「また就職氷河期世代いじめだ」。3月上旬、インターネット上ではこんな怨嗟の声が飛び交った。
きっかけは3月5日、参議院予算委員会での石破茂首相の発言だ。同じ企業に長く勤めるほど優遇される退職金の課税制度について、「適切な見直しをすべきだ」と明言したからだ。
退職金課税を巡っては、政府は2023年の経済財政政策や改革の基本方針「骨太の方針」で見直す方針を示したものの、「サラリーマン増税だ」との猛反発を受け岸田政権は見直しを断念。25年度の税制改正でも、退職金課税の改正は見送った。
予算委の質疑では、自民党の宮沢洋一税制調査会長が退職金課税について、「猶予期間が10~15年は必要だ」と発言したことも指摘された。10~15年後は、氷河期世代の退職が始まる時期に重なる。上の世代に“逃げ切り”を許し、氷河期世代から退職金増税が始まりかねない理不尽に不満が爆発したのだ。
氷河期世代は上の世代に踏みつけられたという被害者意識が強い。それは単なる個人的な感情論ではない。過去も現在も未来も、他世代と比べると悲惨な世代間格差がついている。
氷河期世代の苦しみの始まりは、その名が示す通り就職だ。1991年のバブル崩壊をきっかけに、企業は採用数を一気に絞った。
一時は80%を超えていた大卒の就職率は93年から急低下し、最悪期には55%まで落ち込んだ。給料が高い大企業は狭き門。4割以上の学生が就職できず、非正規雇用の道を選ばざるを得ない人も続出した。年功序列の賃金制度が今なお残る日本で、社会人生活の始まりのつまずきは尾を引く。
働き盛りの40代前半で、民間企業に勤める男性の平均年収を世代別に見ていくと、上の世代では超えていた600万円の水準から氷河期世代は大きく割り込んでいる。一時はピーク時と比べて84万円減と、給与2カ月分に近い大差がつけられた。
さらに、身を粉にして働き収入が増えたとしても、つらい世代間格差が待ち構える。同じ額面年収であっても、税金や社会保険料の負担増で、上の世代と比べて自由に使える「手取り」が減ったのだ。
例えば額面年収1000万円で、妻と15歳以下の子ども2人を扶養する45歳の会社員の手取りを試算すると、95年は799万円だった。ところが25年の手取りは723万円で、76万円も少ない。
『週刊ダイヤモンド』3月29日号の第1特集は「階級社会の不幸」です。1世代にわたり実質賃金が全く上がっていないのは、近代以降の先進国では日本だけです。不十分な賃上げと非正規雇用の固定により、日本は「貧しい国家」に成り下がりつつあります。
生産生が低いから賃上げができないーー。経済エリートが信じてきたビジネスの定説は実は誤解だらけです。日本の時間当たりの生産性は、実は3割アップしています。それでも賃金が上がらない本当の理由は、もうかってもため込み、賃上げも国内投資も消極的な大企業による収奪的な社会が原因です。
特集では日本の階級社会の実態や長期停滞の原因を徹底分析。現役世代を非正規労働者と中流貧民が覆い尽くす“貧困放置”の現状に警鐘を鳴らします。
そして、特に割を食っているのは氷河期世代です。厚生労働省の統計データを活用した独自検証では、大企業が氷河期世代の賃金を下げ続けた冷遇ぶりが浮き彫りとなりました。さらに各種データによって他世代との絶望的な7つの格差を炙り出します。
また、今春闘では2年連続の高賃上げが期待されています。しかし、業界や企業によって賃上げの実態は千差万別。氷河期世代などシニア層の待遇にも格差があります。
主要業界の賃上げやシニアの待遇問題を取材していくと、ホンダが日産よりも高年収の理由や、三菱商事や伊藤忠商事など高年収エリートの実態、メガバンクで中高年を苦しめる「役職定年」が消滅しそうなトレンドなど、企業の待遇格差も見えてきました。
さらに、主要100社の20年間の年収推移を独自試算し、バブル、氷河期、ゆとりといった5世代の損得を徹底比較。社内でバブル世代が負け組の企業はトヨタ自動車や日立製作所、氷河期世代が負け組の企業は3メガバンクや日本製鉄、などといった企業内の格差を浮き彫りにします。
格差や貧困を放置したままでは、未来に光はありません。日本社会が抱える課題に迫る一冊です。ぜひご一読ください。
日本の格差問題が「岐路」に立っている。不十分な賃上げと、非正規雇用の固定が、日本を衰退の道へ導こうとしているのだ。その元凶は、もうかってもため込み、賃上げも人的投資も国内投資も怠った大企業にある。中でも最も割を食ったのが氷河期世代だ。大企業に入っても四半世紀前の部課長の給料を超えられず、正社員になれなかった非正規雇用はそのポジションを固定化させる。貧困放置国家ニッポンに未来はあるのか。
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副編集長 大矢博之
個人にはどうしようもない就職氷河期世代の不遇
就職氷河期の後期世代です。ですが、自分は運が良かった。大学で1年留年した上に、理系だったため大学院へ進学。この3年間のズレのおかげで、就職の最悪期を回避できました。
「おまえらは運が悪い。1年後なら就活はもっと楽だろう」。当時の就職セミナーの講師の言葉を今も覚えています。事実、前の職場では後から入社してきた後輩の人数が、年々増えていきました。
景気動向や企業の採用減は個人にはどうしようもありません。自己責任や時代のせいにするのは救いがなさ過ぎます。特集の取材で改めて、氷河期世代の不遇っぷりを実感しました。生まれた年が違えば、どんな人生になっていたのだろうか。釈然としない気持ちが残っています。
編集長 浅島亮子
市販は残り2号!表紙も「歌舞伎町風」から大刷新
「週刊ダイヤモンド」が書店でお買い求めいただけるのも、今号を含めてあと2号となりました。弊誌は4月より、30年ぶりに大刷新。装いも新たに、定期購読を前提とした「サブスク雑誌」として生まれ変わります。
先日、リニューアル後の新雑誌のデザインが上がってきました。ロゴも表紙もコンテンツも、劇的に変わります。あるデザイナーに「歌舞伎町風」と評された原色カラーの表紙は、通勤バッグに収納しラグジュアリーな雰囲気になります。
かといって、コンテンツをおとなしくするつもりはありません。データで迫る・忖度なしで迫る・企業産業の深淵に迫るをスローガンに、企業産業記事を拡充してまいります。ご期待ください!
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