公開日:2025/4/19
2月からNetflixで配信が始まった番組「オフライン ラブ」は、異国の地で過ごす若者たちが、デジタルデバイスなしに運命の力だけを頼りに恋をするという、実験的な恋愛リアリティ番組だ。参加者は、今や我々の生活とは切っても切れない存在であるスマホなどのデジタルデバイスを一切使用することができない。そんな状況下で、彼らは見知らぬ異性とどのように出会い、恋に落ちるのか……。そこには予想外の人間模様や、思わずキュンとなるときめきシーンも多くあり、瞬く間に話題を呼んだ。
舞台は南フランスのリゾート地、ニース。自然豊かな景色や旧市街の穏やかで美しい街並み、ニースならではの食文化やアートを満喫できる人気の土地だ。番組に参加する10名の男女は、この土地に10日間滞在しながら、それぞれの意中の相手を見つけ、関係を深めていかなければいけない。
目印は、番組オリジナルのガイドブックのみ。街中で同じガイドブックを持つ人を見つけることができればいいが、番組内では気づかずに通り過ぎてしまう場面も多々あった。とはいえ、さすがに出会いの手段はそれだけではない。お互いに手紙を送り合うボックスも用意されており、そこでデートの約束を取り付けたり、予定変更の連絡をし合ったりすることができる。街中で会った異性を改めてデートに誘ってもいいし、まだ見ぬ相手のボックスに適当に手紙を入れて誘い出したっていい。出会い方はどこまでも自由だ。
見始めたばかりの頃は、出会ってしまえば、あとは手紙でやり取りすればいいだけだからそこまでのドラマが生まれることはないだろうと思っていた。しかし、ニースの街で若者たちが出会い、想いが交錯していく中で、物事はそう単純ではないことに気づく。
デジタルデバイスがないということは、当然だが彼らが関係を深めるためには「会うしかない」のだ。そして、会うためには手紙を出さなければならず、もしタイミングがずれてその手紙を相手が読まなければ、自分は来ない相手を一日中待ち続けなければいけない。加えて、幸運にも会えたとしても、時間は限られている。例えば気になる人が何人もいるから、とりあえず見定めてみよう、みたいな悠長なことは言っていられない。偶然の出会いと、デジタルデバイスに頼らないからこその研ぎ澄まされた直感。この二つが「オフライン ラブ」の見どころだ。
実際、多くの視聴者の心をつかんだのは、ナナミとケンスケの出会いだろう。「たまたまボックスが真ん中にあったから」デートのお誘いの手紙を投函したナナミ。その後番組側から招集がかかり、全員が集合し顔合わせすることになった夜、初対面の彼女を見て「あの子がナナミちゃんだったらいいな」と感じたケンスケ。ふたりは波長が合ったのか、みるみるうちに仲を深めていく。そんなナナミに想いを寄せるもう一人の男性、ユウダイ。ナナミはユウダイとのデートが終わり別れたあと、ケンスケのもとへと駆け出していく。ケンスケとは、デートのあとに来てほしいという約束だった。すっかり日が暮れている。もしスマホがあれば「遅くなってごめん、今から行くね」とだけ連絡すればいい話だ。しかしそんな便利な手段は今はない。お互いに、待っていてくれる、来てくれる、と信じることしかできない、そんな祈りのような時間。息を切らしながら待ち合わせ場所に到着したナナミと、そんなナナミに声をかけるケンスケ。あの瞬間の、奇跡を目の当たりにしたような、安心しきったふたりの表情が忘れられない。思わずハグしそうな勢いで駆け寄りながら、近すぎたと言わんばかりにお互いに距離をとったのがまたリアルだった。
ここまで参加者たちに感情移入できるのもまた、デジタルデバイスがないからだろう。彼らは、デジタルデバイスを持たないことで、手紙か街中で会うことでしか物事を進めていくことができない。つまり、カメラの前で起きたことがすべてだ、と視聴者は感じられる。従来の恋愛リアリティ番組であれば、デジタルデバイスに多少の制限がある場合もあるが、カメラがないところで知らぬ間に進んでいた関係なども多々あり、見ている方は置いてきぼりに感じるような瞬間もあった。
しかし、この「オフライン ラブ」では、まるで物語を自分まで追体験しているかのような没入感がある。おまけに、写真は撮れないから美しい景色を目に焼き付ける、目の前の相手をただ見つめる、なんだかそんな贅沢な時間を、自分まで過ごしているような気分になってくる。恋愛リアリティ番組を見て「こんな恋愛がしたい」と思うようなことってなかなかないんじゃないだろうか。現代だからこそ実現した、ちょっと異色な恋愛リアリティ、ぜひ次のシーズンに続いてほしいと思うくらい素敵な番組だった。
文=園田もなか
Netflixリアリティシリーズ「オフライン ラブ」世界独占配信中 (全10話)
https://www.netflix.com/jp/title/81669953
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