平方さんは、親しみやすさを強く感じるジョーになっている印象です。年齢の近い感じがあって、チャーミングさが前面に出ている。今のところ平方さんのジョーは、自分が組むより太鳳さんとのコンビを見ていることが多いから、よけいにそういう印象なのかも」
加藤「元基のジョーは、自分が思い描いて作ろうとしているジョーよりも飾り気がないというか、けっこう感情のままに言葉を発する人間だな、と感じます。でもそれだけ自分の中に野望や思いが強くあるというのも事実で。だから、アンとの掛け合いを見ていてもすごく面白いんですね。コメディ部分も自然だな、というのは感じますね(笑)」

撮影:若林ゆり スタイリスト=立山功 ヘアメイク=江夏智也(raftel) ベスト、パンツ/CROWDED CLOSET シャツ/MEN’S BIGI
それにしても、コロナ禍である。稽古場でも様々な制約の中で試行錯誤が行われ、新たな魅力が生み出されている。
朝夏「対面した状態で言葉を発しない、とか。いろいろな決まり事があるんですけど、その中で成立するところを模索しながらやっている感じですね。50年代の話ではあるんですけど、過度に触れあったりしない分、気持ちがフィーチャーされている。だから、“今”の要素がうまくマッチングしている気がします。とにかく稽古場が、本当に楽しいんです。私は自粛中、『自分には表現すること以外、仕事にできることはないな』と再確認してしまったんですね。ほかにできることがまったくなくて(笑)。活動がストップする中で『早く表現したい』という気持ちがパンパンに膨れあがっていたので、もうずーっと『楽しい!』と感じています(笑)」
加藤「本当に、会話をしているだけで『ああ、生きてるな』というか。コロナ禍の中では、自分ひとりでのコンサートや配信をするのでさえやっとで、こうしてみんなで稽古をして作品を作りあげていくということはずーっとできませんでしたから。嬉しいし、しみじみ感じるんです。『久しぶりだな、みんなでああでもない、こうでもないと言いながら作りあげていく感覚』って。『実際に人と会って会話をしながらお芝居をするということは、こんなに楽しいことだったのか!』ってひしひしと感じていますし、だからこそ『よりいいものにしたい』という気持ちも強くなりますね」

ふたりとも、開幕直前まで稽古を重ねていたミュージカルの幕が上がらず、幻と消えた。もし、祈りの壁(この作品にも登場するローマの名所で、マリア像に祈りを捧げると願いが叶うと伝えられる)に願うとすれば、「早くこの新型コロナが収束しますように! もう今はこれしかない!」と口をそろえる。
加藤「コロナの自粛が明けて初めてお客様の前で舞台に立った時、本当にお客様ってありがたいと思いました。僕らは見てくださるお客様がいるからこの仕事ができているんだ、と痛感しましたね。こういう状況ですから、見に来るのをためらわれるお客様もいて当然です。でも、我々は劇場空間でしか味わえない、かけがえのないものを届ける、というその一瞬のために命を削ってやっています。そのかけがえのない一瞬を感じに劇場へ来ていただけたら、最高に嬉しいですね」
朝夏「この作品はちょっぴり切なさもあるんですけど、テーマは夢とか希望とか、明るいものなんです。こういう世の中だからこそ、演出的にももっと明るい方に持っていきたいという意図があって。きっと見に来てくださったお客様がアン王女と同じようにいい思い出を作って、ハッピーな気持ちを持って帰っていただける作品になっていると思います。もちろんご自身や周りの方を第一に考えていただいて、その上で劇場にお越しいただけたらとっても嬉しいです!」
ミュージカル「ローマの休日」は10月4日~28日に東京・帝国劇場で上演される。12月19日~25日には愛知・名古屋の御園座、21年1月1日~12日には福岡・博多座でも上演。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/romanholiday/)で確認できる。
筆者紹介

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka

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