
いやあ、特に理由はないんだけど、かなり前からちょっと手をつけていたこんなのを仕上げちゃったので読みたい人は読んで……はいけませんよ。これはあくまで委員会内部の資料ですので。
別にラファティ作品の中で特に重要というわけではないが (というと、何が重要なんだという話になって口ごもるところだが)、長編の中では比較的わかりやすい、楽しく読めるものだと思う。
ストーリーは簡単で、世界最高の探偵コンスタンティン・キッシュが、ある朝にモナコ公国を盗むという世紀の強盗事件の阻止に乗り出すと、そこに突然一夜にして、モナコから出てサルデーニャ島とコルシカ島を含みイタリア半島と並列になった、サンダリオティスという半島が出現する。(なお、正しい発音は「オ」ではなく「リ」、いやさらにそれを分けて、サンダルイオティスなんだ、というのが文中に出てくる。 Sandal-Iotisってことね。一般的な感覚では日本語でも英語でも、イだけ独立させる発想はないし「オ」にアクセント置きたくなるけど)。だがそれは、今朝突然できたのに、なんだか千年前からあったような顔をして、何でもそろっている。が、調べるうちにだんだんボロが出てくる。現実に見えるものは、実は現実ではない。実体があるように見えるのは、実はあぶくと妄想でできた、一日しかもたない架空の存在。それを一日で売り飛ばして儲けようという世界最高の詐欺師集団が仕掛けた、一世一代の大ばくち、また同時に天空に浮かぶ、ティボーの魚雷、ホーガンのボブスレー、天空の城ラピュタなどと呼ばれる、世界各地に存在する変な謎のフォーティアン巨大物質伝説の一つが、実は反物質爆弾なのだと詐称して、それをネタに世界を強請ろうという仕掛けも同時に進む、さらには悪魔のサンダルと呼ばれたサンダリオティスは、もちろん悪魔がこの世に登場する入り口でもある。コンスタンティン・キッシュは果たしてその陰謀を阻止できるでしょうか! 地球の運命やいかに!

二重になった現実の裏から登場する、無邪気/邪気まみれのスーパー詐欺師たちによる、伝説や伝承のかけらに残った別世界がこの世に出現し、みんなを騙して消えていく、というのはラファティの短編にも頻出するテーマ。『アーキペラゴ』や『第四の館』のような、正統カトリック信仰原理主義異端みたいな思想は、あまり色濃くは出ていない。ストーリーもわかりやすい。『地球礁』くらい楽しく読めるんじゃないかな。
ケチをつけるなら、最後に詐欺師どもが勝利する寸前に、彼らが利用した実在しないはずのフォーティアン構築物の他のものがいきなりあらわれて「お、じゃあオレと勝負しようぜ」と言い出して彼らの陰謀が崩れるあたり、もうちょっと書き込んで欲しかったなあ。
『アポカリプスいろいろ』という本として刊行されたもの。これはこの『どこにいってたサンダリオティス?』と『エニスコージー・スウィーニーのハルマゲドン三つ』がセットになったもの。この二つをセットにする明確な理由があったのかというと……よくわからん。後者は、ラファティがあるところで、自分のお気に入り作品の一つとして挙げていて、だれも読んでくれなかった、二本立ての後半だったのでみんなそこまで体力が続かなかったんだろうとかグチっていたが、いや……そのせいじゃないと思う。変な天才のわけのわからん生涯の断片を並べた代物で、読んだあとで「これをオレにどうしろと……」と途方にくれる、ありがちなラファティ。まあこっちもそのうち訳すでしょう。
ちなみにこの原書、一時は決して手に入れやすくなかったんだが、最近 Kindle版が出て、とてもすぐに読めるようになりました。安いよ!
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