夜が世界から色を奪うとき、もっとも深い闇が沈殿する場所がある。それが、深夜のコインランドリーだ。 昼間には誰もが通り過ぎるだけの無表情な空間。だが、終電が消え、街灯が孤独の輪郭を照らす時刻になると、この小さな部屋は都市の闇の“受け皿”へと変貌する。 なぜか──。理由は単純で、そして残酷だ。人間の気配が消えた分だけ、心の影が濃くなるからである。 その影の濃度が限界に近づくとき、洗濯機のガラス越しに“何か”が見えるという。仮面のようなもの。微笑んでいるようで、泣いているようで、しかし完全にはどちらでもない表情。 人々は、その曖昧な存在をこう呼ぶ。 「無名のピエロ」あるいは「センカクの闇が生み出した…