コラム:若林ゆり 舞台.com - 第42回
2016年4月1日更新

第42回:ミュージカル界の濃い貴公子、岡幸二郎が斬新なフレンチ作品で咲かせる悪の華!
ミュージカルファンなら、知らないという人はいないだろう。186センチのすらっとした長身に彫りの深い美貌、そして何より豊かな声量と表現力、艶のある歌声で客席を魅了する岡幸二郎。大作ミュージカル「レ・ミゼラブル」や「ミス・サイゴン」などで、東宝ミュージカル@帝国劇場(帝劇)の常連としておなじみだが、この4月に出演するフレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」は久々(約3年ぶり)の帝劇登板となる。フランス革命を題材とするこの作品は、宝塚でも昨年、小池修一郎の潤色・演出により上演された話題作。今回は小池がさらなるチャレンジをしているという。

「この作品は、すごく新しい試みになると思います。宝塚でも上演されましたが、それは宝塚というシステムに合わせたアレンジがされたもの。この東宝版はよりオリジナルのフランス版に近いというか、フランス版をよりミュージカルにした感じなんです。本国ではミュージカルではなく、“スペクタキュル(エンタテインメントショー)”と言っているんですね。それを(演出の)小池先生はちゃんと日本に伝えようとなさっている。ヨーロッパのミュージカルにはウエストエンド(ロンドン)のザ・ミュージカルもあればウィーンの『エリザベート』などがあるけれども、それともまた違う。フランスのスペクタキュルとはこういうものですよ、と、新しいものを見せようとしているんです。新しすぎてミュージカルを見慣れていらっしゃる人は『え?』と思うかも。たとえば、いままで『私はあなたが好きです~』という振りを見てきた人たちは『え、歌ってることと振りが全然違うじゃん』と感じる可能性もあります(笑)。“見せる”ということを押し出しながらオリジナル以上に明確なストーリーの流れを作っているので、斬新なんです」
岡が演じるのは、平民たちを苦しめる貴族将校・ペイロール役。「レ・ミゼラブル」のジャベールや「ルドルフ ザ・ラスト・キス」の首相ターフェ、「二都物語」のテヴレモンド侯爵など、黒い役を得意としてきた岡をしても「難しい」と言わしめる強烈なキャラクターだ。
「今回のペイロールは、人間性のカケラも見せない真っ黒なキャラ。平民どもをいたぶるんですが、自分の手を汚して誰かを殺したりはしないんですよ。黒くて濃いキャラは得意と思われているかもしれませんが、油断はできません。後ろから吉野圭吾(アルトワ伯爵役)が追いかけてきてますからね(笑)」

撮影:Leslie Kee
難しいのは歌でどう表現するか。斬新なこの作品では、いままでの歌い方がまったく通用しないのだとか。
「ビート感を取るのか、ストーリーを伝えるというところを取るのか。私が持っているいろいろなものを崩さないとできないんです。たとえばある歌を稽古していて、歌唱指導の先生に『この歌に岡さんの美意識はいらないですね』と言われました。綺麗にまとめてはいけないし、バランスが難しい。海外ミュージカルはどの作品もそうなんですが、その国の言語で歌うことを前提に作られているので、他の国の言語である日本語で歌ったら絶対におかしなところが出てくる。いままでのミュージカルだったらせめぎ合いながら作ってきたんですが、『こういう声がほしい』とか『ここの休符は絶対に活かしてください』と言われるので、曲を最優先しながらキャラを入れなければならないんです」
このカンパニーの中での自分の立ち位置と、作品におけるペイロールの立ち位置とが重なるときがあるという。
「このお話をいただいたときに、プロデューサーから『もしかしたらこのカンパニーでいちばん年上になるかもしれません』って言われたんです。実際は違いましたが、チラシの表面に載っているキャストのなかではいちばん年上なんですよ。ああ、こんなところまできたんだなぁと思いますね。ペイロールという役としては、第三身分と呼ばれる平民にも直に話すし、国王とも直に話す。貴族側と平民側の世界を行き来し、繫げる役目なんですよね。まさに稽古場でも世代間や立場の違う人たちを繫ぐようなところがあって。だから私としては、地味に、強く支えられるところにいればいいんじゃないかな」
筆者紹介

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka
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