はじめに 叙景短歌 とはわたしの勝手な命名で、風景のみで成立している短歌を指しており、嶋稟太郎の『羽と風鈴』に接して以来、ずっと考えているスタイルである。 しばらくは地上を走る電車から桜並木のある街を見た 嶋稟太郎『羽と風鈴』 風景のみとはいえ、その風景のどこを短歌にするのかや、例えば経過や変化をあらわす副詞や助詞(「やっと」とか「しばらく」とか「も」とか)に、「想い」は出てきてしまう。 「出てきてしまう」とわたしが書くのは、そのような主観をも消していきたい、という意思の表明だ。 また、陳腐なドラマ性、ありきたりな道具立て、安易に愛や死を着地することでインパクトを持たせようとする怠惰さは、徹底…