狂言回し・桑潟幸一である。 あまりにも滑稽である。冴えない大学助教授のクワコーこと桑潟幸一は、作者によってとことんおちょくられイジラレている。気の毒なほどに、おふざけパートを生きている。 一方、シリアスなミステリーパートは、軍事体制下の戦禍が招いた不幸の数々が何十年を経ても暗く人生にのし掛かることを伝えている。長い歴史を踏まえたサスペンスでもある。 大文字で書く国家や社会が、家庭や個人を摩滅する時代の断片がこんな小説を書かせるのだとしたら、やがて、阪神淡路大震災や東日本大震災、コロナ禍、能登半島地震など、さまざまな方面から今後、フィクションが創作されるテーマとなるんだろうなと思う。 厄災がエン…