自由気ままに、柔軟に、日々つねに考え続けるということ。そんなことができるものだろうか。 とくだん心酔したでも愛読したでもなく、影響を受けた憶えもないのに、串田孫一の著作がいく冊か手もとにある。なにかしら気に入っていたのだろう。フランス哲学者であり、詩人であり、随筆家である。山や旅の随筆家として、愛読者が多かったのではなかろうか。役者にして演出家の串田和美さんのお父上である。 本格的な哲学論としては、『哲学散歩』全四巻(筑摩書房)にとどめを刺す。といってもドイツ哲学者たちのごとくに、倫理だ理性だとギリギリ思弁を積重ねて、真理を絞り出してゆこうなんぞという気配は微塵もない。書名のとおり「散歩」だ。…