武田泰淳著『快楽』(1973年)読了。 かいらくと読めば世俗的・肉体的な快楽、けらくと読めば仏教的な法悦。しかしこの両者はどのように違うのか、区別する必要があるのか。 つくづく中絶が惜しまれるが、完結していればドストエフスキーに比肩する深さをもった宗教思想小説となっていたかも知れない。 寺の跡継ぎで苦労なしに僧侶になったばかりの若者が、雑念や妄想、とりわけ性欲に悩みつつ、それでも仏教は真面目に勉強して、学べば学ぶほど現実世界と宗教の乖離、保身と蓄財に走る寺の醜態に矛盾を見出す。裕福な檀家の姉妹、露骨に誘惑してくる姉の若夫人と仏教を極めたい求道的な妹の久美子に挟まれて懊悩する主人公、お経の本のあ…